表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/118

10:新しい仲間を迎えて

 シャムシエラさんが王族籍を抜けて教会に身を移す決意を固めた。その後の動きは思っていたよりもあっさりしていた。

 ヘンリー先生に確認して教会でシャムシエラさんの受け入れを要請して、教会もこれを了承。


 その後、教会を通じてラトナラジュ王国にシャムシエラさんの件を打診する。そこから私も聞いた話でしかないけど、ラトナラジュ王国は予想していた通り〝心付け〟を要求してきたのだとか。

 そこで教会は多額の〝心付け〟をラトナラジュ王国に渡し、無事にシャムシエラさんの身柄はグランアゲート王国の教会へと移されることになった。


 尚、心付けのお金についてなんだけど、教会が払ってくれた内の何割かは寄付という形で私からもお金を出した。

 刀の開発の栄誉とかで王家から報奨金を貰っていたけれど、使うアテもなかったから貯めっぱなしにしていたお金だ。

 流石に私の発案で手間をかけさせてしまったし、矢面にも立って貰っているので援助となればという思いからだった。


 ともあれ、これでシャムシエラさんは正式に教会の預かりとなり、これから神官を目指すという名目で私たちと行動を共にすることとなった。


「カテナさん、改めて色々とお手数をおかけしました」


 教会に籍を移すために学院も休んでいたシャムシエラさんが復学してきた。少し見ない間にシャムシエラさんも鬱屈した感情が少し晴れたのか、表情は明るくなっていたように思える。


「手続きを引き受けてくれたのは教会だよ。お礼をするなら教会にね」

「ですが、カテナさんが発案してくれなければ教会でも私をすんなりと受け入れてはくれなかったと思います。だからカテナさんが切っ掛けになってくれたことを私はいつまでも感謝します」


 うっ、美人が微笑むと凄く迫力がある。憂いがなくなったのもあるんだろうけど、表情が柔らかくなったシャムシエラさんは生来持つ魅力をこれでもかと振りまいていた。

 これで変なトラブルを呼び込まないと良いんだけど……。


「これからはカテナさんのことを師匠と呼ばせてください」

「えぇ……別にいいよ、カテナで。師匠なんて大袈裟なものを名乗るつもりはないから。それより友達になろうよ」

「……友達、ですか?」

「うん。同じ学生なんだし、教え合う関係で良いでしょ?」

「……では私のこともシャムシエラと。改めてよろしくお願いします、カテナさん」

「じゃあ、よろしく。シャムシエラ……うーん、なんか呼びづらいな。シャム……シエ……シエラって呼んでも良い? ほら、愛称ってことで」

「……はい。シャムより、シエラの方が呼びやすいですしね」


 シャムシエラさん、改めてシエラは少し照れくさそうに微笑む。そうして私たちは微笑み合うのだった。



   * * *



 シエラを迎えたことで刀の稽古にも顔を出して貰った。そこで一つ、わかった事がある。


「はぁ……はぁ……む、無理です……!」

「体力ないですね、シエラさん……」

「魔法の腕前は申し分ないのですが……」


 シエラは運動が不得手だった。

 試しにシエラにも刀を持たせるかどうかという話になった時に本人から自己申告があって、確かめた所……その、かなり鈍臭かった。


「運動、本当に苦手なんだね……」

「すいません……その、今までずっと離宮に引き籠もって生活していたので。私も母も階級が低いので、あまり目立つと色々と……」


 言葉を濁して今までの自分の生活を語るシエラに、ついつい皆が代わる代わる頭を撫でてしまう。目を白黒させていたシエラだったけど、照れたように肩を窄めている。

 本当に話だけ聞いてると印象が良くないなぁ、ラトナラジュ王国の王室は……。


「これなら無理にカテナを持たせる必要はないのでは?」

「うーん、そうだね。玉鋼も貴重だしね……」


 別に刀を扱えるようになることが必須でもないし。そうなると研究室の親方に預けて鍛冶師の仕事を覚えて貰うことになった。

 それから私の放課後はリルヒルテ様とレノアを鍛える日と、リルヒルテ様がお茶会を催す時にはシエラと研究室で過ごすようになっていった。


 ある日の放課後、私はシャムシエラと研究室にいた。そこで互いに向かい合うようにして〝まったく同じ規模の火〟を維持し続ける。

 私にとっては慣れた作業だけど、シエラの表情は眉が寄って汗がうっすらと滴り落ちていた。


「……っ、すいません、これ以上は……!」

「うん。じゃあ、今日はここまでで」


 シエラが限界を訴えた所で魔法を消すと、シエラは大きく息を吐き出して天を仰いだ。うっすらと汗が浮かんだ彼女の横顔は同年代とは思えぬ色香を纏っていて、なんだかもうズルなのでは? という気持ちにすらなってきた。


「お疲れ様です、二人とも」

「ありがとうございます、ヘンリー司祭……」


 私たちの魔法の鍛練を観察していたヘンリー先生がシエラに手ぬぐいを手渡す。汗を拭って一息を吐いたシエラは私へと視線を移す。


「……皆さんが口を揃えてカテナさんが頭がおかしいと言っている意味がわかったような気がします」

「えっ!?」

「言ってる理屈はわかりますが、習得するのは大変ですね……」

「いや、追いつけているシャムシエラも大概ですけどね?」


 二人ともおかしい、とヘンリー先生が首を左右に振って言った。

 シエラの魔法の制御そのものは私よりも上手だったけれど、私がやってることを説明すると珍妙なものを見るかのように見つめられたのは記憶に新しい。


 シエラは一つの魔法に拘るなら私以上の制御を誇っていたけれど、これを同時に展開すると言うとドン引きされてしまった。

 色々と時間差で発動したり、魔法の効果時間で組み合わせるように魔法を行使するのがコツと説明すると、まるで難解なパズルみたいですね、と言われた。


 離宮の外に出ることが極端に少なかったシエラは読書やパズルなどで時間を潰すことが多かったのだとか。

 だからこそ一つの事に拘るのは得意としているけれど、私のように並行して魔法を扱うのにはまだまだ苦労している。


「大変ですけど楽しいですよ」

「シエラは凄いですよ。魔法の教え方も良かったのでしょう」

「はい。母に嫌というほど仕込まれましたから。いつかきっと役に立つから、と」

「魔法大国の名は伊達ではありませんね……」


 あれから、それとなくラトナラジュ王国について気になったので調べてみた。どうやらラトナラジュ王国は魔法大国ということあってか、魔法が日常的に使用されていることがグランアゲート王国よりも多いらしい。

 資源に乏しいラトナラジュ王国では魔法すらも資源になり得るからだと言う。グランアゲート王国では魔物や魔族の襲撃が多いため、そこに備える必要がある。だからこそ魔法と言えば戦うための術になる。


 一方で、ラトナラジュ王国はグランアゲート王国に比べれば魔物の襲撃は少ないらしい。それは我が国が盾になっているという理由も大いにあるのだとか。だからこそ魔法は生活と密接して存在している。

 だからこそラトナラジュ王国では人すらも資源扱いに近い。それはもう土地に根付いた文化の違いでしかない。それでも釈然としない気持ちはある。口に出してもどうしようもないことだから言わないけど。


「休憩か? お嬢。なら、ちょっと良いか?」

「ん? 何? 親方」

「相談なんだがよ、お嬢が製鉄した玉鋼……その時の余りの鉄はどうするんだ?」

「あー……」


 玉鋼を作る際、基準に満たないものも当然ながら出来上がる。それも決して材料にならない訳ではないけれど、私としては使い道がなくて放置していた。


「んー……刀を作るものではないですけど、包丁とかには利用出来るかと思います」

「ほう? じゃあよ、これで従来の武器を作るのはアリなのか?」

「えっ? まぁ、なしじゃないと思いますけど……?」

「よっしゃ! お嬢が使わないなら俺たちが貰っても良いか!? 炉の研究もいいがな、やっぱり鉄を打ってねぇと落ち着かねぇ! 設備もあるんだし、ちょっと息抜きにいいだろう!?」

「それは構いませんけど……そうだ、それなら折角だしシエラに補助をお願いしようかな」

「えっ」


 一息を吐いていたシエラは驚いたように私を見る。いや、何事も実践でしょ?


「従来の武器なら私が口出しする必要もないですよね? シエラをよろしくお願いします」

「おう! お嬢ちゃん、頼むぜ!」

「えっ、えっ?」


 豪快に笑う親方に背を押されるようにして目を白黒させながらシエラが工房の方へと押しやられていく。

 そして、シエラの何とも言えない悲鳴が虚しく響くのだった。

 


面白いと思って頂けたらブックマーク、評価ポイントをよろしくお願いします。


修正:シャムシエラの愛称をシエラにしたかったので修正しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ