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09:衝撃の出会い

 次の日の朝、私たちは王都アトランティアへと向かうための船に乗船するために港に訪れていた。

 多くの船が並ぶ中で、私たちが乗るだろう船は一目でわかってしまった。理由は、どう見たって他の船と違い過ぎるから。


「……こういうのオーパーツとか、オーバーテクノロジーって言うのかな」


 港で一番多く見かける船といえば、やはり帆船である。小型のものから大型にかけてまで様々な船がある。

 その中で〝帆がない船〟なんて並んでれば、それはどう見たって目立つ。帆船の隣に前世で言う所のフェリーみたいな船が並んでるんだよ? 明らかにおかしいでしょ?

 アトランティアは島の如く大きな船だとは聞いてたけど、こんな異質な船を見せられてしまうと納得してしまう。


「技術の差とかどうなってるのよ……あれも神器だとか言っちゃうの? 神器って言えば許されるとか思ってないわよね? そこら辺、どうなんです? ミニリル様」

『禁則事項だ』

「出たよ……」


 何か知ってる筈なのに自分からは教えてくれないミニリル様に舌打ちしつつ、物珍しさから私と同じように船を眺めている皆に視線を移す。

 ……あまり深く考えても仕方ないか、切り替えていこう。


「ベリアス殿下、この船に乗ってアトランティアに向かうんですよね?」

「あぁ。あれは恐らく王族が所有しているという特殊な船なのだろうな」

「王族……えっ、じゃあ、あの船って王族が乗ってる可能性が?」

「恐らくな」


 そんな話をしていると、私たちの方へと歩いてくる一団が見えた。

 アイオライト王国の服装は和服にギリシャっぽさを足して割ったような服装だ。その中でも特に刺繍の柄が見事で、やんごとなき身分であることを窺わせる少女は酷く目立っていた。

 その少女は透き通る青空のような空色の髪を腰まで垂らしていて、歩く度に風と戯れるかのように揺れている。こちらを見つめる青緑色の瞳には愛嬌があり、好奇心の光が浮かんでいるのがよくわかった。


「初めまして、ベリアス・グランアゲート王子。そしてグランアゲート王国の使者の皆様。私はアネーシャ・キュルケ、この度、案内役と護衛を務めさせて頂きます。どうかよろしくお願い致します」


 アネーシャと名乗った少女はどこか人懐っこく、それでいて押しが強いという訳でもない。言うなれば、ふと吹き込んだ爽やかな風のように懐へと入り込んでくるような人だ。

 彼女がこの一団のトップなのだろう。気難しい人じゃなさそうで良かった、と思っているとラッセル様が小声でベリアス殿下の名を呼んでいた。しかも一度じゃなくて、二度ほど呼ばれてる。

 はて? と不思議に思った私がベリアス殿下を見ると、ベリアス殿下はアネーシャに視線が奪われたように固まってしまっていた。


「……失礼した。私はグランアゲート王国より陛下の名代として参ったベリアス・グランアゲートだ」

「はい。ここまでの旅、お疲れ様でした。セイレンでは羽を伸ばされたでしょうか? ここからは私たちの誇りであり、自慢でもある魔導船による船旅を満喫して頂ければ嬉しく思います」

「貴方が責任者である、と。この魔導船なるものは王族所有の船とお見受けするが……」

「はい。臣下の家に養子入りしておりますが、私は現女王テティス・アイオライトの姉に当たります。陛下から貴方たちのお迎えに上がるにあたって預かることとなりました」


 女王の姉! 事前に聞いてた通り、女王にならなかった王族は臣下の家に養子として入っていると。それにしても妹の方が女王に即位したのか。どういった基準で女王って選ばれてるんだろう?


「改めまして、我が新たな女王の即位を祝うために訪れてくれてありがとうございます」

「アイオライト王国は四大王国の中でも特殊であり、そして欠かすことの出来ない役割を担っている。同じく神より連なる国の王族として、当然の務めだ」

「それは大陸の盾であるグランアゲート王国とて同じこと。今後も両国が共に手を取り合うことを心より願っております」


 アネーシャ様が眩しいまでの微笑を浮かべてベリアス殿下へと手を差し出す。ベリアス殿下は握手を返しながらも、心あらずと言った様子でアネーシャ様を見つめている。

 ……おやおや? これは、まさかのまさかでしょうか? ラッセル様まで二度見してますけど、嘘でしょ?


「……元王族なら身分は釣り合うでしょうか」

「シエラ、しーっ。そのお口を閉じておこうねっ?」


 小さな声で呟いたシエラの口元に手を当てて強制的に閉じさせる。

 いやいや、まだわからないって。あのベリアス殿下がまさかの一目惚れなんて、まだわからないでしょう!? そんな事ある!?

 触らぬ神に祟りなし。藪を突いて蛇を出す必要はない。リルヒルテ、レノアと目が合うと同じ思いだと言わんばかりに無言で頷く。

 そんなこんなで妙な緊張感を抱いたグランアゲート王国側の面々。そんな私たちにアネーシャ様は不思議そうに首を傾げていた。



   * * *




 まさかのベリアス殿下の予想外すぎる反応に戦慄し、緊張を抱えていた我々だったけど、これまた事態は予想外の方向へと転がった。

 アトランティアへと向けて出発した魔導船による船旅は快適だった。速度も出るし、揺れも私からすれば大したこともない。

 そう、あくまで私は、である。この船旅が始まって早くも数時間――ベリアス殿下は青白い顔でベッドの上の住人になっていた。


「……まさか船酔いでダウンするとは思わないじゃん?」

「うるさいぞ……」


 本当に気持ち悪そうで、悪態を吐く声にも力が入っていない。

 尚、別のベッドではベリアス殿下と同じように船酔いで苦しんでいるレノアがいた。その傍でリルヒルテが甲斐甲斐しく面倒を見ている。


「お、お嬢様……申し訳、ありません……」

「いいのよ。船酔いはどうしようも出来ないもの。アネーシャ様もそう言って下さったでしょう?」


 最初は今後の予定とかをもっと相談する筈だったんだけども、会議の途中でベリアス殿下が船酔いによる体調不良で休みを取ることとなり、そこで同じくレノアが根を上げてしまった。

 今はラッセル様がベリアス殿下の代わりに対応している。まさか、泳げない組だった二人が船もダメとは。海と相性悪すぎなんじゃないの?


「……いや、こうしてベッドで大人しくして貰えるなら逆に良かったのかも?」

「……何の話だ」

「こっちの話だから」


 目元に濡れたタオルを乗せたベリアス殿下は、ちらりとタオルをズラして私を見た。けれど何も言わず、そのまま無言で唸るだけの存在となった。

 辛そうな所、申し訳ないけれどアネーシャ様に見せた反応が気になる私としては距離を取ってくれた方が安心だ。まだ確信が持てた訳じゃないけど、もしそうだった時にどう対応すれば良いのかなんてわからないし。

 そう思っているとノックの音が聞こえた。中に入ってきたのはラッセル様だった。


「ベリアス殿下、レノア。酔い止めの薬を頂いてきましたよ」

「……無様を晒しているな、面目ない」

「そんな事を仰らないでください、ベリアス殿下。この船は揺れも少ないのですが、それでも船酔いになる時はなりますので」

「アネーシャ様!?」


 ラッセル様の後に続いて入って来たのはアネーシャ様だった。驚いた私の声に反応して、ベリアス殿下は顔の上に乗せていたタオルを剥いで起き上がろうとする。

 そんなベリアス殿下の肩をそっと抑えて、ベッドに寝かしつけて額を撫でるアネーシャ様はとても慈愛に満ち溢れた表情を浮かべていた。


「無理をなさらないでください。病に身分の貴賤はありませんから」

「しかし……」

「いいのです、少しお眠りになってください。船旅も終われば良くなりますから、何も心配することなどないのです。国王陛下の名代という役目にさぞ気を張っていたのでしょう? 今はどうか安らかにお休みください」


 アネーシャ様の優しい音色の声にベリアス殿下がまた呆けたように彼女の顔を見つめたけれど、それも一瞬で横になってタオルで顔を隠してしまった。

 なんだ、この空気。凄い居たたまれないんだけど。そんな気まずさを味わっていると、アネーシャ様が私へと視線を向けた。


「後で船医に足を運んでもらいます。まず、ゆっくりお休み頂くのが一番でしょう。船酔いされてない方には少々退屈かもしれませんので、私が話し相手を務めさせて頂きますね」

「……貴方様が自らでしょうか?」

「今は家臣の身ですので傅かれるような立場ではありません。……特に貴方には傅かれるなんてとんでもありませんよ」



 ――そうですよね? 最新の〝神子〟たるカテナ・アイアンウィル様?



 

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