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04:まずは素材から用意しよう

「ヘンリー先生、司祭だったんですか!?」


 まさかの再会に驚いているとヘンリー先生は困ったように苦笑を浮かべた。


「いえ、数年前に助祭になったばかりですよ。助祭から司祭になるとしても、本来はもう少し実績を積む必要があったのですが……これもカテナお嬢様のお陰ですね」

「私?」

「カテナお嬢様の下に派遣するための異例の昇進ということです。私が都合が良かったという理由が一番大きいですよ。カテナお嬢様の魔法の先生を務めていて、貴方のやっていたことを知っているので。ある意味、貴方を育てたということで昇進させて貰ったと言っても過言ではありません」

「そ、そうだったんですか……」


 ヘンリー先生とは日本刀を完成させた頃から疎遠にはなっていた。私もミニリル様との修行に忙しかったし、恐らくあまり家に来なくなったヘンリー先生もその頃に助祭になっていたんだと思う。

 まさか、こんな縁の繋がり方をするとは思わなかった。それはヘンリー先生もそうなんだろうけど、お互いに顔を見合わせて苦笑してしまう。


「何かとやらかす子だと思っていましたが……本当、驚きましたよ」

「えっと、神器については秘密にしててすいませんでした……」

「それとなくクレイから事情があることは聞いてましたし、疎遠になったのもカテナお嬢様が研究していた剣を完成させた前後でしたからね。それに下手に言える秘密でもないでしょう、気にしてませんよ」


 相変わらず穏やかで癒やしの空気を振りまく方だなぁ、ヘンリー先生。なんだかホッとしてしまう。一体どんな人が来るのかと気を揉んでいたけど、ヘンリー先生で良かった。


「私はカテナお嬢様と共に研究して、その成果を教会の準神器級の武具に転用出来ないかどうか調査するのが目的となります。改めてよろしくお願いしますね」

「ヘンリー先生が一緒なら心強いです。よろしくお願いします」


 ヘンリー先生が握手を求めたので自分も手を差し出す。軽く握手をして二人で微笑み合う。

 握手を終えた所で、神妙な表情を浮かべたリルヒルテ様がヘンリー先生を見つめながらぽつりと呟いた。


「ヘンリー・アップライト……かつては凄腕の傭兵として名を轟かせていた魔法使いですね。教会に入ったとはお聞きしておりましたが、お会い出来て光栄です」

「そんな大層なものではありませんよ。少々、血の気と若気の至りが過ぎただけです」


 えっ、なにそれ。そういえば傭兵時代のお父様やヘンリー先生の話は聞いたことがなかったな。今度、聞いてみようかな。


「ともあれ、今後はカテナお嬢様の神器の研究に力添えさせて頂きたいと思います。よろしくお願いしますね」



   * * *



 ヘンリー先生と顔合わせも済んだ数日後。

 鍛冶工房の改修と整備が終わり、工房で働いてくれる鍛冶師たちも集まったということで研究室の皆と鍛冶工房に向かったんだけど、そこで数日前と似たような驚きを味わってしまった。


「おう、来たなお嬢!」

「親方!?」


 そこにいたのは私の鍛冶師としての師匠であるダンカン親方が腕を組んで待っていた。しかもダンカンさんだけじゃなくて、ウチの鍛冶工房で長く勤めていた鍛冶師たちがいる。


「お嬢が例の新型の研究室を貰って鍛冶師を探してるって聞いてな。それだったら俺たちが引き受けるってことでアイアンウィル領から遙々やって来たぜ!」

「こ、工房はどうしたんですか!?」

「若いのに継がせてきた。いつまでも俺たちがデカい顔してる訳にもいかねぇしな! それにカテナお嬢様の新型は触ってみたくてうずうずしてたんだよ!」


 プレゼントを前にしたような子供みたいなワクワクしたような顔で親方はそう言った。その様子に思わず笑いが込み上げてきてしまう。工房の人たち、大丈夫かな? いや、でも親方も無責任なことはしないだろうし、大丈夫だと思ったからなのかな。

 私としては親方たちの力を借りられるのは嬉しいけど。もしかしたら、お父様の采配も絡んでるのかもしれない。そう思うと胸がほんのりと温かくなった。


「これで研究室はいつでも動き出すことが出来ます、カテナ室長」


 代表をするようにラッセル様が言う。その隣にはヘンリー先生がいる。

 私の隣にはリルヒルテ様とレノアが。そしてダンカン親方をはじめとしたアイアンウィル領から来てくれた鍛冶師の皆。

 私は自然と笑みを浮かべてしまう。改めて身が引き締まる思いを感じながら私は言った。


「改めて皆、よろしくお願いします!」

「おうよ! それじゃあ何から始める? こっちのお嬢さん方にカテナお嬢の新型を誂える所からか?」


 早速とばかりにダンカン親方が腕まくりをしながら言った。リルヒルテ様がキラキラした目で私を見てるけど、一度視線を逸らしておく。


「そうしたいのは山々なんですけど、素材作りから始めないと……」

「あぁ、そうだったな。アレが必要か……」

「アレ、とは?」


 レノアが私と親方の間で通じ合ってるモノに首を傾げながら問いかけてくる。


「カテナお嬢が新型の素材に使ってる製鉄だ。アレがなきゃダメなんだろ?」

「それもそうなんですけど。ラッセル様、ヘンリー先生、全部の工程を魔法でやるのはダメですけど、素材に関してはどうなんですか?」

「ふむ……比較して研究したいので、出来れば魔法を除いた工程のものも用意出来るならありがたいのですが……」

「うーむ、お嬢の製鉄方法を再現するには炉から研究しねぇとダメだと思いますぜ?」

「であれば、ひとまず最初は素材に関してはカテナ室長に用意して貰い、製作はカテナ室長の指示で鍛冶師の皆様方に行って貰うのはどうでしょう?」

「それが落としどころですね」

「親方、素材はある?」

「砂鉄なら余ってるのを大量に持って来たぞ」


 とんとん拍子で話が進んでいき、日本刀の素材となる玉鋼は私が用意して、実際の鍛造は親方たちにやってもらうことにした。私が魔法でやると暫く引き籠もらなきゃいけないし、これが今の時点での最善かな。

 それなら早速とばかりに玉鋼の製造に手をつけようと親方に素材があるかどうか確認する。親方は当然と言わんばかりに親指を立ててくれた。私も親指を立てて返す。


「それじゃあ、早速……と、行きたい所ですけど、休日を待たないとダメですね」

「休日ですか?」

「素材が出来るのに、ほぼ一日仕事になるので。徹夜になりますしねぇ」

「て、徹夜……?!」


 絶句したようにリルヒルテ様とレノアが私を見るけれど、本来の製法だったら三日はかかるって言われてるから短縮されてる方だったりする。

 こればかりは魔法で直接、炉や素材に干渉出来る私の強みだったりする。親方たちには私の製鉄を見学して貰って、今後の参考にして貰おう。


「それじゃあ、鍛冶師の皆は次の休日まで各自体調を整えておいてください。代表が付いてくれても良いんだけど、出来れば全員に改めて工程を見学して欲しいから」


 私の指示に鍛冶師の皆は任せておけ、と言わんばかりに笑みを浮かべて胸を叩いた。


「勿論、私も見学を希望しますよ」

「ヘンリー先生、徹夜になりますよ?」

「実際の作業を見れば、何かお手伝い出来ることもあるかもしれませんので」


 徹夜作業にヘンリー先生を付き合わせるのは気が引けるけれど、本人がそう言うなら止める必要もないか。


「私も見学を希望します」

「お嬢様と同じく、私も」

「リルヒルテ様にレノアまで……」

「研究室の一員として見届けなければならないと思います」

「……はぁ、付き合うのは構いませんけど、眠たくなったら途中で寝てくださいよ?」


 一応、そう言ってみるけれど途中でリタイアしなさそうなリルヒルテ様とレノア。気合いが十分入っている二人に苦笑を浮かべつつ、次の休日に玉鋼作りを行うことが決まったのだった。


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