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11:示す未来への道

 私の提案を聞いたハーディン殿下とナハラ様は呆気取られたような顔を浮かべ、ベリアス殿下とラッセル様は何とも言えない表情を浮かべてから額に手を当てている。


「……カテナ、お前はいきなり何を言い出すのだ?」

「私なりに考えた今後のラトナラジュ王国の道です」

「それが神器を作り出すという事とどう繋がる? 第一、お前以外に神器なんて早々に作れるものではないだろう。まさかお前がラトナラジュ王国に行くなどという話をする訳ではあるまい?」

「はい。当然、いきなり神器を作れって話は無理だと思ってます。でもラトナラジュ王国は魔法使いを多く抱えている国だと聞きました。それは間違いないですよね?」


 私は確認するようにハーディン殿下へと視線を向ける。突然、話の矛先を向けられたハーディン殿下は少し狼狽えながらも頷く。


「あ、あぁ。知っての通りだと思うが、ラトナラジュ王国は年々土地が痩せていったので国内の生産力が低下している。そんな中で日常生活に魔法を使って補填する者もいる。この点、グランアゲート王国とは国の状況が異なっているが故だと思うが……」

「そこです、まさにそれが聞きたかったんです!」


 ラトナラジュ王国は魔族が支配する領域とは接しておらず、だからこそ今まで魔族や魔物の脅威に直接晒されることは少なかった。

 だからこそ他国の貴人を預かるという昔からの風習が残っていたし、グランアゲート王国のように魔法を使えるなら国の防衛に役立てるという意識も薄い。

 だからこそ、生活にも魔法を使っているという状況は私が考えた構想とは噛み合うんじゃないかと思う。


「土地も痩せ、神の恩恵も失ったラトナラジュ王国では今後、他の国と縁を保つ理由がありません。国の守護を担っていた神器の継承が一度、途絶えてしまった事実は消せないですし、今の王族は正統なアーリエ様の神子とは言えない状況です。そこで神器です」

「そこに話が戻ってきたな……カテナ、お前まさか」

「はい。ラトナラジュ王国は今後、神器の研究を主として技術を発展させて他の国と取引すれば良いんじゃないでしょうか?」

「つまり、神器を作って売り出せと……?」


 確認するように問いかけるハーディン殿下に私は力強く頷く。けれど、これには誰もが渋い表情を浮かべていた。あのナハラ様でさえ訝しげな表情を浮かべている。


「……その、私でさえ荒唐無稽な話としか思えないのだが?」

「何も最初から完璧な神器を作り出せとは私も言いませんよ。でも、もしラトナラジュ王国が神器のように力ある武器を量産するような国になれたらグランアゲート王国でも、それからジェダイト王国でも国交を結び続ける理由になりませんか?」

「それは……」

「グランアゲート王国であれば有能な魔法使いは魔族や魔物との戦いにどうしても必要とされます。でも、ラトナラジュ王国では状況がまた違います。そっちの道に特化して進むことも出来るでしょう。それに職人の技術が育てば素材を取引して、それを完成品として輸出することで経済を動かすことだって出来ます」

「つまり、準神器級の武器の量産をラトナラジュ王国がするということですか?」


 ラッセル様が眼鏡を指で押し上げながら確認する。私はそれに頷いてみせる。


「ラトナラジュ王国では神器を摸した武器とかは作ってないんですか?」

「そういうことはしていないが……だがグランアゲート王国が神器を摸した武器を作り上げている話はごく一部の者が知っている」

「それはジェダイト王国でもだな。我が国は戦馬鹿が揃っている。武器を作るのはグランアゲート王国に任せておけば良い、という奴もいる程だ」

「だから魔族や魔物と戦う際に今よりももっと強い武器が作ることが出来れば状況が変わると思いませんか?」


 私がそう言ってみるけれど、皆は難しい表情を浮かべたまま何とも言えない様子だった。

 やっぱり私の素人考えだと難しいのかな……。


「……その最終目標は神器を自分たちで作ること、それもアーリエ様に捧げるものを作ることなのだな?」

「はい。それがアーリエ様にしてしまった不義理への贖いになると思いますし、ラトナラジュ王国に国家として新たな役割を得られると思います。武器とは言いましたけど、神器は別に武器である必要もないと思いますし」


 ラトナラジュ王国は戦いから離れた地を守ることで、預かった血の縁を繋ぐ役目を国として負っていた。

 でも、その在り方には思う所がない訳じゃない。王家や貴族の血を継いで、魔法の才能がある子を増やし、それを他国に助力として送る。それが正しく機能している間は良かったと思う。

 だけどラトナラジュ王族は己の享楽のために費やしてしまった。


「……これは不敬を承知で言います。ラトナラジュ王国に欠けてしまったのは誇りなんじゃないですか?」

「誇り……?」

「グランアゲート王国であれば魔族の侵攻の盾であることを誇りとしています。誰かを守ることを誇りと出来るから、ベリアス殿下を始めとした王族の方々は指導者として認められているのだと思います。きっとラトナラジュ王国だって誇りはあったと思います。でも、脅威が遠ければその実感もなくなっていっても不思議じゃありません。そうしてラトナラジュ王族は誇りの本質、芯の部分を失ってしまったんじゃないですか?」


 だからラトナラジュ王族は腐敗してしまった。守るべきものの意味を見失ってしまったからこそ、神器の継承が叶わないままに王族を自称していた。

 そう、ただの自称だ。王族が王族たる誇りを失ったとしか私には思えない。単純に腐敗しただけじゃなくて、その意味を見失ってしまったのもラトナラジュ王族の失墜に繋がったんじゃないかと。


「だから私は新たな意味を見つけるべきだと思ったんです。でも土地も痩せていて、グランアゲート王国やジェダイト王国とは違って直接戦う機会も少ない。ラトナラジュ王国がラトナラジュ王国という形のままで出来ることが武器を作ることに出来るんじゃないかって……」

「……しかし武器を作るのはグランアゲート王国の領分ではないか?」

「はい。だからあくまで一から作ることではなく、力ある武器、準神器級の武器の加工に手をつけたら良いんじゃないかと思ったんです。私は魔法を使って武器を作り上げることでヴィズリル様に認められる神器を生み出すことが出来ました。だから道はあるんです。その道を進むかはラトナラジュ王国次第ですけど……」


 そこまで言葉を続けた私だけど、段々と自信がなくなって声が萎んでいく。

 気まずい沈黙が流れたけれども、その沈黙を破ったのはベリアス殿下だった。


「……もしもの話だが」

「……ベリアス殿下?」

「もしも、ラトナラジュが準神器級の武器の加工技術を研究したいと言うなら、我が王国に最近出来た〝研究室〟があってな。そこに有能な魔法使いを派遣したり、支援をしてくれるなら友好国として手を取り合うことが出来るやもしれん。その〝研究室〟も大いに助かるかもしれんな」


 研究室、という言葉に私はベリアス殿下を見つめてしまう。ベリアス殿下は無表情を装っているけれど、その目は真っ直ぐハーディン殿下へと向けられている。


「更には、その研究室の室長の実家は良質な素材が採掘出来て、そこから優秀な武器を作り出すことで有名な家なのだ。買い手がつけば武器でも、その素材でも売りつければ大きく利益になるだろう。ラトナラジュ王国の復興の際に後ろ盾となってくれる可能性もある」

「……それは」

「ハーディン殿下。安寧の時の価値は俺とて知っている。知っているからこそ、王族は民にその安寧を与えるために努めなければならないと思っている。だが、民は庇護しなければならない愛玩動物でもなければ奴隷でもない。それぞれが誇りを持って生きなければ人は容易く腐り果てる。民が安寧の時を享受し、誇りを持って生きていける国が良い国だと言えるのではないだろうか?」


 その言葉をハーディン殿下は目を閉じて聞き入るように受け止めていた。そんなハーディン殿下の姿をナハラ様が静かに見つめている。


「……即決は出来ません。ですが、道を示してくれたことには感謝します。その道が正しい道なのかはまだわかりません。ですから私たちはもう一度、ここから正しい道を選ぶために力を尽くしていかないといけないのでしょう。王族だけでなく、民もまた一丸となって」

「ハーディン殿下……」

「私は王になります。簒奪者と言われても良い。遅きに失した無能と言われても構いません。ですが、私とて王族です。その誇りを貫き通したいと思います。ベリアス殿下、貴方と同じように」


 目を開き、決意を秘めた力強い笑みを浮かべてハーディン殿下はそう言った。

 すると、今まで黙って私たちの会話を見守っていたアーリエ様が声を発した。


『そろそろ、私はお暇しましょう。用事は済んだようですからね』

「……アーリエ様。恥じ入るばかりの身ですが、こうしてお会い出来ただけで嬉しく思います」

『私が失った愛し子、その末の子。もう貴方を私の子とは呼べないけれども、私は待っていますよ。そこのヴィズリルとカテナちゃんのように、人と神が友と呼べる日が来ることを』


 私はアーリエ様の言葉にビックリしたように目を開いて、ヴィズリル様へと視線を向けてしまう。

 するとヴィズリル様はぴくりと眉を動かしたかと思うと、思いっきり眉間に皺を寄せてしまった。

 そんなヴィズリル様を見て、してやったりと言わんばかりにアーリエ様は微笑む。


『安心なさい、人よ。私たちはいつまでも人を見守っています。貴方たちが見失わなければ、私たちの残した標は共に在り続けます。その標を忘れずに覚えていてくれるなら、私たちの道は彼方の未来であろうとも重なっているわ』


 アーリエ様はハーディン殿下へと歩み寄り、そっと頬に手を添えて額に口付けを落とした。

 ハーディン殿下は突然のアーリエ様からの口付けに硬直してしまう。アーリエ様はふわりと空中に浮かび上がり、ゆっくりと離れていく。


『カテナちゃん、感謝するわ。また今度、お話する機会があれば。それと……』

「えっと……何でしょうか?」

『ヴィズリルをよろしく。きっと、貴方たちが出会ったのは運命だから。魔を祓う人の子、滅びと似て異なる者よ。貴方の行く未来に祝福があらんことを』

「余計な口を挟むな。さっさと帰るが良い」


 忌々しそうにヴィズリル様がそう言うのと同時に、アーリエ様は穏やかに微笑んでゆっくりと光に溶けていくように消えていく。

 ハーディン殿下やナハラ様、そしてベリアス殿下とラッセル様も続いて跪き、祈りの姿勢を取った。

 そんな中で私は立ち尽くしたまま、アーリエ様が消えていくのを眺めてしまうのだった。

 

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