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17:決闘に向けて

本日二回目の更新となります。お見逃しのないようにお気をつけください。

「では、ベリアス殿下の計画は順調に進んでるんですね」

「うん。後は根回しをしてからアシュガル殿下に通達するだけだね」


 姫様たちとのお茶会が終わった後、私はそのまま教会へと向かった。目的は教会にいるシエラに事の経緯を報告するためだった。

 あれからシエラは休学ということで教会にいる。根回しで奔走している私たちはなかなか傍にいてあげられないから、事が落ち着くまでは教会で保護するためだった。


 計画を主導している中で一番身軽な私がシエラへの報告係になるのは当然の流れだ。そうして今日もシエラに計画が最終段階に入ったことを報告する。

 その間、シエラはずっと気落ちしたような表情を浮かべていた。学院を休学してる間、前のような儚さを取り戻してしまったように思える。


「……不安?」

「え……?」

「ずっと気落ちしてたようだったからさ。不安があるなら吐き出しちゃいなよ、私が聞いてあげるからさ」


 シエラにそう言うと、シエラは少しだけ目を見開かせる。少し思い悩むように押し黙ってから、私から視線を逸らして所在なさげに手を握り合わせた。


「……不安じゃなくて、ただ申し訳ないというか……」

「申し訳ない?」

「私だけ何も出来てないですし……そもそも、この問題はラトナラジュ王国のせいとも言える訳ですから……」

「うーん……確かにシエラは元王女様だけど、シエラが気に病むことじゃないと思うよ?」


 シエラだってラトナラジュ王国に利用されていた存在だって言っても良い。

 だからシエラがラトナラジュ王国が原因で起きる諍いに心を痛める必要はないと思う。

 それでもシエラの表情が晴れることはない。何か思い詰めたように握り合わせた手を見つめている。


「でも、私も何かしなきゃって……じゃないと色んな人に迷惑をかけてるだけで……」

「シエラ」


 シエラの握り合わせていた手に、そっと自分の手を重ねる。


「反省するのは良い。だけど、自分を責めすぎても何も良いことはないよ」

「……カテナさん」

「今までシエラは上から抑え付けられるような環境にいたんだ。だから俯いたって仕方ない。でも、それでシエラの価値が何もなくなる訳じゃないんだよ」


 シエラには私以上の魔法の才能がある。きっといつかは私よりも制御が巧みになって魔法使いとしても、職人としても活躍する未来を開くことが出来る。

 シエラには足りないのは自信だ。自信は積み重ねたものでしか作り上げられない。その積み重ねを許されなかったシエラにこんな事を言うのは酷なのかもしれない。

 だからって自分を傷つける必要はない。シエラにはこれからがあるんだから。


「どんな間違いをしたって私がいるよ、シエラが一人前になるまで私が見守るから」


 私がそう言うと、シエラが肩を寄せるように体重を預けてきた。

 それは甘える子供のようで、けれど甘えきれずに中途半端になったような仕草だった。

 これがシエラなりの精一杯なんだろうと思って、私はシエラの肩に手を回して抱き寄せた。


「大丈夫、大丈夫だから。私がここにいるから」


 小さく鼻を啜る音が聞こえる。肩に少しだけ湿り気を感じるけれど、気付かない振りをしてシエラを慰め続けた。



   * * *



 王城の謁見の間に近い控え室。そこで私は鏡に映った自分の姿を眺める。

 髪型はいつものポニーテールだけど、身に纏っている装束がいつものではない。それはラッセル様がよく身に纏っていた騎士服だ。

 今日、この日のためにわざわざ用意してくれたものなのだとか。一応、名目上は姫様たちが認めた実力者であり、王家からも一目置かれている存在として顔を出す以上、身なりにも気を使うべきだと言う話だ。

 ……なんか、上手く乗せられているような気がしないでもないけど。


(まさか、このまま将来的に私を近衛として抱え込もうとしてる訳じゃないよね……?)


 専属鍛冶師としてはともかく、騎士として仕えるのはご免被りたい所ではあるんだけど。

 とにかく私は呼ばれるまで待機だ。今頃、謁見の間ではアシュガルが呼び出されてイリディアム陛下から決闘のことを伝えられている筈だ。

 腰に下げた日本刀の柄にそっと手を沿わせる。緊張している訳ではないけれど、少しだけ落ち着かない。


「ふん。面倒なことになっているものだな」

「ミニリル様」


 私が学院に通うようになってから実体化する機会が少なくなっていたミニリル様が姿を見せた。


「愛と情熱の国の王子か。流石にアーリエの奴も苦笑いしていることだろう」

「……神から見て、ラトナラジュ王国についてはどう思うんです?」

「どうも何も、完璧な人も国も存在しない。繁栄をすれば腐敗もする。他の神は我ほど身軽ではないしな、自らに連なる者が落ちぶれるのは致し方ないと呑むしかなかろう」


 それは神が薄情と見るべきなのか。それとも神であってもどうしようも出来ないと思うべきなのか。そんな事を考えた私の思考を読み取ったようにミニリル様は告げる。


「再び神を地に下ろすことを望むか? 圧倒的な力を旗印として服従したいか?」

「……はいはい、つまり神様から見ればそれも人が果たさなきゃいけない課題ってことなのね」

「そういう事だ。……愛と情熱は他者に向けるからこそ、美しき焔のような在り方となる。アーリエもそんな女神だった。まぁ、もっとも美しいのは我が本体であるが」

「うわ……」

「なんだ、その声は」


 キャットファイトという言葉が思わず脳裏に浮かんだ。愛と情熱を司る火の女神と美と戦を司る女神、とてもじゃないけど相性が良いとは思えない。


「まぁ、いけ好かない女ではあるが、あれは馬鹿ではない。少なくとも自己愛にばかり意識を向けるのはアーリエの在り方に沿うものではない。……遠くない内、ラトナラジュ王国は加護を失っても仕方あるまい」

「加護を失うって有り得るんです?」

「当然だ。あまりに懸け離れていけば波長が合わず、神の力を受け取れぬ。まぁ、お前は例外ではあるが」

「……私とヴィズリル様が相性が良いって話です?」

「違う。そもそもお前は受け入れようと思えばどの神も降ろせる。貴様の作ったものはそういうものだ。そこに私が居座っているので他の神の入る余地などないだけだ」

「初耳ですけど!?」

「だからこそ我に感謝せよ。もしも我が放置していれば、お前は都合の良い託宣者と化していてもおかしくはなかった。まぁ、他の神々とてそこまで迂闊ではないだろうがな。だからこそ私が独占しても文句を言ってくる気配もなし」

「……ヴィズリル様って他の神々と比べて身軽なのって何か理由があるんですか?」


 神々はこの世界を運行し、見守るために天に昇ったとされている。加護は与えてもミニリル様のような形で降りて来るような神もいない。

 私が他の神々の器になれたとして、ミニリル様が独占状態でいるのを本当に許してるものなんだろうか。


 女神ヴィズリル。美と戦いを司り、その逸話は数多い恋物語で、それをあしらい続ける気まぐれな女神という逸話が多い。逆に言えば、他の神のように積極的に人類に干渉して教えを説いたりするような神ではない。

 なんとなく他の神様とヴィズリル様では線引きがあるような気がする。存在を知られていない訳ではないけれど、他の神と比べて功績らしい功績もないというか……。


「……それは禁則事項だ」

「また禁則事項ですか」

「知る必要があれば自ずと知ることとなる。そうでもなければ聞いても仕方ない話だ」


 濁すようにそう言って、ミニリル様は煙のように姿を消してしまった。

 あっ、と声を漏らしたのと同時に部屋のドアがノックされた。気配を察知していたからミニリル様も姿を消したんだろう。

 そして部屋の中に入って来たのはラッセル様だった。着ている格好がお揃いのようになってしまったので、なんとなくお互いに笑い合ってしまう。


「カテナ室長、そろそろ出番です。準備を」

「わかりました、今行きます」

 

 

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