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06:望まぬ名誉はクーリングオフ出来ない

「……朝だ」


 気持ちよい朝の目覚めだった。優しく差し込む朝日、心地良い小鳥のさえずり。まさに穏やかな朝の風景だった。

 そうだ、きっと夢だったんだ。まさか日本刀が出来たら女神様が降臨するだなんて。ふふ、早く日本刀を仕上げないと。楽しみだなぁ。


「ようやく目覚めたか、新たな神子よ」


 なんか、いる。

 上半身を起こすと、何かふわふわと宙に浮いている存在が目に入った。

 それは夢の中で見た女神様が子供のように縮んだ少女だ。女神ほどの存在感はないけれども、それでも普通の存在ではないのは明らかだ。そもそも浮いてるし。


「……まだ夢の中みたいだ。寝よう」


 また布団を被って、少女から目を逸らすように目を閉じた。

 すると腹部に勢い良く衝撃が走った。私の腹に足を乗せた女神風の子供が良い笑顔を浮かべている。


「ほう? 本体から分かれた端末とはいえ、我を無視するとは良い度胸ではないか?」

「ぐぇーっ!? 夢じゃないーっ! なんかちっちゃいヴィズリル様がいるーっ! っていうか帰ったんじゃないんですか!?」


 私はお腹を押さえて悶えながらも、私を足蹴にしている子供を見る。どこかサディスティックな笑みを浮かべた子供はお腹をぐりぐりと踏みつけながら腕を組んだ。


「我は本体ではなく、お前のために誂えられた端末だ。本体が地上に降りるのは些か問題が多いのでな。代わりに我が本体の神託を届けたりする役割を担っている。本体と同じように崇め奉るが良い」

「えっ……別に要らないんですけど……ぐぇぇぇぇっ」

「何か言うたか?」

「足、足どけてください! 出ちゃう! 乙女として出ちゃいけない何かが出ちゃう!」

「ならば起きるが良い。本体からの言伝がある故な」

「言伝……?」


 現実逃避を諦めた私は布団から這い出て、ベッドの上でヴィズリル様の端末を名乗る子供と向き直る。何か凄く嫌な予感しかしない。


「神子としての役割の話だ。お前は神器を継承した訳ではなかったから、神子というのも詳しくは知らんのだろうと失念していたのだ」

「はぁ……うっかりさんですね?」

「不敬……?」

「ノー、不敬! イエス、尊敬!」

「そこはかとなく馬鹿にされているような気がするが……まぁ、良い」

「ごほん、ごほん。それで、えーと、神子についてですか? 確かに神子って言われても何ですか、それ? って感じですが」


 一応、神から認められた存在が神子と呼ばれることは知っている。その神子が建国して、今日まで続いている国が幾つか存在していることも。

 だから神子って言われると、それは主に王族とかの方に向けられる称号だ。神器だって王家だとか国を纏める人が所有している物がほとんどである。

 だから神子って何? って言われるとよくわからない、と答えるしかない。


「神子とは神に認められた地上での名代である。つまり、神の地上における仕事を代行する使命を持っている」

「……へぇ。具体的には?」

「うむ。お前は魔神を知っているか?」

「魔族の神、ですよね? 数多いる神々の中で、世界に仇を為して追放されたとか……」


 この世界には人類の不倶戴天の敵として、魔族がいる。魔族は人に似た姿のものもいれば、怪物だと言うしかない姿の者だとかを含めて魔族と呼ばれている。

 その配下に理を歪ませた獣や死者を蘇らせたりした物、つまりは魔物を従えて人々を襲う存在。

 常に国が軍備を整えているのは、この魔族や魔物に対する戦力を整えるためである。そんな背景があるからこそ、アイアンウィル領の功績が認められた訳なのだけども。


「神子の役割とは、つまり魔族と戦うことである。何せ、本体は戦いをも司るからな。奴等の暴虐を食い止めることも役割の一つだ」

「……えっ、嫌ですけど」

「は?」

「はぁ?」


 何言ってんだ、って顔されるけれど、それは私が言いたいセリフですけどぉ!?


「なんで好き好んで戦いになんて行かなきゃならないんです!? 私、ただの男爵令嬢ですけど!?」

「ただの男爵令嬢が神器になる武具を作れる訳がなかろう?」

「武器を作れたとして、武器を作る人が戦いにいける訳じゃないですからー! なんで私が魔族と戦わなきゃいけないんです!?」

「神から直々に授かった名誉であるぞ?」

「クーリングオフは可能ですか!?」

「クーリン……? よく分からんがやはり不敬であるな、貴様!?」


 くっ、駄目そうだ……! どうしてこんな事に……! 私はただ日本刀を作りたかっただけなのに!


「……言わせて貰うがな。お前が作り出した武器は今後、多くの注目を集めるだろう」

「はぁ……そ、それが何か?」

「神器になり得る武具を生み出せるお前の存在が知られればどうなるか、火を見るよりも明らかであろう? 下手をすれば、魔族から身柄を狙われても不思議ではないぞ?」


 思わず考える人のポーズを取ってしまう私。確かに日本刀が神器になり得るものだとするなら、その価値を知れば王族が黙ってないだろうと思う。人類や神と敵対している魔族にバレてしまえば命だって狙われる可能性もあると言われると否定出来ない。

 ……あれ? まさか、私の平穏な人生設計は既に詰んでいる……?


「本体はお前を保護するつもりでもあったのだろう。他の神々もお前のことを知れば放っておかないだろうからな」

「神々まで!?」

「まぁ、独占とも言うが……」

「それ本当に保護になるんですよね!?」


 ダメだ、何を聞いても不安要素しかない……!


「それだけお前の作る剣は素晴らしいのだ。製法も独特で、それ故にであろうな」

「製法って……魔法を使っただけですけど?」

「その魔法は誰が齎したものだ? それは神々が人に授けた技だぞ?」

「あっ」


 魔法は神々が人に与えたものだ。魔神が神々によって追放され、自らの眷属である魔族を生んだことで人に脅威が迫った。それに対抗するために授けたものが神器や魔法と言われている。

 つまり、元々魔法とは神々の技だ。その魔法を存分に駆使して生み出した日本刀が神器にならない方がおかしいと言われると否定が出来ない。


「えっ、じゃあもしかして魔法なしで日本刀を作っても神器にはならない……?」

「どうであろうな? そればかりは完成品を見てみないと判断は出来ぬが……可能性は低いであろうな」


 ……つまり被害を分散させることも出来ない!? ふっ、これが転生者であるが故の私SUGEEか……私の時代が始まってしまったな……?


「おい、現実逃避をするでない」

「嫌だ! どうして私が! 私は日本刀を作りたかっただけなのに!」

「だから、それ故に狙われる可能性を生んだのであろう?」

「ちくしょうっ! 世界が私に対してハードモードだ!」


 このまま泣き寝入りをしたい。誰が好き好んで戦いたいなんて思うんだ! 私は刃物は好きだけど、刃物で斬り付けて興奮するような性質(タチ)じゃないのに!


「まぁ、落ち着け。本体も力をつけろ、とは言ったが積極的に戦いに行けとは言っておらん」

「……と、言うと?」

「お前が造り出す者であることが本分なのは理解している。だが、お前の作った武器は既存にない〝未知〟のものだ。それをどう扱うのか、一番知っているのはお前ではないか?」

「……まぁ、確かに」


 日本刀は西洋剣とは扱い方が違うと言えば、その通りだ。敢えてシンプルに言うなら西洋剣は〝押し切る〟もので、日本刀は〝引き切る〟ものだ。

 多分、いきなり日本刀を渡して扱いこなせる人がいるかと言われると難しいかもしれない。


「お前の生み出したものは価値がありすぎる。その価値を守るためにも自衛の力を身につけろ、ということでもある。でなければ自由に武器を作ることも叶わぬぞ? 魔族だって知れば邪魔をしにくるだろう。だからこそ、そうした脅威を退ける力を身につけよ、と言う事だ。邪魔になれば排除出来るようにな」

「……あくまで自分の身を守るために強くなれ、と?」

「どの道、その武器を折って捨てて、二度と作らないと決めない限りは注目は避けられぬのだ」


 ……日本刀を二度と作らないなら。その選択肢を提示されても、私はもう二度と日本刀を作らないとは言えなかった。

 私が完成させた日本刀はまだ道半ばなんだ。これで満足出来る筈がない。私が弱いと自由に日本刀が作れないなら、私が邪魔をされないぐらいに力を身につける必要がある。


「本体もお前の自由を保障するために言っているのだ。お前が本体の神子であり、死後は眷属として迎え入れられると決まっているなら余計な横槍も減るだろう」

「ぐ、ぐぬぬぬ……!」

「そして功績を積み重ねるのであれば、お前自身がその有用性を証明する存在になれば良い。どうだ? 悪くない話であろう?」

「良いとも言えないですけどね……!」


 でも、私に選択肢はない。確かにヴィズリル様が提案してくれた話に乗るのが私自身の保護に繋がるのは間違いないと思う。

 それにヴィズリル様は私が日本刀を作る自由を尊重してくれている。ただ、その自由のために自衛しなければいけない責任が生まれた訳で……。

 その自衛の力を得るのにも力を貸してやるから、神々の敵と戦えと言うなら取引としては悪くないのだろうと思う。


「では、改めて問おう。我が本体の神子として、その使命を果たすつもりはあるか?」

「……私の日本刀作りを邪魔する奴という条件なら!」

「良いだろう。どの道、お前が名を売れば邪魔をする者が向こうからやって来るだろうよ」

「あーっ! 魔神も魔族も纏めて滅んで欲しい!!」


 まだ顔も見たこともない魔族と魔神の恨み言を繰り返しながら、私は頭を抱えるのだった。

 

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