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12:王都アトランティア

 船に襲いかかる魔物を退けた後、船は穏やかな航海を取り戻していた。

 ……そんな穏やかな船旅とは裏腹に、私の目の前にはどんよりとした空気を纏っているアネーシャ様がいる。


「……カテナ様、助太刀ありがとうございました。まさか二体目まで来るとは思わず、お手数をおかけしました」

「いや、そんな気にしなくても……」

「……そうですね。我が国が誇る衛士の必須技能である水上歩行を見ただけで可能とされる方にとっては、あの程度の事など些末事なのかもしれませんね……私だって年単位の修行をして出来たのに、見ただけで出来ちゃうって何でしょうね……?」


 どんよりとしたアネーシャ様の目からどんどん光が失われていき、今にも膝を抱えて小さくなってしまいそうだった。

 そんなアネーシャ様にどう声をかけたものかと思いながら皆に目を向けるけれど、諦めろと言わんばかりに首を左右に振られた。

 全員、まったく乱れもなく同じ動きをしているんじゃないよ! そんなに私のやった事はダメだった!? ……ダメだったかもしれない。


「……あー、アネーシャ殿」

「……ベリアス殿下?」

「貴方よりカテナとの付き合いが長い故に言わせて貰うが……あまり深く考えすぎるな。これは想定の斜め上をいくことに定評があるからな。真面目に付き合い過ぎると無駄に疲れるぞ」

「私の評価、酷くない!?」


 思わず抗議したけどベリアス殿下には無視されるし、他の皆も頷くだけで否定するような気配がなかった。

 そんな私の扱いを目にしたアネーシャ様はキョトンとした表情を浮かべた後、肩の力を抜いて苦笑を浮かべる。


「……なんとなくわかりました。付き合いが長い方でもそうなるのですね」

「もうカテナだからな、で我々の間では通じてしまう程だ。だから貴方がそのような顔をする必要はないのだ。全部、こいつが悪い」

「言われたい放題なんですけど?」


 私の訴えをベリアス殿下は華麗にスルーした。そんな私たちのやり取りを見て、アネーシャ様の表情がようやく和らいだ。


「……なるほど、よくわかりました。ベリアス殿下には良ければ色々とご教授頂きたいほどです。今後の心の安寧のためにも」


 クスクスと笑いながら冗談のように言うアネーシャ様に、ようやく私は胸を撫で下ろすことが出来た。このまま落ち込ませていたら気まずいなんて話じゃないからね。

 ……ところでご教授頂きたいというのは流石に冗談だよね? まさか、もうびっくり箱人間みたいな認定を受けてる訳じゃないよね?


「魔物の襲撃はありましたが、もう間もなくアトランティアにつきますのでご安心ください。船旅も終わりますので、船酔いも良くなるでしょう。それまでゆっくりお休みください」



   * * *



 アイオライト王国の王都アトランティア。

 ようやく間近に迫ってきたかの王都が見えてきたということで、その姿を見に行ったんだけども完全に島にしか見えなかった。

 緑が生い茂り、どこか風光明媚な建物が並んでいる姿は穏やかな街並を演出しているように見える。島の中心には遠目から見てもわかる立派な城が二つ並んでいる。

 この片方が図書館なのだと言うのだから、その規模に驚くのは当然の話だと思う。


「……これが船なの? どっからどう見ても島じゃん」


 思わず呟いてしまう。実際に目にしても、このどう見ても島としか思えないものが船だとは思えない。


「動かした記録は遙か昔ですけれどね。動作の確認だけは毎年、行っていますよ」

「……それを聞いてしまうと、神器って何でもありだと思ってしまいますね」


 アネーシャ様が伝えてくれた事実に私は何とも言えない顔をしてしまう。こんなの前世にも存在しなかったような存在だ。こんな大きな島が船のように動くなんて、それこそ創作の中でしかあり得なかったようなことだ。

 同時に神という存在がどれだけ規格外なのかも実感することが出来た。伊達に魔法や加護を人に授けられるような存在だ。


(それだけの力を持ってても表立って魔神や魔族と戦えないから、人に力を貸し与えてるってことなのかもしれないけれど)


 そんな事を考えている内に王都アトランティアに私たちは入港した。

 入港したといっても、島の外にある表の港ではない。島の内部、そして王城に直接繋がっているという特殊な港に船が入っていった時は、どんなSFだと思ってしまった。


「ここだけ妙に世界観が違う気がする……やっぱりオーバーテクノロジーだよ、こんなの……」


 そして、私たちは遂にアイオライト王国の王都、アトランティアへと足を踏み入れるのであった。

 船から下りてすぐ、伝令の人から何か伝え聞いたアネーシャ様が少しだけ渋い表情を浮かべた。少し悩んだように頭を抱えた後、アネーシャ様は私たちに声をかけた。 


「申し訳ありません。着いて早々ですが、女王陛下が皆様との会合の場を設けるとのことです。支度をお願いしてよろしいでしょうか……?」


 着いて早々というのは確かに気が早いかもしれないけれど、陸地に上がった途端に元気を取り戻していたベリアス殿下はあっさりと頷いた。


「話が早いのはこちらとしても望む所だ。了承すると伝えてくれ」

「本当に気が早くて申し訳ありません。少しお休みを取ってからでも良いと思うのですが……」

「気遣いには感謝する。ありがとう、アネーシャ殿」


 ありがとう、と告げるベリアス殿下は柔らかく微笑んだ。その微笑みにアネーシャ様がほっと安堵したような笑みを浮かべて、少し照れたように髪先を弄っている。そんな二人の様子を思わず二度見してしまった。誰だ、お前!?

 本当にあれはベリアス殿下なの? 女生徒に声をかけられても仏頂面しか浮かべないし、女性への気遣いなんかもいまいち足りてなくて、結婚なんかして大丈夫なのか心配になってたベリアス殿下?

 もしかして、いつの間にか偽者とすり替わってた? 最初から影武者だったりする?


「……ラッセル様、あのベリアス殿下について一言」

「嘘でしょう? という気持ちでいっぱいですが……」


 少し離れた所で遠い目をしていたラッセル様に確認してみると、ラッセル様は力なく呟いて眼鏡ごと顔を押さえていた。


「いえ、その誰かを恋い慕うということは大事です。私も妻がいる身ですからね……ただ、なかなかタイミングというものは自由にならないものですね」

「……えっ!? 待ってください。ラッセル様、結婚してたんです!?」

「はい? ……あの、私は二十五歳ですよ? 妻を持っていて当たり前の年齢なのですが……?」

「……言われると、確かに?」


 グランアゲート王国の結婚は二十歳頃が適齢期だと言われてるし、それを過ぎたら行き遅れ扱いされるような国だ。

 二十五歳だと言うラッセル様が結婚していても不思議ではないと思ってたけれど……。


「えっ!? でも、ずっとウチの領地にいませんでしたか!?」

「仕事でしたし……それに帰省した際には毎回顔を出していましたよ?」

「全然そんな気配とか雰囲気ありませんでしたよ?」

「いや、ですから仕事ですし……そんなに私は甲斐性がないように見えますか?」

「そういうつもりで言った訳ではないのですが……」


 仕事に専念して、そういった気配を感じさせないという意味ではまったく気付いてなかったので完璧だとは思うけど。

 そっか……ラッセル様、結婚してたのか。確かに騎士としてしかラッセル様と接してこなかったように思える。プライベートの話なんかも、振り返って思えばあまりした事がなかった。


「……まぁ、それは置いておきましょう。奥様についてどんな人なのかとか聞きたいですが、それよりもベリアス殿下です。あれ、大丈夫なんですか?」

「……恋は盲目とは言いますが、いや、大丈夫、だと、思いたい、です、ね?」


 歯切れ悪く言ってからラッセル様は黙り込んでしまった。ラッセル様の視線の先には、お見合いで顔を合わせた二人のように微笑み合ってるベリアス殿下とアネーシャ様がいる。


「……身分的には釣り合いそうなんですけどね」

「ラッセル様までシエラと同じこと言わないでくださいよ……」



  

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