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08:異国の少女との邂逅

本日二回目の投稿となります。お見逃しのないようにお気をつけください。

 ベリアス殿下との模擬戦があってから二週間ほどの時間が経過した。

 授業を受ける傍ら、刀の型を教えたリルヒルテ様とレノアと稽古を繰り返す。二人も真面目に稽古に取り組んでくれているので教える側も楽しい。


 ただ、毎回稽古に使っている訳にもいかない。リルヒルテ様は自分を慕う派閥のご令嬢とお茶会も催さないといけないので何度か休みを挟む。

 そうなると私は自由になる。その時は研究室に足を運んで親方たちと炉の進捗について話し合ったり、自分の刀の手入れ、あとは自己稽古とやることはたくさんある。


 そして、今日はリルヒルテ様がお茶会を催す日だったので放課後は空いていた。

 何をして放課後を過ごそうかと思っていた所、私は声をかけられた。


「あの、カテナ・アイアンウィルさんですよね?」

「はい?」


 声をかけてきたのは、とてもエキゾチックな色香を纏った少女だった。

 髪の色は薄紅色で、ふんわりとウェーブがかかった髪を後ろで一纏めにリボンで結んでいる。

 瞳は淡い月光を纏ったような白金色。肌は小麦色で、豊満な胸も合わさって学生とは思えぬ大人びた魅力を醸し出していて、端的に纏めるととてつもない美少女だった。


「……えっと、はい。私がカテナ・アイアンウィルですが? 貴方は?」

「私はシャムシエラ・ラトナラジュと申します。魔導科に在籍しています」


 魔導科の生徒? それは確かに私とは接点がない人だ。あと、ラトナラジュってなんか聞き覚えがあるような気がする。どこで聞いたんだっけ……?


「私に何か用ですか?」

「ここでは何ですから……場所を変えませんか?」

「それは構わないけど……」

「もし、私が信用おけないと言うのでしたら誰かにご同席して頂いても構いませんが……」


 なんだか見た目の妖艶さに比べて内気な気配を漂わせているシャムシエラさんに私は戸惑ってしまう。なんというか勿体ない子だなぁ。


「いや、構わないよ。それじゃあ場所を変えようか」


 私はシャムシエラさんを誘って場所を変えることにした。学院には幾つか、休憩用のスペースとしてテーブルと椅子が設置されているポイントがある。

 その一つを確保して私はシャムシエラさんと向き合う。シャムシエラさんは席に座るとこぢんまりとするように肩を窄めている。


「……えっと、それで私に話とは?」

「その前に防音の魔法をかけても良いですか? 念のために……」

「防音?」

「あまりカテナさんにとっては良い話じゃないかもしれないので……」

「えぇ……?」


 なんだか不安になってきたんだけど。申し訳なさそうにしているシャムシエラさんだけど、その瞳は真っ直ぐ私を見つめている。

 なんだか、その瞳が引っかかった。確かに彼女は見た目に比べて内気で、どこか卑屈っぽい気配を感じる。だけど、それでも不思議な程に瞳には決意を込めているように思えた。

 なんとなく放っておけない目をしていた。どうにもちぐはぐな彼女のことを知ってみたいと思えたのは、その目を見たからだろう。


「……わかった、良いよ」

「ありがとうございます……」


 私が了承すると、シャムシエラさんは魔法を行使した。その魔法を肌で感じて私は驚いた。それが、とても繊細で精密な風の魔法だったからだ。

 そして範囲も広い。この周囲一帯の音を遮ってしまっているんじゃないかと思う程だ。制御だけで言えば私も自信はあるけれど、ここまで広範囲には無理だ。

 もしかして、この子とんでもない人なんじゃ? そんな疑念から冷や汗がたらりと流れる。


「……これで私たちの会話は目視可能な範囲には遮られました。人が近づいたら察知も出来ますので、解除もすぐ出来ます。なので不自然には思われないと思います」

「……凄い魔法制御だね。驚いたよ」

「恐縮です……これしか取り柄がないので……」

「いや、十分凄いと思うけど」

「……そう言って頂けると光栄です」


 ふにゃ、と表情を崩して気弱げに微笑むシャムシエラさんはあざといぐらいに可愛らしい。同性の私でもドキッとしてしまう程に魅力的な笑顔だった。

 これは下手な男に向けたら勘違いさせるんじゃないかと心配になってしまう。


「……それで? ここまでして私に話って何?」

「はい。……カテナさん、貴方の持っているその武器は――神器ですよね?」


 その一言で私の意識が一気に切り替わる。成る程、わざわざ防音までして話を持ちかけてくる訳だと納得した。

 私が神器を所持していることは公表はしていない。そしてシャムシエラさんと接点もない。なのに彼女は私の持っている日本刀を神器だと言い当てている。


「……防音までしてこの話をしてるってことは半ば確信してるでしょ」

「……すいません。でも、必要だと思って。やっぱり本物ですよね?」

「どうやって気付いたの?」

「私も、その、神子に連なる者ですので……」


 神子に連なる……? 私が疑問に思うのと同時に、シャムシエラさんが改めて胸に手を当てながら自己紹介をした。


「先程も名乗りましたが、私はシャムシエラ・ラトナラジュ。ラトナラジュ王国の第三十七王女です。……もしかして、気付いてませんでした?」

「……はぁーッ!?」


 ラトナラジュ、王女。その二つの単語が結びついて、ようやく私は心当たりに行き着いた。

 ラトナラジュ王国はグランアゲート王国と匹敵すると言われている大国で、火と情熱を司る女神、アーリエ様を主に信仰している。

 ラトナラジュ王国の王族はアーリエ様の神子が開祖であり、多くの優秀な魔法使いを輩出している魔法大国としても知られている国だ。


「ちょ、ちょっと待って? ラトナラジュ王国の王女様? しかも第三十七王女って何!?」

「カテナさんはあまり我が国のことをご存知ないんですか? なら説明しますけど……」

「えっ、あの、本当に王女様で?」


 流石に私の態度、不敬すぎたのでは!? 慌てる私にシャムシエラさんは苦笑を浮かべた。


「王女といっても国王陛下と血が繋がってるだけで高貴な身分ではありませんよ」

「いや、そんな訳はないのでは……?」

「ラトナラジュ王国ではそうなのです。特に私のような二桁以上の王族は、そうであることが自然なんです」

「……と、言いますと?」

「ラトナラジュ王国は一夫多妻制を推奨していて、国王ともなれば何人もの妻を抱えて子を多く産むことが務めと言われています。私の母も十九番目の側室として迎え入れられました」

「十九人も側室がいると?」

「はい。そこに正室の王妃様がいるので妻は二十人となります」


 規模が凄い。なんというか、ついていけない数だ。


「その理由はラトナラジュ王国の事情にあります。我が母国は資源が薄く、土地も痩せているので生活に必要な必需品は他国の輸入に頼っています。そこで他国との繋がりを維持するために魔法使いを輩出しているのです」

「魔法使いを?」

「はい。つまり有能な人材を婿入りや嫁入りさせたり、逆に他国の人材を婚姻で取り込むことで他国との関係を深めているんです。私はその政策の一環で生まれた一人となります」


 つまり国内の資源が薄いから、他国との繋がりを深めたい。そのために差し出しているのが有能な魔法使い、ひいては王族の王子や王女ということ?

 あまりにも文化が違い過ぎて微妙な顔を浮かべてしまう。愛が多いという意味ではアーリエ様の司るものを考えれば繋がりがあるのかもしれないけど……。


「私がグランアゲート王国に留学したのも、明け透けに言えば嫁入りか婿取りのためです。ただ私は無能とされているので、そこまで締め付けはありません。はっきり言うと捨て石のようなものです。運良く誰かに見初められたら良い、と」

「無能? でも、貴方の魔法の腕前は……」


 無能だなんて言えない、と言いかけて私は口を閉ざした。儚げに微笑むシャムシエラさんの表情を見てしまったからだ。


「私の母は断れない条件を持ちかけられて後宮に入りました。王の権威を保つため、王に逆らう者はあの国では生きていくのは難しいですから。それも女の身となれば尚更です」

「……それは」

「私とて不本意の娘です。母もあまりいい顔をしませんでした。愛情を持てと言われてもいずれは私も政策のために利用される子供です。……温もりは与えてはくれませんでしたが、私に生きる術を叩き込んでくれました。親というよりは、良き師といった方が正確かもしれません」


 酷い、と咄嗟に思ってしまったのは私が家族に愛されているからだ。

 それを酷いと言ってしまうのは簡単で、でも私が言った所で何かが変えられる訳じゃない。それに母親のことを語るシャムシエラさんの目に負の感情は見られなかった。

 誇らしくて、だけどそれ以上に寂しさを秘めていた目だった。何も言えないけれど、何かを言いたくなってしまいたくなる目に拳を強く握ってしまう。


「ごめんなさい。この話をしてしまうと同情をさせてしまうとは思ってたのですが、話さない訳にもいかないので……」

「……じゃあ、シャムシエラさんは神子の一族だから私の神器に気付けたと?」

「最初は引っかかり程度のものでしたけど、先日ベリアス殿下と模擬戦をしていましたよね? あの時、こっそり後を追ってしまったんです。卑怯だと罵られても仕方ありませんので、先に謝罪します。どうしても貴方のことが気になってたんです」

「……怒りはしないけど、なんで私が気になってたの?」

「その神器はカテナさんが自作したものですよね? 色々と調べさせて頂きました。貴方が製作した新型の武器のこと、それが王家に献上されたこと、最近になって新型の武器の研究室が出来たこと……後は、見学授業の魔族襲撃時に貴方が抜け出していたことから推測しました」

「あの時、あそこにいたんだ」

「護衛として同行してました。ただ、安心してください。カテナさんのことは誰にも言ってません。当然、母国にも報告はしてません」


 それは嬉しい報告だ。私が神器を作れるなんてことがバレてしまったらどんな干渉をされるかわかったものじゃない。

 でも、だとしたらシャムシエラさんの目的は一体何なんだろう?


「貴方と話をしたかったのは、貴方にどうしてもお願いがあったからです」

「お願い?」


 シャムシエラさんはそこまで言ってから姿勢を正した。背筋を伸ばして胸を張り、私を射貫かんほどの力を込めた瞳で真っ直ぐ見つめる。



「――私を、貴方の弟子にして欲しいのです」


 

 


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