表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/118

07:両親に相談しよう、そしてダメでした!

「それでは暫し厄介になるぞ、神子よ」

「えっ、帰らないんですかっ?」

「何を言っている? お前には知識が足りておらぬし、何より未熟だ。我が導いてやると言うのだ。ありがたく思え。何しろ、地上に降りるための依代があるのだからな。それも誰の目にもついていない自由な器だ。楽しまずして何とする」

「器って……あっ、私の日本刀!」

「では、何かあれば呼ぶが良い」

「ちょっと……!」


 ヴィズリル様は、そのまま日本刀の中に吸い込まれるように消えていった。

 思わず伸ばした手は宙を掻くも、何も掴むことはない。暫し、呆然として思考を停止していたけれども、私はなんとか思考を動かして一つの結論に至る。


「これ、私の手に負えない! もう、お父様たちも巻き込もう!」


 お父様が卒倒しそうだけど、私一人じゃもう抱えきれないってこんなの!

 そうと決まれば善は急げ。鈴でメイドを呼び出して身支度を調えるのだった。



   * * *



「お父様! 見てください、以前から研究していた日本刀……ごほん、ごほん! 剣が出来ました!」

「おぉ……これがお前が長年、研究していたという砂鉄から鍛えた剣か」

「あらあら、ようやく形になったのねぇ」


 私は出来上がった日本刀の第一号をお父様とお母様に見せにいった。

 お父様は感心したように私から日本刀を受け取る。その横でニコニコしているのは私の母、シルエラ・アイアンウィルだ。


 お母様の見た目は、ちょっと和風な所がある。私と似たような色の黒灰色に、お兄様と同じ青空のような瞳を持っている。線が細くて肌も白く、黙っていれば儚さを感じさせる。

 儚いのは見た目だけで、何が起きてもおっとり流してしまえる強かさを持っている人なんだけどね、お母様。


「ほぅ……これは美しいな」

「あらまぁ……これは確かに飾っておいて眺めていたいわ」


 鞘から抜いて刀身を確認したお父様が少しだけ声を低くして言った。声を低くするのは、お父様が感心した時の癖だ。

 お母様はうっとりした目で日本刀を見つめている。ちょっと頬を赤らめているのは、どこか妖しげな魅力を感じてしまう。……大丈夫だよね?


「見事だ。ここまでの才能があるとは思っていなかったな」

「ありがとうございます、お父様! それでですね、一つ問題が起きてしまいまして……」

「問題だと?」


 私に日本刀を返しながら、お父様が眉を寄せた。私が日本刀を作り上げるために積み重ねた時間で、お父様も男爵家当主として経験を詰んでいる。一家の大黒柱として相応しい威厳を見せ、私と向き直る。


「実は、こちらの武器を完成させたら……女神が降臨してしまいまして、今、こちらの剣に宿っています」

「……………は?」


 私が告げた一言で、お父様の威厳が一瞬にして崩れ去ってしまった。

 同時に日本刀からヴィズリル様の端末が実体化して、私の隣に降り立った。現世に宿るための触媒として、私の日本刀を使っている子供サイズのヴィズリル様は不遜なまでに腕を組んでみせた。


「この神子の親か。我は美と戦を司る神、ヴィズリルが端末なり。崇め奉るが良い」

「あらまぁ、これはご丁重にありがとうございます。私はカテナの母のシルエラと申します。このようなしがない男爵家にご降臨して頂き、恐縮でございます」


 ヴィズリル様が出てくると、お父様は完全に動きを止めてしまった。代わりにお母様がいつものおっとりさのまま、挨拶をしている。流石、私の母様! こんな時でもマイペースだ!


「……カテナ、説明」

「武器が出来たら、女神様が降臨。これをお気に召し、私、神子になりました」

「……うぅん!」


 事情を簡単に説明すると、お父様は直立したまま後ろに倒れてしまった。そのままブクブクと泡を噴きそうなお父様をあらあらと言いながらお母様がのんびりと介抱を始める。


「それは大変な名誉ねぇ。良かったわね、カテナ」

「それが良くないんですよ、お母様」

「あら? そう? 確かに、王家の方々にもご報告しないといけないかしら?」


 お母様がお父様を持ち上げて膝枕の姿勢に移り、自分の頬に手を当てて小首を傾げる。

 私は王家と母上が口にしたので嫌そうな顔を浮かべてしまう。……やっぱり報告しないとダメ?


「とても名誉なことだけれど、普通に伝えても、隠し立てしても色々と面倒でしょう? この人が倒れてしまうぐらい」

「そうですね……」

「うーん……うーん……」


 意識は完全に失ってないのか、お父様が私たちの会話を聞いて顔色を悪くして痙攣し始めた。これはお父様にとって完全に許容外の事態だったみたいだ。本当に申し訳ない。私だって泣きたいけど。

 王家に報告しない、という選択肢は色々と不味い。何せ、本来神器なんて王家が所有しているようなもので、ウチのような成り上がり男爵家が持っているようなものじゃない。

 それを作りだした私のことを黙っているなんて、国に対して叛意があると取られてもおかしくない。


「カテナ、神子になったことを隠せるかしら?」

「……難しいかもしれませんね、神子としての使命も果たせって言われてるので」

「あら……それなら下手に隠すのは良くないわねぇ。それで、貴方はどうしたいの?」

「私はただ日本刀を作りたいだけです! 王家と近しくなりたい訳でもないですし、積極的に討伐にだって行きたくありません!」


 私は思いを込めて渾身の叫びを繰り出す。するとお父様の痙攣が酷くなって、顔色が青白くなってきた。……気のせいだと思うことにした!


「なるほどねぇ。……では、方法は一つしかないわね。ヴィズリル様」

「ほう、何だ?」

「どうか、娘の後ろ盾として立って頂きたく願います。その為に、我が家が差し出せる代価は御捧げ致します。何卒、そのご威光を借りさせて頂くことをお許し頂きたいのです。我が家ではこの子を支え、守り抜くことは不可能でしょうから」


 お母様は表情を引き締め、ヴィズリル様へと向き直りながら言った。その貫禄ある姿に思わず惚れ惚れとしてしまいそうだった。……その膝の上で青白い顔で痙攣しているお父様が見えなければ絵になったと思う程に。


「ほう……一体、どのような対価を差し出すと言う?」

「神々の思惑など、矮小なる人が察するには難解にございます。故にどうか、道を指し示して頂きたく思います。望まれるものがあるならば、この身を賭してでも捧げることを誓います」

「我は美と戦を司る神なり。神子の母よ、その美しい在り方に免じてこの娘が我を満足させる限り、庇護することを誓おう」

「真に光栄に存じます、寛大なるお心に感謝を。……と、言う訳でカテナ、頑張るのよ」

「あれぇッ!? 結局、私に全部丸投げじゃないですか、これ!?」

「だって、王家と事を構えるようなことなんて我が家に出来る訳ないじゃない?」


 そりゃ、そうだけど! うぅ、わかってたけど、なんか納得いかないなぁ!


「カテナ……」

「お父様……意識がはっきりしましたか?」

「夢だと思いたい」

「凄くわかります」

「……はぁ、とんでもない娘を授かったものだ。出来ることは少ないが、出来る範囲ではお前を助けるつもりだ。だが、カテナよ。私はアイアンウィル家の当主だ。悪いが、お前ばかりを優先は出来ない。それは予め言っておく」


 お父様はまだ顔色が悪いけれど、お母様の膝枕から起きて私に視線を向けながら言った。

 それは当然だ、と私は思う。お父様が王家に叛意を持ってると誤解されるような行動は控えないと迷惑を被るのは我が家だけじゃなくて、領民にも影響を与えてしまいかねない。

 既に私はアイアンウィル家から庇護されるには厄介事を抱えすぎている。出来る範囲でも何かしてくれようとしてくれるだけで十分だ。


「はぁ……ザックスに何て言えば良いんだ」

「兄様、引っ繰り返りそうですね」


 今は貴族学院に通い学院寮で生活している兄のことを思う。兄様も常識的な人だからなぁ、頭を抱えそう。


「ともかく、王家にはご報告するしかない。恐らく国王陛下と謁見することになるだろうが……お前は王家に入るつもりはないのだな?」

「嫌です、王族になんてなったら好きに鍛冶をやらせてくれなさそうじゃないですか!」

「王族だもの、王妃になったりする可能性もあるから今以上に勉強しないといけないかもしれないわね。王族入りを免れても、お抱えの職人になることを望まれるんじゃないかしら?」

「うぅん、それならまだ……?」

「だが、カテナの作った剣は美しいが形状が独特だ。それがお気に召さなければ、自分たちが望む武器を作れと仰るかもしれんな」

「えぇ……?」


 つまり、日本刀の製法で大剣でも作れって? それは私が作りたいものかって言われると違う気がする。

 私が日本刀を作りたかったのは自分の為だし、それ以外の武器を作れって言われても気が乗らない。


「ともあれ、王家に報告しなくては話が進まないな。心構えだけは済ませておいてくれ、カテナ」

「はーい……」


 次から次へと厄介事が……うぅ、私はただ日本刀作りを楽しみたかっただけなのにぃ!



面白いと思って頂けたらブックマーク、評価ポイントをお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ