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14:会合は踊る

「神器を真っ先に求めてくるとは、豪胆なことだな」

「それは当然のことであろう? 普通は神器が量産されるなどと誰が信じる? ならば実際に証明の品が欲しいと思うものだ」

「理解はするが、そう簡単に渡せる物でもない。幾らアイオライト王国に信頼があり、その使命に理解があろうともな」

「当然の話だ。だがな、ベリアス殿下よ。確かに神器の量産、その話に乗るのは我が国にとって有益である。しかし、だからといって我が国は他の国に寄りかかるようなことは出来ぬのだ」


 テティス女王は表情を引き締め、目を細めながら言った。


「故に対等の取引がしたい。それが不可能であるならば、残念に思うが我が国が積極的に関わるということは出来ぬ」

「テティス女王の思いは理解しているつもりだ。ならば逆に問うが、そちらが差し出せる対価とは何だ?」

「神器の効果がどれだけにもよると思うが……そうさな……」


 ベリアス殿下の問いに、テティス女王はそっと指で唇をなぞりながら。


「我が国が差し出せるのは知識であろうな」

「知識……確かに、アイオライト王国の知識の保有量は他国にひけを取らないことは間違いない」

「うむ。助言者などとしてグランアゲート王国に派遣することも検討出来よう。流石に資料そのものを持ち出すとなると難しいが、人を出向させるなら問題なかろう。勿論、何でも喋る訳にはいかんので、その判断も含めてとなるが」

「アイオライト王国の知恵者の助力の魅力は大きい。グランアゲート王国も教育には力を入れているが、アイオライト王国との方向性は違うからな。両国の視点の違いから更なる発見や発展が得られるかもしれない」

「今の我が国に余裕はないが、神器によって派遣する人材を補うだけの働きを補填出来るのであれば喜んで協力を申し出たい。我が国は自給自足が主であり、人材も自国で育てなければならぬ。人材は我が国にとって欠かすことの出来ぬ宝なのだ。そう簡単には手放せぬのだよ」


 テティス女王の話を聞いていると、本当にかつてのラトナラジュ王国とは真逆の道を行っているように思える。

 あそこは積極的に婚姻を結ぶことで人材を送り出したり、縁を結んで国を保とうとしていた。アイオライト王国はその逆で、人材をしっかり国で囲い込んで育てることで自国の勢力を維持しているという訳だ。

 そりゃ普通に外交してたら仲良くなれる筈ないよね。


「……で、あれば。テティス女王が求める神器というのは、神器を振るう者が一騎当千の力を得るようなものが望ましいということか?」

「そういう事になるな」

「流石に神器そのものを提供せよ、と言われれば難しいが……こちらが量産を目論んでいる準神器級の武器ではどうだろうか?」

「それはあくまで最低限であろう? もう少し色良い返答を頂けないものかな? 何も悪用するとは言っておらんし、良いであろう?」


 まるでおねだりをするようにベリアス殿下に上目遣いを向けるテティス女王だけど、ベリアス殿下は一切不動だった。

 やっぱり、これが通常運転なのよね。ってことは、アネーシャ様に対しての態度を考える限り、そういうことなんでしょうね……。


「そちらは知恵者の派遣、こちらは神器の提供。そして、そちらが望むのは派遣した人員を埋める成果をあげるだけの強力な武器だ。それならば純正の神器でなくても構わないであろう?」

「ふむ、互いに求める最低限は認識が取れたな。……時にベリアス殿下よ、其方は婚約者が未だに決まっていないと聞いていたが」

「……何?」

「なに、こうした国同士の取り決めには常套手段であろう? 我が王家は女王が即位すれば、その兄弟姉妹は貴族の家に養子に出されるのが慣わし。其方と近い年齢の元王女もいる。そう、例えばここのアネーシャなどとかどうであろうか? 娶ってみぬか?」

「ちょっ!?」


 思わず声が漏れてしまった。ニヤニヤと笑みを浮かべたテティス女王の顔を凝視してしまう。どうしてそんなタイムリーな話題を投じるの!?

 恐る恐るベリアス殿下の様子を探ると、完全に硬直してしまっていた。表情も変わっていないので動揺を隠せているようにも見えるけれど、ただ単に思考停止してるだけだ、これ!


「アネーシャは妾に女王の座を譲ったが、その優秀さは今でも讃えられている。女王になれなかったのも、その資質が女王よりも幅広い分野に恵まれていたからだと妾は考えている。女王の資質では姉妹の仲でも譲らぬと自負している妾だが、アネーシャ……いや、敢えて姉様と言おう。アネーシャ姉様はもっと幅広い活躍を望めるだろう。グランアゲート王国に派遣するのには適した人材とも言える」

「女王陛下……お戯れを」

「少しは自慢させておくれ、アネーシャ姉様。その優秀さを見込まれて現大公家の養子となり、衛士として目覚ましい活躍を遂げている。更には我が国が誇る図書館の司書資格まで有しているし、一人で何十人分の働きもする自慢の人材よ。そして身内贔屓ではあるが、とても優しく、思慮も深くて、王族としての責務にも理解がある。それは他国でも通じる才であると妾は確信しておる。何より病知らずで健康そのもの、世継ぎに関しても展望は明るいというものだ!」


 困ったようにアネーシャ様が表情を取り繕いながらテティス女王を諫めようとしているけれど、テティス女王は悪戯ッ子のような顔を浮かべて言葉を続ける。

 アネーシャ様は遂に表情を崩して、恥ずかしそうに身を捩りながら手で顔を隠してしまった。気の毒すぎる……。


「それに神器の量産計画にアイオライト王国が乗り出すとなれば、今までとは国同士の距離感も変わると言えるだろう。その中で我が国の送り出す人材が最も力を発揮出来るのはグランアゲート王国であろうとも思っている。ラトナラジュ王国は立て直しの最中であるし、ジェダイト王国は論外だ。あの国はそこまで我々に対して旨みを見出すとも思えぬからな」


 ……まぁ、ジェダイト王国は蛮族って呼ばれたりする程に荒々しい国だしね。脳裏には今はラトナラジュ王国の王妃となったナハラ様の浮かぶ。うん、その予測は間違ってないと思う。


「であれば、やはり足並みを揃えやすいのはグランアゲート王国ということだ。元よりそこまで互いの国の関係は悪くない。婚姻で両国の関係を結び直すのは国民にも示すことが出来る最良の一手だと思っている。……まぁ、それもベリアス殿下の気持ちを優先したいと思っているが」

「お、俺は……いえ、私は……」


 動揺のあまりか、素が出そうになったベリアス殿下がぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜるように掻いている。それを見て、テティス女王が舌を舐めずったのが見えた。


「ふふ、満更でもなさそうか? では滞在の間、ベリアス殿下の傍にはアネーシャ姉様を……」

「――失礼、皆様」


 ブチッ、と。そんな音が聞こえたような気がした。低い声で私たちに満面の笑みを浮かべながら言ったのは話題の渦中であるアネーシャ様その人だ。


「――テティス」


 敬称ではなく、名前で呼ぶアネーシャ様の声は恐ろしいほどまでに冷たい。表情も笑顔なのに恐ろしさしか感じられない。

 びくり、とテティス女王が身を竦ませた。同時にテティス女王の傍に控えていた人たちが音もなく、かつ素早く距離を取った。


「……貴方、もしかしてこれを狙って私を迎えに上がらせたの?」

「……あっ、いや。ははっ、少し、戯れが過ぎてしまったようだ。この話はここまでということで……」

「テティスッ!」


 プルプルと身を震わせて、なんとか話題を転換を試みようとしたテティス女王の頬をアネーシャ様が勢い良く抓り上げる。

 見てるだけで目を背けたくなるような光景だ。とても痛そう。案の定、テティス女王はアネーシャ様の手を掴みながら藻掻き始めた。


「いひゃい、いひゃい! ごべんなざい! あねひゃま! いひゃいです!」

「貴方がよく考えた上で起こした行動なのだろうとは思うけれど、どうせ上手くいったことで悪戯心が出たのでしょう? ふふ、本当にこの子ったら目を離すとすぐにこういう事をしちゃうのよねぇ?」

「ひぎぃ、ひぎぃれる! ほほぉ! ひぎれるぅっ!」

「いっそ千切ってしまいましょうか? 毎回、毎回、人をからかって……! 反省しなさい!」

「いぎゃーっ!!」


 突然始まってしまった姉妹喧嘩の光景に呆気取られていると、何とも言えないような表情でこちらを見ているラッセル様と目が合った。

 ラッセル様は一つ頷いてから、そっと口元に人差し指を当て、そのまま目を閉じて両手を耳に添えた。

 見なかったことにしてあげましょう。そんなラッセル様の声が聞こえたような気がして、同じく指示が見えていたシエラたちと一緒に目を閉じて耳を塞ぐのだった。

 

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