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07:嵐の姫と賢明なる王子

2021/1/25 更新(1/2)

 ナハラ様の質問に私は思わず身を固くしてしまった。そんな私の変化を察したようにナハラ様は笑いながら言葉を続ける。


「警戒しないでくれ。私は神器には縁がある身でね。私は元々ジェダイト王国の出身なんだ」

「ジェダイト王国……あの〝風〟の?」


 ジェダイト王国は風と自由を司る神、プラーナ様の神子が築き上げた国だ。

 国の領土はグランアゲート王国よりも広いけれど、その広い土地を遊牧民のように年中巡りながら生活を営んでいる国だ。


 ジェダイト王国には多くの魔物や魔族が潜んでいて、その後を追って移動を続けながら戦い続けていると言われる程だ。なので国民全体が総じて戦に長けていて、口さがない人には蛮族だと蔑まれることもある。

 国も王が統べているけれど、戦いの中で最も功績を挙げた者が王になるという制度を取っている。


 強い者が王になるという意味ではラトナラジュ王国とも近いけれど、ジェダイト王国の方がもっと苛烈で厳しい。

 ジェダイト王国の国民の多くは素直で直情的、粗暴とも取られる程の豪快さを持っている。それが蛮族だと蔑まれる要因なんだけど、細かいことを気にしないのも国民性だ。

 だからナハラ様がジェダイト王国の人だと言うのなら、その独特の雰囲気は納得だ。


「今のジェダイト国王は私の父だ。親父殿も神器を持って戦場に出ているから、嫌でも親父殿の戦う姿を見る。君の纏う気配やその武器が、親父殿とは似て異なる気配を感じさせているから、そうなんだろうとは思っていたのさ」

「……成る程。まぁ、ここに来ると決めた以上、隠すつもりはありません。私はヴィズリル様の神子として選ばれました。選ばれた理由が私の打ったこの剣を見初められたからです」

「つまりは開祖にも等しいと。ははっ! 成る程? これは義父上殿の天下も終わりかな?」

「ナハラ……」

「相変わらずだな、貴方は……」


 あっさりと言い放ったナハラ様にハーディン殿下は頭を抱え、ベリアス殿下は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 そんな二人の反応にケラケラと笑いながら足を組むナハラ様。ドレスがはだけて生足が見えるけれども気にした様子もなく彼女は言葉を続ける。


「一目見て感じたよ。あぁ、この子はこの国を終わらせるだろうな、と。そういう覚悟を決めてしまってるんだろう、カテナ嬢」

「……それは」

「あぁ、勘違いしないでくれ。私は別に滅びれば良いとは思っていない。だがね、国を作るのは王じゃない。民一人一人が集まって国になるのさ。その代表が王様ってだけで、その代表を民が選んだなら誰でもいいのさ。だから君が義父上を下し、今のラトナラジュ王国の在り方が損なわれても構いやしない。その先は民が再び王を選べば良い。王が信じられないと言うなら己の力で生きていく方法を探せば良い。ただそれだけのことだ」


 その言葉を聞いて私はナハラ様が独特の空気を持っていると感じた理由を悟った。彼女はグランアゲート王国の人とも、ラトナラジュ王国の人とも価値観が違う。

 素直で、真っ直ぐで、明け透けで、それでいて力強く、乱暴であるとさえ言える。とても強い人だ。だからこその言葉なのだろうと強く感じた。


「正直に言えば私は君が怖いね、カテナ嬢」

「怖い……ですか?」

「カテナ嬢、君は自由を選べる人なのだろう。自由を選べる人間というのは怖くて強いのさ。その強さは私たち、ジェダイト王国の人間に通ずるものがある」


 怖い、と口にしながらもナハラ様は笑みを浮かべている。それから好戦的な気配を向けてくるのでハーディン殿下とは別の意味で対応に困ってしまう。

 私が困っているのを悟ってくれたのか、ハーディン殿下が苦笑しながらナハラ様を窘めた。


「ナハラ、客人に失礼な態度を取るのはやめてくれないか。ただでさえ我が国が苦労を強いているのだから」

「あぁ、わかっているとも。ただ率直な感想を口にしただけじゃないか」

「それをもう少し控えてくれると私の心労も少しは癒されるのだがね」


 ハーディン殿下がナハラ様に苦言を呈しながら深々と溜息を吐く。なんだか二人の関係性を垣間見たような気がする。

 そんなことを思っているとハーディン殿下が咳払いをして、話の主導権を奪うように口を開く。


「実のところ、カテナ嬢が召喚要請に応じてくれたことに疑問を感じていたんだ。何を思ってラトナラジュ王国へとやってきたのか、とね。実際、どう思っているのだ?」

「どう思っている……とは?」

「この国について。そして私たちラトナラジュ王国の王族について」

「そうですね……正直に言えば、よくもここまで舐めた真似をしてくれたな、と思ってます」

「……そう、か」

「ラトナラジュの王室の在り方には疑問しかありませんでしたし、その在り方のせいで深く傷ついていたのがシエラでした」

「シャムシエラか。私は直接の面識はない妹だったが……」


 シエラについて触れると、ハーディン殿下は悔恨とも取れる表情を浮かべて呟いた。

 ハーディン殿下が悪い訳じゃないけれど、つい私の言葉には棘がついてしまう。


「シエラはこの国によって傷つけられて、苦しんできた。国を捨て、自由になって、私と友達になってくれた。そしてこれからって時に全部台無しにされた。何が悪くて、何をどうすれば良かったのか。そんなの山程ありすぎて言葉にするのも難しくて、文句を言ってもやり直しが出来る訳でもない。それだけシエラを痛めつけた国の癖に私の自由まで奪おうとまでしてくるなんて、どうしてやろうかと思いましたよ」

「返す言葉もないが……君はどうするつもりなんだ?」

「真っ向からぶつかりに来ました。神の言葉を受け取れる者として、今のラトナラジュ王国に正当性と存続の未来はあるのかどうか問うために」

「神の言葉を……受け取れる……?」

「私はラトナラジュの在り方の是非を問うつもりです。天上に昇りし偉大なる神、その一柱であるアーリエ様自身に降臨して頂いて」

「神を降臨……? まさか、そのようなことが出来ると……?」


 ハーディン殿下は呆然としながら問いかけてくる。その隣ではナハラ様が笑い声を上げた。


「はははは! ほら見たことか、ハーディン! これはもうダメだ! これが真実ならとんでもない事が起きるに違いない! 義父上は一体、何を怒らせたというんだ!?」

「……ベリアス殿下」

「予め言っておくがこの女はやると言ったらやるし、慈悲だとか容赦だとかはここまで来たら望めんぞ。本気で従う気がなければ王族にすら楯突くことも厭わんからな。ただ、刺激しなければ基本的に温厚で無害な奴でもある。まぁ、何が言いたいかと言うと……」


 ハーディン殿下に言葉を求められたベリアス殿下は、そこまで言ってから不敵な笑みを浮かべた。



「――ラトナラジュ国王は、既にこいつの逆鱗に触れてしまっているということだな」

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