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20:決着、その後で

 アシュガルとの決闘は私の勝利に終わった。

 決闘を見ていたイリディアム陛下からも直々に決闘の終了が宣言され、アシュガルが憎々しげに私を睨み付けていたものの、流石に陛下の言葉を覆すことは出来ずにいるようだった。

 イリディアム陛下はアシュガルに治療を申し出たものの、それを固辞してアシュガルは足を引きずるようにして去っていった。


「凄いわ、カテナ!」

「強いのね、カテナ!」

「わわっ、クララ殿下、カルル殿下、飛びつくのは危ないのでお止めください」


 場所を変えて、改めて王家の方々と向かい合う。すると真っ先に飛び込んできたのが双子姫様たちだ。なんとか受け止めたけれど、流石に危なっかしいのでヒヤヒヤしてしまう。


「カテナ嬢、今回の一件でまた君に貸しを作ってしまったな」

「イリディアム陛下。いえ、そんな貸しなどと……私も友人が困っていたから力になっただけでございます」

「そのついでで私の娘たちも助けられたのだ。ついでと言えども恩は大きい。いずれ何かしらの形で返すことを約束しよう」

「……お気持ち、ありがたく思います。しかし、この後は本当に大丈夫なんでしょうか?」

「アシュガル王子のことかね?」


 イリディアム陛下の確認に私は頷いて返す。文句なしに負けさせたとは思うけれど、最後の最後まで諦めたような気配はなかった。

 かといって、あそこから引っ繰り返すのはどんなに弁が立っても厳しかった。そして、逆にあれ以上、私がどうするべきか判断がつかなかった。


「決闘の結果は出たのだ。それも国王が見ている中で直々な。これを引っ繰り返すなど容易な事ではないし、それを許すつもりはない」

「……そうですか。これで私に矛先が向いてくれるなら、とは思うのですが」

「それはダメよ!」

「それはイヤよ!」


 左右から私を挟み込むようにクララ殿下とカルル殿下が引っ付いてくる。そんな二人をベリアス殿下とラウレント殿下が黙々と引き剥がして距離を取らせてくれた。

 二人に抱きかかえられるように引き剥がされた双子姫は示し合わせたように頬を膨らませて不満を露わにしている。


「負けたのだから大人しく国に帰れば良いのに!」

「迷惑ばかりかけているのはどっちなのかしら!」

「クララ、カルル。口が過ぎますよ」

「「うっ、お母様……」」


 二人を窘めるように鋭い言葉を発したのはエルリアーナ様だった。

 エルリアーナ様は二人を窘めると、改めて私に視線を向けて向き直る。


「カテナ嬢、初めまして。私はエルリアーナ、娘たちが大変お世話になりました。私からも深く感謝を」

「き、恐縮です……」

「娘たちの悩みの種を取り除いてくれたことはありがたく思いますが、それで貴方に何かが起きてしまうことは王家としても不本意です。出来る限りの対応はさせて頂きたく思います」

「ありがとうございます」

「……時に、不躾な質問をしても?」

「へ?」


 突然、話題を変えるようにエルリアーナ様が問いかけてくる。あまりにも突然だったので、私は目を丸くしてしまう。


「質問とはなんでしょうか?」

「貴方は王家との縁を望まないと既にお聞きしています。自由な身であることを望む、ということも。ですが、貴方の立場はすでに国としても大きく注目している所ではあります。……つまり今後の進退、特にご結婚などの予定は?」

「ひゃい?」

「エル……」

「陛下、お言葉ですがここまで彼女の事情を複雑にさせたのは王家の責任でもあります。それにカテナ嬢は我が国には欠かせぬ方と言っても過言ではありません。ならば出来る限りのことをするのが義理というものではないでしょうか?」


 諫めるようにイリディアム陛下がエルリアーナ様を呼ぶけれど、エルリアーナ様がばっさりと切り捨てていた。


「無論、こちらから強制することは何もありません。ですが、もし好いた相手や添い遂げたい相手が出来た時、可能な限りこちらでも手を尽くしたいと考えているのです」

「は、はぁ……」

「立場など考えれば一番無難なのは、ベリアス殿下なのですが……」


 思わず名前が出たことでベリアス殿下に視線を向けてしまう。ベリアス殿下も私に視線を向けていたので目が合ってしまう。

 そして、同時に吐き気を堪えるような表情を浮かべてしまう。いや、こいつだけは無理だわ。


「すいません、ベリアス殿下だけは無理です」

「エルリアーナ、俺とて相手を選ぶ権利がある」

「はぁ?」

「あぁ?」


 思わずベリアス殿下にドスの利いた声を飛ばしてしまうけれど、ここにいるのがどんな面々なのか思い出してすぐさま姿勢を正した。

 エルリアーナ様はキョトンとした後、何か納得したように深々と溜息を吐いた。イリディアム陛下とクリスティア王妃は何とも言いがたい苦笑を浮かべている。


「……た、大変お見苦しい所を」

「いえ、こちらが不躾な質問をしたのがよくなかったのです。ただ、こちらには貴方を支援する用意があるということはご理解ください」

「その件なんですけど……正直、結婚とか考えてないんです」

「考えてない?」

「だって、私が子供を作ったら王家の方々に迷惑がかかるでしょう?」


 私は最新の神子と言っても過言ではない。その価値はこの数年で嫌というほどに思い知らされた。

 私は煩わしいのは嫌いだし、他の誰かに同じような重圧を背負わせるつもりはなかった。


「色々と私も考えて、結婚はいいかなって思ってます。場合によっては実家を継がなければならない身ではありますが、もし私が婿を取るにしても養子か、もしくは側室でも招いてそちらに家を継いで貰うことも考えています。私は私自身の血を継がせることは考えていません」

「……貴方は、それで良いのですか?」

「私はこのまま鍛冶師として生きて、鍛冶師として死ねればそれ以上は望みません。王家の方々には十分すぎるほど良くして頂きました。貴方方を煩わせたくないと思う程度には、私は皆様を好いております」


 それは私の嘘偽りない本心だった。鍛冶師として日本刀を研究する一生を終えられるなら、その後は恐らくはヴィズリル様によって神の眷属として迎え入れられるんだろうし。

 この世界に私が残すことを望むとしたら日本刀と、その製法ぐらいだ。あとは私が好ましく思った人たちが幸せに暮らすことだから。


「……貴方の思いはわかりました。ですが、人生は長いのです。どんな切っ掛けがあるかはわかりません。その時、貴方の後ろには私たちが控えていることをお忘れなきように」


 エルリアーナ様は何か言いたげな表情を浮かべたけれど、その言葉を呑み込んで当たり障りない言葉を投げかけてくれた。私は感謝を示すように一礼をする。

 すると、そんな私にぴったりとくっつくようにクララ殿下とカルル殿下が駆け寄ってくる。


「カテナがお姉様になってくれたら良かったのに」

「そうね。どうしてベリアスお兄様はダメなの?」

「えっ? あぁー、それは……」

「頭がカチコチンの石頭だから?」

「人の話を聞かない横暴だから?」

「ぐふっ」

「兄上、しっかり!」


 後ろでベリアス殿下の苦痛に堪えたような声が聞こえてきた。内心、私はゾッとしていた。いや、事実だけど! 事実だったけど!


「じゃあラウお兄様は?」

「ダメよ、クララ。ラウお兄様はもっとダメよ!」

「うじうじ、意気地無しだから?」

「ダメダメ、弱虫だから!」

「ごふっ」

「ラウッ! 気を確かに持て!」


 うわ、後ろで振り返りたくないような事態が起きているらしい。

 エルリアーナ様は今にも取り繕った表情が崩れて鬼の形相を浮かべそうになっているし、イリディアム陛下は額に手を当てて溜息を吐いていた。

 ただ一人、騒がしくする私たちを微笑ましそうに見ていたクリスティア王妃が印象的だった。その目尻に涙が浮かんでいたような気がするのは、きっと私の気のせいだと思うことにした。



「クララッ! カルルッ!」

「「ご、ごめんなさーいっ!」」

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