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04:私たちは日々を積み重ねて行く

「カテナさん、話とはなんでしょうか?」


 学院の放課後、研究室に訪れたリルヒルテだけを連れ出して私は彼女と向き合う。


「リルヒルテにお願いというか、提案があるんだけど……嫌だったら叩いてくれてもいいよ」

「……一体何でしょうか? そこまで前置きをされて言われる話だなんて恐ろしい限りなんですが」

「じゃあ、率直に言うけど。リルヒルテ、最近伸び悩んでるでしょ? レノアが順調に刀を使いこなしてるのに自分は、って」

「……ッ」


 リルヒルテが目を見開き、私から目を逸らして自分の身体を抱くように片手を回した。


「……それは」

「色々と理由はあると思うんだ。リルヒルテの魔法適性とこの国の剣術の基礎が噛み合ってないとか。それが積み重なってレノアとの差が出来てしまってる」

「……私にカテナが合ってないと?」

「うん。今のままだったらね」


 リルヒルテは私の言葉を受け止めて、唇を噛み締めながら俯いた。今にも泣き出してしまいそうなリルヒルテの両肩に手を置いて、私は言った。


「だから新しい刀を作ろうと思ってるの。リルヒルテにはそれを試して貰えないかなって」

「……えっ? 新しいカテナを……ですか?」

「そう。きっとリルヒルテにはそっちの方が合うんじゃないかなって思うんだ」

「その……新しいカテナというのはどういった代物なのですか?」


 困惑半分、期待半分といった様子でリルヒルテが身を乗り出そうとしてくる。そんな彼女の肩を抑えて落ち着くように言う。


「新しいといっても長さを変えるだけなんだけどね。今よりも短い刀を作るつもり」

「短いカテナ、ですか?」

「うん。それを二本、リルヒルテには両手で使って貰おうかなって」


 私がリルヒルテに提案するのは二刀流だ。これから作ろうとしているのも前世で言う所の小太刀や脇差に該当するものだ。


「ミニリル様にも尋ねたけど、二刀流には防御や打ち払いに優れた型があるって話なんだよね」

「防御に優れた型……」

「リルヒルテはどうしても小柄だし、魔法の属性から考えても剣術で力押しの勝負をすればレノアに勝てないと思う。同じ土台で勝負しても駄目なら手を変えてみようと思ってね。それにリルヒルテは魔法も得意なんだから、攻撃は魔法で、防御は刀でやってみても良いんじゃないかと思ったんだよ。魔法と組み合わせれば刀が短くてもリルヒルテなら気にしないでしょう? だからどうだろう? 一度、試してみない? 合わないようだったらまた別の方法を考えれば良いし……」


 私がそう言うと、リルヒルテの瞳からぽろりと大粒の涙が零れた。思わずギョッとしてしまう。やっぱり傷ついてしまったのかもしれない、どうにかフォローしないと……!

 慌て出す私に対して、リルヒルテは力を抜いたようにクスクスと笑いだした。そして涙が浮いた瞳を指で拭う。


「貴方という人は本当に……別に命じてくれても良かったんですよ? 新型の試験をしたいと」

「でも、リルヒルテの夢は姫様たちの護衛になることが夢でしょう? そのために強くなろうとしてるんだから、合わないことはさせられないよ」

「……優しすぎますよ、カテナさんは」


 柔らかい微笑を浮かべたまま、リルヒルテは困ったように眉を寄せた。


「わかりました。では、私が新型のカテナの性能試験を引き受けさせて頂きたいと思います」



   * * *



 リルヒルテの了承も得て、二刀流用の長さに調整した刀を用意。その間にリルヒルテも二刀流が出来るように訓練を始めるようになった。

 そして時は過ぎ、リルヒルテ用に作り上げた刀が出来上がったので試験性能をすることになったんだけども……。


「いやぁ、うん。酷いね」

「これは……凄いですね」


 今、私とシエラの目の前でリルヒルテが大暴れしている。相手をしているのはレノアだけども、顔がやや引き攣っているように見える。

 まだこの世界での名称は決まっていないので私は小太刀と心の中で呼んでるけれど、二刀の小太刀を振るうリルヒルテは水を得た魚のようだった。


 その動きはまるでダンスでも踊るかのように激しく、立ち位置を素早く変えては風の刃や炎の矢を放っている。

 それを切り払ってレノアがリルヒルテに向かうも、まるで風の中を舞う木の葉のように捉えることが出来ない。


 ステップ、ステップ、ターン。小太刀を完全に攻撃を打ち払うものとして扱い始めたリルヒルテはレノアの攻撃を容易く捌いて、呼吸の間に魔法を放つ。

 リルヒルテの流れが一切途切れず、レノアは自分のペースに持ち込めずにいる。小太刀が出来る前までとはまったく逆の構図になってしまったとさえ言えた。


「二刀流とは言いつつも魔法を使うことも考えれば、最低でも三つ以上の武器を同時に操ってるようなものですね、あれは」

「魔法で鍛冶の手伝いをしている成果がここに来て出てきたか……」

「あの短いカテナを防御用と割り切って意識してるお陰で、視野が広がった上に反応速度が上がってます。下手に力押しで向かっても見ての通り、見事に抑え込まれてますね……」

「相手の攻撃を受け止めたり受け流すより、攻撃をさせないって方向に舵を切ったのは良かったのかもしれないね」


 制御の腕前を磨いたこともあってリルヒルテの魔法の制御は見事なものだ。元々、リルヒルテの得意としているのは中距離ほどの間合いだ。そこに踏み入れさせない、押し切ろうとしても小太刀による受け流しが来る。

 攻撃力という意味では前より落ちたかもしれないけれど、視野が広がって手数が増えている。総合的にリルヒルテの実力は上がっていると考えて良いだろう。


「でもレノアさんも負けてませんね」

「体力ならレノアの方が勝ってるし、一点突破に力を注いでるからリルヒルテがペースを保てなくなったら危ないかな。おーい、二人とも! もういいよー!」


 なので、怪我をする前に二人には稽古を止めるように声をかける。リルヒルテが実際に小太刀を使ってみて実戦で使えるかのテストだったのだから、これで十分だ。

 あとは実際に経験を積んでいくしかない。小太刀を使ってたリルヒルテだけじゃなくて、相手になっていたレノアからも感想を聞きたいし。


「カテナさん、見ててくれましたか!」

「見てたよ。使っててどうかな? こっちの方がリルヒルテに合いそうだと思ったんだけど」

「えぇ! こちらの戦い方の方が私には合ってるような気がするんです!」


 リルヒルテが勢い良く抱きついてきながら明るい笑みを浮かべている。その様子に悩んでいた頃の面影はない。思わず私も頬が緩んでしまう。


「リルヒルテ様だからこそ、でしょうね。恐らく私が持ち替えた所で同じようには出来ないと思います」

「お疲れ様、レノア。こればかりは相性だと思うよ」

「えぇ、本当に良かったです」


 苦戦させられていたレノアは穏やかに微笑を浮かべながら言った。自分が手こずらせられたことより悩みが吹っ切れたように見えるリルヒルテの様子が嬉しいのだろう。

 レノアは鍛冶を魔法で手伝うことによって一点集中のコツを、リルヒルテは魔法の制御力と広い視野を手に入れたと思えば、私の教えや稽古は効果を出しているのだろう。


「……リルヒルテ様が人に教えられるように型が身についたら私も短剣の手ほどきをして頂きましょうか」

「シエラ?」

「私もナイフを頂いておりますし、宝の持ち腐れにするのは惜しいので」

「良いんじゃないかな。シエラは少し身体を動かせるようになっておいた方が良いと思うし」

「……鈍臭いとか思ってませんか?」

「ドジではあると思うよ?」


 ぷく、と少しだけ頬を膨らませて睨んでくるシエラ。そんなシエラの頬を突くと余計に怒らせてしまった。そんなシエラの様子にリルヒルテとレノアが吹き出して笑い始めた。

 日々、一歩ずつでも前に。平和な日常を過ごしながら、私たちは積み重ねの日々を送っていた。

 



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