04:カテナの腹案
「カテナ嬢、よく来てくれた」
「お時間を頂きありがとうございます、イリディアム陛下」
私が王城に上がると、イリディアム陛下はすぐに時間を空けてくれた。国王の執務室にはイリディアム陛下の他にベリアス殿下とラッセル様の姿があった。
するとベリアス殿下が私を険しい顔で見つめながら、ぽつりと呟くように言った。
「神器の打ち直しは……無事に終わったようだな」
「えぇ」
「……確かに以前と比べると存在感が違うな。前よりも強烈に感じる」
「ヘンリー先生もそう言ってましたけど、そんなに違います?」
「うむ。前よりも研ぎ澄まされているように私も感じるな。恐らく、私たちは異なる神の神器や準神器に触れたことがあるから尚のことなのだろうな」
神妙な顔を浮かべたイリディアム陛下が言うと、同意を示すようにベリアス殿下が頷いた。
私自身、前より良くなったという自覚はあるけれど、周りの人が言うような威圧めいた存在感は感じることはない。
なのでいまいちピンと来なかったのだけど、その話は本題ではない。わざわざ時間を空けて貰ったんだから話を済ませてしまおう。
「イリディアム陛下。私が不在の間の対応、改めてありがとうございました。それで、ラトナラジュ王国から私の召喚要請が来ていると耳にしましたが」
「うむ。恥知らずもここまで来れば流石に腸も煮えてくるものだ。カテナ嬢をラトナラジュ王国に差し出すなど断じてあってはならない」
「そう言って頂けるのはありがたく思います。ですが、私は敢えて召喚要請に応じて良いと思っております」
「なんだと? 何を言っているんだ、お前は」
ベリアス殿下が眉を顰めながら驚いたように言った。イリディアム陛下もラッセル様も似たような表情を浮かべている。
「私は私でラトナラジュ王国に用があるので。私がラトナラジュ王国に渡ったと知ればシエラが追いかけて来る可能性がありますし、シエラが先にラトナラジュ王国に入っている場合も考えればラトナラジュ王国に向かうのは悪い話ではありません」
「しかしだな……ラトナラジュ王国はまず間違いなくカテナ嬢の身柄を求めてくるだろう。責任の追及として、君の王室入りを恩赦の条件として提示してくるまで有り得る。応じずに罪人として捕らえたならば、その後も保証出来ない」
「例の薬の話があってもですか?」
「証拠として抑えていないからな……あちらもそのようなものは知らないと言い張っているが……」
「成る程。じゃあ、やっぱり別の理由を突きつけるしかないですね。確認なんですが、ラトナラジュ王国の王族も神子であることから建国が成り立った国ですよね?」
「え? それは、そうですが……」
私の問いかけに困惑しつつも返答してくれたのはラッセル様だ。その返答を確認してから私は一つ頷く。
「今のラトナラジュ王室には問題がありすぎます。建国からの志を貫けているかもわかりません。であれば、今一度裁定をして頂くべきなのではないかと思います」
「裁定? 裁定など、一体誰に……」
ベリアス殿下が口にしながらも首を傾げていたけれど、すぐに何かに気付いたように目を見開かせた。
ベリアス殿下が気付いたのと同時にイリディアム陛下とラッセル様も察し始めたのだろう。信じられない、いや、信じたくないと言いたげな目で私を見つめる。
「私はもう自分に出来ることを躊躇うつもりはありません。このままラトナラジュ王国が衰退の道を辿るばかりなら、この手で引導を渡す覚悟も決めます」
「カテナ、貴様もしや……」
「今のラトナラジュ王室がアーリエ様の神子と名乗る資格があるのか、それをアーリエ様に実際に降臨して頂いて裁定して頂くつもりです」
「か、可能なのか?」
イリディアム陛下がやや身を乗り出しながら確認してくる。私は僅かに頷くことで肯定を示す。
「神が降臨出来るだけの場を整え、短時間であれば可能であるとヴィズリル様に教えて頂きました」
「なんと……」
イリディアム陛下が椅子の背もたれによりかかるようにして姿勢を崩した。驚きのあまりに脱力してしまっている。
ベリアス殿下はなんとも言えない微妙な表情で、ラッセル様が畏怖で恐縮したような表情で私を見ていた。
「アーリエ様の降臨か……それが可能なら、今のラトナラジュ王室に引導を渡すのは十分すぎるな」
「ただ、アーリエ様が今の王室を認めないと言うかどうかはわかりません」
「……アーリエ様が今のラトナラジュ王国を肯定すると?」
「可能性がない訳ではありません。そうなったら私はラトナラジュ王国と戦争をするのも辞さない構えですが」
「おい、カテナ……」
「……それがグランアゲート王国の益にならないと言うなら前言を撤回するしかありませんが」
私はそう言ってからイリディアム陛下の目を真っ直ぐ見つめる。
イリディアム陛下もまた私の目を真っ直ぐに見つめた後、少し黙ってから口を開いた。
「……どの道、ラトナラジュ王国は掣肘しなければ此度のような問題は繰り返されることだろう。あちらは認めていないが、薬物を用いて相手を従えようなどと王族が率先して行って良いことではない」
「それでは……」
「もしもアーリエ様が降臨しても尚、今のラトナラジュ王国を肯定すると言うなら……私はグランアゲート王国国王として抗議しなければならない。我が国の民に安寧と平和を齎すために」
イリディアム陛下の瞳には強い意志の光が宿っていた。私はその意志を感じ取り、静かに頷く。
「カテナ嬢よ。ラトナラジュ王国の召喚要請に応え、かの国を正す一助となってくれるか?」
「私は陛下の意志と心同じくしております。私に出来ることがあるなら全身全霊を尽くすつもりです」
「うむ。……ベリアスよ」
「はい」
「我が国は彼女の背を支えるぞ。お前は私の名代としてラトナラジュ王国へ向かえ、そしてカテナ嬢の力になってやってくれ」
「畏まりました」
ベリアス殿下が深々と頭を垂れてイリディアム陛下に返答する。それを見たイリディアム陛下がラッセル様へと視線を向ける。
「ラッセル、お前も向かってくれるな?」
「私はベリアス殿下の護衛です。必ずや殿下と、そしてカテナ嬢の命を守ると誓います」
「頼んだぞ。では、カテナ嬢。ラトナラジュ王国との交渉はこちらで済ませておく。あちらの返答を待ち、準備が出来次第、ラトナラジュ王国に向かってもらう。それで良いな?」
「はい。ありがとうございます、陛下」
こうして、私がラトナラジュ王国に向かうことは決定したのだった。
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