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18:決闘、開始

2021/06/19 改稿

「……カテナ・アイアンウィル?」


 ラッセル様に連れられて謁見の間に入る。するとアシュガルが軽く目を見開き、訝しげな視線を私に向ける。

 謁見の間にはイリディアム陛下を始めとして、王族の皆様方が勢揃いしていた。ベリアス殿下、クリスティア王妃、クララ殿下、カルル殿下、ラウレント殿下、そして初めて見る女性が一人。

 髪の色はラウレント殿下と同じで、瞳の色は青緑色。感じる印象は有能な秘書と言うべきか。恐らく彼女が側室であり、ラウレント殿下たちの母親であるエルリアーナ・グランアゲート様だろう。彼女はちらりと私に視線を送った後、目だけで礼をした。


「……これは一体、どういう事なのでしょうか? イリディアム陛下」


 エルリアーナ様と目だけで礼をし合っているとアシュガルがイリディアム陛下へと問いかけている。私は一息を吐いてから、胸に手を当ててアシュガルへと一礼する。


「既に陛下からお話は頂いているとは思いますが、この度、姫様たちの命を受けてここに立っております。アシュガル殿下」

「……なるほど、ではカテナ・アイアンウィルが決闘の代理人ということですか。ベリアス殿下が出ないとなれば、騎士の誰かでもお連れするのかと思っていたのですが、これは驚きです」

「力を誇る訳ではございませんが、姫様たちの命とあらばその悲願を叶えるために力を尽くすつもりでございます」


 私が淡々と返すと、感情が失せたような視線をアシュガルから送られる。それから大袈裟に肩を竦めてみせた。


「そういえば、貴方はリルヒルテ嬢の師匠でもあると言う話でしたな。成る程、であれば私の相手として相応しいと」

「えぇ、リルヒルテ様とは懇意にさせて頂いて降ります。故に、その憂いを晴らせるならばと思った次第でございます」

「素晴らしい忠誠ですな。ですが、ご安心ください。その憂いは間もなく晴れる事でしょう」


 ……よく言うものよね。ちなみにリルヒルテの名前を出した途端にお前が名前を呼ぶな、と言わんばかりに双子姫がアシュガルを睨み付けていた。

 そんな双子を窘めるように落ち着かせているラウレント殿下。だけど、その目がなんだか笑ってないように見えたのは気のせいか。


「では、約定には従って貰おう。アシュガル王子よ、我が娘を娶りたいと欲するならば娘の試練を乗り越えよ」

「えぇ、我が力をここに示すことを誓いましょう」


 イリディアム陛下へと深々と気取った一礼をするアシュガル。その様子を静かに見据えるイリディアム陛下とクリスティア王妃。

 そして、その隣に立つベリアス殿下が私へと視線を向ける。目だけで何を言っているのかわかるような強い気配を感じ取ってしまった。だから私も応じるように視線を返す。



『――遠慮はいらん。やれ』

『――わかってるわよ』



  * * *



 場所を移して、王城内の演習場へ。見学席には王族一同と護衛が何人か控えるだけなのでがらんとしてしまっている。

 審判役にはラッセル様が立ち、私はアシュガルと向き合う。アシュガルの獲物は曲剣、それを鞘から抜いて構える。


「貴方も災難だな」

「……災難?」

「王族の代理人という名誉を賜りながらも地に伏すことになるのだから。しかし、女の身でこの場に立ったことばかりは評価しよう。リルヒルテ嬢の師を務められると言うのであれば、相応に実力はあるのだろう?」

「……女が武器を手に取って立つのが気に入らないと言っているように聞こえますが?」

「それは誤解というものだ、強い女性は好意に値する。将来、強い子を産んで貰える子に越したことはないからな」

「……だからリルヒルテも一緒に手籠めにしようと?」


 私の問いかけにアシュガルは何も返さない。自身の武器である曲剣を抜いて構えを取る。


「抜きたまえ、先手は譲るとも」

「……」


 私は無言で鞘に収めたまま日本刀に手を添える。手に添えただけの姿勢で構えた私にアシュガルは怪訝そうな顔を浮かべる。


「……始めてください」

「何?」

「始めてください、と言いました」


 アシュガルに問われても、私はそれ以上は返答しない。ラッセル様へと一度視線を送ると、ラッセル様が了承したように頷いた。


「これより御前試合を開始致します。両者、構え!」


 アシュガルが訝しげに私に視線を向けているけれど、気にせずに私はラッセル様の開始の音を待つ。



「――試合、始め!」



 ラッセル様の合図、それと同時にアシュガルが曲剣を私に向けて突き放った。素早く、鋭い突きだ。それを抜刀した日本刀で搦め捕るように払い上げる。

 甲高い金属音が響き渡り、アシュガルの手から曲剣が離れて彼の後方へと突き刺さった。


「……は?」


 アシュガルが何が起きたのか、と言わんばかりに目を見開かせた。自分の手を見て、慌てて後ろへと振り返る。

 審判を務めていたラッセル様もいきなりの展開に動きを止めてしまっている。けれど、ラッセル様が何かを言う前に私は告げる。


「――拾ってください」

「な、に」

「この程度で済ませると思ってるの?」


 これで負けだと言わせる訳がないでしょ? これまでアシュガルのしてきたことを思えば怒りが沸々と湧き出てくる。そして、これからの為にも彼には完膚なきまでに負けて貰わなければならない。

 即ち、全力で叩き潰す。そのための意思を研ぎ澄ましていく。


「拾ってください」

「……貴様は」

「――拾えと言ってるのが聞こえないんですか? 手が、滑ったんでしょう?」


 私がそう言うと、アシュガルの顔から表情が消えた。

 そして纏う気配すらも質が変わる。後ろへと素早く下がって、曲剣を手に取って姿勢を低くし、這うように構える。


「――撤回する。そして認めよう。貴様は、全力で倒すべき敵であると」

「――同じ言葉をそっくりそのまま返すよ」


 そこからはアシュガルの動きは劇的に変わった。成る程、こっちが本性かと納得する程だった。

 荒ぶりながらも、冷徹なまでに急所を貫かんとする蛇のような一撃だ。しかも、その一撃が予想よりも伸びるように迫ってくるのは見事としか言いようがない。


 這うような低い姿勢は自分の急所を守りつつも、主に相手の足を潰すように狙う。

 武人とするならば邪道の部類に近いかもしれない。相手の足を潰し、足を庇えば隙を突いた急所狙いの一撃が来る。


(これは……グランアゲート王国で主流の武術とはそもそも相性が良くない)


 どちらかと言えば私に近い。相手の隙を狙い、一撃必殺を狙う。ただし、私は守勢寄り。アシュガルは攻勢寄りという違いがある。

 それは武器の差でもある。曲剣は人を斬り裂くための武器でありながら、刀と比べれば肉厚だ。

 だからこそ押し切る形で連撃を繰り出すことに向いているし、剣の切っ先が伸びるように迫って引き裂くことを狙っている。これは、命を奪うために特化した剣術だ。


「シャァッ!」

「ハァ……ッ!」


 互いの武術で共通している点を強調するとするなら、それは足捌きだ。曲剣も斬り裂くための武器であり、刀ほどではないけれど打ち合いに向いた武器とは言えない。

 だから必然として、私たちは動き回ることとなる。喰らい付くように迫るアシュガルの一撃を回避して、避けきれないものは受け流す。

 どれだけ攻防を繰り返したか、アシュガルが一度距離を取った。私は息を吐き出して日本刀を下段に構えて警戒する。


「……何故だ?」

「……ん?」

「何故、これほどの力を持ちながら無名だったのだ、貴様は……?」


 驚愕と焦燥を混ぜ合わせたような表情を浮かべてアシュガルは私に問いかける。


「別に、力を誇示する必要性がなかっただけ」

「……理解が出来ん。貴様ほどの力があれば、どれほど上を目指せるのか自覚していないのか?」

「理由がない」

「理解に苦しむ……!」


 アシュガルの曲剣を受け流すように弾くと、苛立ちに顔を歪めたアシュガルが嫌がるかのように距離を取った。

 互いに仕切り直しと言わんばかりに呼吸を立て直す。だけど、呼吸が荒れているのはアシュガルだ。

 暫し、そのまま見つめ合っているとアシュガルがまた話しかけてきた。


「……カテナ・アイアンウィル。貴様が姫たちの代理を引き受けたのは姫たち、そしてリルヒルテ嬢のためか?」

「だとしたら、何?」

「では、取引をしないか?」

「取引……?」



「姫たちやリルヒルテ嬢の事は諦めよう。――代わりに、貴様が私の嫁になれ」

    

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