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04:カテナお嬢様、奮闘記

 令嬢としてのマナーや教養を身につける傍ら、鍛冶の知識と実践のための体力作りをしてから早くも一年の時が経った。

 体力作りと令嬢としての教育を並行して行うためにダンスを積極的に授業に取り入れて、兄様もたくさん付き合わせたりもした。

 結果としてダンスの腕前は同年代の中でもトップクラスだと太鼓判を教師から頂いた。兄様は私に付き合わされて渋々だったけれど、身につけて困る技術ではないので文句は言わなかった。


 鍛冶についての知識も一年で詰め込むように教えてもらい、見習いとして現場に入ることが出来るようになった。実物の剣を見ていても、前世で言う所の西洋剣そのままだと思ったのも懐かしい。

 アイアンウィル家の工房の武器の評判がいいのは職人の腕もあるけれど、やっぱり何より素材の質が良いのが理由だ。これは鍛冶師として学び、商人として大成したお祖父様の功績が大きいと思う。


 元々、アイアンウィル家は良質な鉄鉱石が取れる鉱山を抱えていた。

 この鉄をもっと効率的に製品化させるには、炉の発展が欠かせないとお祖父様は考えたらしい。そして、お祖父様が探し当てた燃料が石炭から作られるコークスだった。

 お祖父様は、このコークスを熱源としても耐えられる炉の開発に半生をかけたとも言われている。そして完成した炉で次々と良質な製品を売り出し、国に評価されるほどの功績を残した。


 なのでダンカンさんの工房で使われている素材は鉄鉱石だ。鉄鉱石を炉で溶かして、その溶かした鉄を鍛えて剣や鎧を作っている。

 鉄が良質なのもあるし、長年受け継いできた職人の勘と経験。それがアイアンウィル領を支えている。知れば知る程、本当に頭が上がらなくなってしまう。


 そんな日々を過ごしていた、ある日のことだった。


「あれ? これって……砂鉄?」


 今日は工房の清掃と在庫管理を行っていた。一月に一回のペースで行われる大清掃であり、それに合わせて在庫の管理も一緒にしてしまおうという日だった。

 私にとっては現場に入るようになって初めての大清掃だ。黙々と清掃を進めていたんだけど、倉庫の奥に押し込めるようにして収められていた大量の砂鉄を見つけた。


「おう、どうした? お嬢」

「親方。これって砂鉄ですよね? なんでこんなにあるんですか?」

「ん? あぁ、これか……」


 すっかり親方と呼ぶようになってしまったダンカンさんに砂鉄について尋ねて見ると、ダンカンさんが懐かしそうな、それでいて何とも言えない微妙な表情を浮かべた。


「これは今の炉になる前に素材として使ってたんだけどな。新しい炉になってからはどうにも素材にするのは不向きでな。少しずつ売り払ったり、まだ古い炉を使ってる工房に分けてはいるんだが、まだまだ採掘も出来るからこうして在庫が残ってるんだよ」

「……じゃあ、この砂鉄って誰も使わない在庫ってことですか?」

「まぁ、そうだな」

「これ、私にください!」

「あん?」


 私の脳裏に浮かんだのは、日本刀を作る上で大事なものである〝玉鋼〟だ。

 玉鋼。それは砂鉄を原料にして、木炭を燃料にして作られる鉄だ。日本で発展したたたら製鉄と呼ばれる製鉄方法で作られる玉鋼は刀の素材として非常に優れていたと言われている。

 元々、どうやって自分が日本刀を作るための素材を調達しようかと思っていた所だった。誰も使わない砂鉄なら、実験用として使うことも出来る。そう思えば、何としてでもこの砂鉄を譲って貰わなければならない。


「譲るって……砂鉄をどうするんだ?」

「私、鍛冶師になりたいって思ったのは魔法で鍛造が出来ないかと思ったのがキッカケなんです!」

「ま、魔法で……?」


 何言ってんだこいつ、と珍妙なものを見るような目で親方に見られてしまった。

 そこで私は四大属性の魔法が全部使えることを説明した。魔法そのものはポンコツだけど、組み合わせて利用すれば一人で鍛造出来るんじゃないかと考えていたことを話す。


「はぁ……なんていうか、そこまでする必要があるのか……?」

「出来るし、やりたいから……?」

「……まぁ、そういうことならいいぞ。若旦那には俺から説明しておく。元々、処分も困っていたものだしな!」

「わぁい! 親方、ありがとうございます! 大好き!」

「おい、お嬢! 軽々しく異性に好きとか言うんじゃねぇ! 若旦那にでも聞かれたら殺される!」


 うふふ、日本刀を作るための自由に出来る素材を手に入れたぞ……! 私は浮かれた気持ちで工房の清掃を必死に頑張るのだった。



 * * *



 親方から砂鉄を譲って貰って、玉鋼作りの研究が始まってまた時間が流れた。

 お父様が屋敷の中庭に私専用の研究室を用意してくれて、そこで私は玉鋼作りの研究を行っていた。

 屋敷では勉強、工房では鍛冶師見習い、研究室では玉鋼作りの研究。振り返ってみれば慌ただしい日々だな、と思う。

 そんなある日のこと、すっかり回数も減って滅多にしか顔を合わせなくなったヘンリー先生が魔法の授業のために訪問してきた。


「へ? 魔法で……鍛造を一人で全部やるって?」

「はい」

「……妙に魔力の制御が上達してると思えば、そんな事を……」


 ヘンリー先生に魔法を見せると、随分と魔力の制御が上達したことを褒められた。

 何か特訓でもしたのか、と問われたので正直に魔法で鍛造を行っていることを話すと理解に苦しむといった目で見られた。


「なんというか……アイアンウィル家の血が良くも悪くも濃縮した子ですね、カテナお嬢様は。本当、力が足りてないのが惜しいと思うほどの逸材ですよ」

「……そうですか?」

「カテナお嬢様は複数の魔法を同時で並行して使えますよね?」

「えぇ、魔法で鍛造するのに複数の魔法を同時に制御しないといけませんから」


 炎の魔法で砂鉄を溶かして、風の魔法で火力を調節、必要になった水や土をその場ですぐ用意する。これが出来ないと一人で鍛造は出来ないからね。


「それ、普通の人は出来ません」

「……はて?」


 おかしい、いきなりヘンリー先生が私を普通の人じゃない認定してきた。


「確かに理屈はわかるんですよ、簡単な魔法や慣れている人だったら同時に魔法を使うことは出来ます」

「ですよね?」

「ですが、カテナお嬢様は複数の魔法を同時に発動させて、一つの魔法として組み合わせていますよね?」

「……まぁ、そうですね?」


 魔法そのものを組み合わせてるというか、魔法を組み合わせて起きる現象を計算したり、検証して使えるようにしてるっていうのが正しいけど。


「元々、魔法の出力そのものが弱いから出来る芸当なのかもしれませんけれど……魔力の制御のセンスは私が知る中でカテナお嬢様は稀に見る天才ですよ」

「ヘッポコ魔法の天才ですか?」

「魔法がヘッポコだとしてもです。カテナお嬢様がやってることは複数の楽器を一人で同時に演奏してるぐらい、難易度が高いものなんです」

「……だから研究してるのを見に来た兄様に熱を測られたんですね、私」


 多分、正気かどうか確認してたんだな、兄様。すぐに諦めたように首を左右に振ってたけれど。そっか、私の魔力制御って例えるとそんな複雑なことをやってたんだ。


「訓練にもなっていますし、良いんじゃないですか? 魔法で鍛造をするというのは。カテナお嬢様ぐらいにしか出来なさそうですけど、趣味と実益が噛み合った良い訓練方法だと思います」

「はい! 頑張って理想の日本刀を作ってみせます!」

「ニホントウ?」

「…………えっと、虫の一種?」

「虫!?」


 つい日本刀の名前を出してヘンリー先生に訝しげな顔をされてしまった。慌てて誤魔化したけれども、特にそれ以上は追及されることはなかった。

 ふぅ、ついテンションが上がっちゃうと余計なことを言っちゃうから注意しないと。

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