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02:ファンタジーのお約束、魔法

 私が前世の記憶を認識してから数日が経過した。

 工房を見て興奮したあまりに錯乱したと思われている私は、念のため大事を取って休みを言い渡されていた。


 記憶の整理もあったので一人でゆっくり休める時間は助かった。

 傍目から見れば大人しくしていた私を大丈夫だと判断したのか、お父様が私を執務室に呼び出した。


 私のお父様、クレイ・アイアンウィルは赤茶の髪色、錆色の瞳を持つナイスミドルだ。

 元々剣士だったけれど、自分で武器を調達することに興味を持って鍛冶師としての道を進むことに。

 当時はまだ商人兼鍛冶師だったお祖父様に気に入られて弟子になり、お祖父様が貴族になることが決まった頃にお母様とゴールインした。


 お母様は貴族になるのだから、政略結婚で良縁を探すのも選べたそうなのだけど、お母様は実家が大好きだったので先に婿を取ってしまおうということで、満更でもなかったお父様と電撃結婚。

 経緯はともかく、両親の仲は良好なので実家の空気も大変過ごしやすくて助かります。


 そんなお父様の隣には、如何にも魔法使いですと言わんばかりのローブを纏った男の人がいた。

 年の頃はお父様と同じぐらい。髪色は柔らかい色合いの金髪で、青色の瞳も穏やかな眼差しをしている。雰囲気がマイナスイオンでも出しているんじゃないかと言うぐらいに安らぐ人だ。


「カテナ、今日からお前に魔法を教える教師を紹介する。ヘンリー、頼む」

「どうも、お嬢様。ヘンリー・アップライトです」

「カテナ・アイアンウィルです。よろしくお願いします」


 お互いに一礼をして名乗り合う。この人が私の魔法の手ほどきをしてくれる人なのか、穏やかそうな人で良かった。


「私は昔、お嬢様のお父さんと組んで傭兵の仕事をしていたことがありまして。古い友人なのですよ」

「傭兵ですか」

「今は傭兵を辞めて神殿に仕えている」

「カテナお嬢様のような貴族の子供に魔法を教えるのが今のお仕事ですよ」

「なるほど」


 傭兵は各地を渡り歩いて金銭を引き換えに護衛を引き受けたり、小規模な争いを収めたりするのがお仕事だ。夢と自由はあるけれど、うまく仕事にありつけないと食うのも困る仕事だ。


 それでも浪漫を求めて、或いはそれしかなくて傭兵になる人は多い。長男が家を継ぐとなると、他の兄弟は婿に入ったり、手に職をつけるために職人に弟子入りをするとかしないと生きていけないからだ。

 そういう意味ではお父様とヘンリーさんは傭兵として生き残って、うまく次の職にありつけた成功者とも言える。


「後のことは彼に任せている。頼んだぞ、ヘンリー」

「えぇ、承りました」


 話は済んだようで、お父様は退室するよう促してきた。執務机には書類が小山になっていたので仕事の途中だったんだろう。

 私はお父様に促されるままにヘンリーさんと一緒に執務室を出る。するとヘンリーさんが私に手を差し出してきた。


「エスコート致します、お嬢様」

「ありがとうございます」


 おぉ、なんか貴族のお嬢様っぽいことをしているな、私! ちょっとだけ乙女心が動いてしまった。

 ヘンリーさんが私の手を引きながら向かったのは応接室の一つだ。


「授業はここを使って良いと聞いていますので。それでは、早速ですがカテナお嬢様の魔法適性を確認させて頂いても良いですか?」

「魔法適性?」

「はい、こちらの器具に手を置いて頂けますか?」


 事前に懐に入れて用意してくれていたのだろう器具を机の上に置いてみせるヘンリーさん。

 それは四葉のクローバーのような図形が書かれた板のような器具だ。中央には魔法陣が描かれていて、如何にも魔法の道具で感嘆の声を出してしまう。


「これは?」

「人が持つ魔力を計測したり、魔力の波長を読み取って適性を確認するための器具になります。教会で資格を取得した神官が持ち出しが可能になるんですよ。本来であれば教会に出向いて、お布施頂いた方に公開しているんです」

「私は貴族だから出向いてくれたんですか?」


 私の問いかけにヘンリーさんは何も言わずに曖昧に笑った。お布施をした人なら使える道具ってことは、教師で神官を雇うということの意味を悟ってしまう。

 つまりはお金の話なんだろうな、深入りすると藪を突いて蛇を出してしまいそうなので子供らしく気にしないことにした。


「早速ですが、こちらの器具に手を置いて貰えますか?」

「はい」


 ヘンリーさんが言うままに器具の上に手を置くと、その図形に光が灯る。

 四枚の花弁にそれぞれ赤、緑、黄、青の四色の光が灯る。ぼんやりとした光は淡くて、儚く思えてしまう。

 ヘンリーさんの顔を見ると、なんとも言えない難しそうな表情を浮かべていた。どうやら結果は芳しくないらしい。


「んー……カテナお嬢様の適性は四大属性全部に適性がありますね」

「それって凄いこと?」

「凄くはありますけど……」


 どう伝えようかなと迷っているのか、ヘンリーさんが口をもごもごさせている。

 急かすこともなくジッとしながら待っていると、言葉が纏まったのかヘンリーさんが口を開く。


「カテナお嬢様は、簡単に言うと器用貧乏です」

「器用貧乏」

「はい。四大属性の魔法はどれも使えますが、日常で使える範囲の魔法が精一杯でしょう。魔法使いとして大成は出来ないと思います。この器具は適性の有無を確認出来るのですが、光の色が淡いでしょう? 光が強い程、その属性の魔法を扱う力が強くなるのです」

「私は適性はあるけれど、出力そのものは強くないってこと?」

「そうですね。珍しくはあるのですが、それだけに勿体ないですね。これで力も強ければ王妃だって夢じゃなかったんですが」

「そういうのは勘弁です」


 心底残念そうにヘンリーさんは言ったけど、私は王妃なんてごめんだったので逆に良かった。別に魔法使いとして大成したい訳じゃなかったし。

 成り上がりの男爵の娘が才能だけで王妃になるなんて絶対面倒なことになる。多分、どっかの高位貴族の養子になってから、って話になりそう。

 私は実家が好きなので、そこまでして贅沢が出来る地位が欲しいとは思わない。


「私、実家が好きなので」

「……シルエラ様が同じことを言ってましたね。流石親子ですね」

「恐縮です」


 別に褒めたんじゃないけどなぁ、という微妙な表情をヘンリーさんが浮かべたような気がした。気がしただけなので、きっと気のせいだと思うことにした。


「とにかく、カテナお嬢様の適性はわかりました。これに合わせた授業を明日から行っていきます」

「はい、ご指導よろしくお願いします。では、ヘンリー先生と呼ばせてください」

「ははは、こちらこそよろしくお願いします」


 ヘンリー先生は大成しないって先に言ってるからあまり期待するな、って事だとは思うんだけど。それにしたって魔法である。

 流石はファンタジー、日常生活で使える範囲とは言われても楽しみになってくる私だった。


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