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23:私の邪魔をするならば、答えは一つ

本日四回目の投稿となります。お見逃しのないようにお気をつけください。

 ――時は、少しだけ遡る。

 ベリアス殿下が単身で飛び出して行った後、私たちは無事に避難所へと辿り着いていた。

 彼が残していった指示を受け、学生たちが避難所を守るべく慌ただしく動いているのが見える。その光景を一瞥してから、私は避難所から出ようとした。


「カテナさん! どこに行こうとしてるのですか!?」


 そんな私の手を取ったのはリルヒルテ様だった。その傍にはレノアもいる。


「ごめんなさい、リルヒルテ様。私、行きます」

「行くって、どこに……」

「今、この街には魔族が来ています」


 問いかけようとするリルヒルテ様の言葉を遮るように私は告げる。魔族の襲来を告げるとリルヒルテ様は信じられない、と言うような表情を浮かべた。


「魔族が……? どうしてそれがわかるんですか?」


 レノアが確認するように問いかけて来る。……このまま何も告げずに飛び出すことも出来たけれど、それでこの二人に追いかけられても困る。


「私は、神子だから」

「……え?」

「これがベリアス殿下に睨まれていた理由です。私は神に直接、祝福を受けた神子です。だから魔族と戦わなければいけないのは義務です」

「カテナさんが……神子……?」


 呆然とした様子でリルヒルテ様が私の告げた内容を復唱している。レノアは言葉もなく立ち尽くしたまま、私を見つめていた。

 いつかは話さなければならないとは思っていた。でも、出来れば知られないままでいたかった。事情があることを察してくれてはいたけど、その秘密まで知ってしまえば今までの関係でいられなくなるような気がしていたから。


「カテナさん」


 会話に加わってきたのは、ラッセル様だった。ラッセル様は何かを察したように厳しい表情を浮かべて私を見つめている。


「……どこに行かれるおつもりですか?」

「魔族が来ています。私は行かなければなりません」

「……許可出来ません」

「私は神子です。ラッセル様の許可程度で止められるとでも?」

「……貴方は、それが何を意味するのかわからない訳ではないでしょう?」


 ラッセル様は諭すように私に語りかけてくる。その厳しい言葉の裏側には、私への労りが感じられる。


「行けば、もう隠し立ては出来ませんよ。それはベリアス殿下も望みません。平穏に生きたいのでしょう? でしたら、貴方はここで一生徒として……」

「私よりも飛び出したいのはラッセル様の方でしょう?」


 私の指摘にラッセル様は大きく目を見開かせた。その後、大きく肩を震わせて視線を逸らした。握り締めた拳が力を込めすぎて震えている。


「あの馬鹿殿下を一人にしておけません。それにここで私が何もしなかったら、それこそ神が私を許さないでしょう。私も自分が許せなくなる。貴方だってそうなんじゃないですか? ラッセル様」

「……私は……いえ、ですが、殿下はそれを望みません」

「望まないからって、与えたら駄目だって話じゃないと思います」


 私の言葉にラッセル様が勢い良く顔を上げて私を見る。


「……あの馬鹿殿下は特別になりたいし、特別になれるんでしょう。でも、はっきり言って理解したくない馬鹿です。あんな頑なになって、頭が石で出来てるのかと問い詰めてやろうかと思う程です。だから殿下は受け入れない。人が普通に受け取れるものを。それすらも捧げないといけないと思ってる。でも、そんなの巫山戯るなって思うじゃないですか」


 王になりたいんだったら、ただ偉そうにしていれば良かった。なのにあの馬鹿殿下は一人で立ち向かっていった。自分が頭を垂れさせるに相応しい存在の証明のためだけに。

 まったくもって理解出来ないし、共感もしたくない。なのに理解をしてしまうのは自分が選ばない道を進む人だと嫌でも理解させられるから。だからこそ見えてしまう。


 ――ベリアス殿下は、このまま行かせればずっとどこまでも一人だ。


「私は、一人で全部守れるだなんて思い上がってる馬鹿は大嫌いなんですよ」


 一人で出来ることなんて、手の届く範囲のことで精一杯だ。手の届く範囲を守るのが王様の仕事じゃない。

 もっと大局を見ろって、周りの人を見ろって、あの馬鹿殿下に言ってやりたい。こんなに思っている人を悲しませてでも進む道じゃないって首根っこ引っ掴んで引き摺り戻してやりたい。


「邪魔なんですよ、無駄に地位があるのに出しゃばられるのは」


 もっと他にやるべき事が貴方にはあるでしょう。貴方にしか出来ないことがあるでしょうって。それを突きつけてやらなきゃ、あの馬鹿はわかりそうにない。

 結局の所、私はベリアス殿下のように大義なんて理由で戦えない。私が戦う理由は、いつだって一つ。


 ――私の邪魔をする奴は、皆ぶっ飛ばす。


 この街には人々の営みがあった。その中には親方たちの仕事も含まれていた。

 私たちは繋がっている。その繋がりが人に幸福を運んでいる。その幸せを見るのは、私にとって大事なことだったんだ。

 だから、その幸せに火を放った者が許せない。理由はいつだって簡単明瞭、それで十分なんだ。


「ラッセル様から見て、あの馬鹿殿下がどう見えるのかはわかりませんし、共感出来ないと思います。私から見ればあいつはただの馬鹿野郎でしかないので。でも、もしラッセル様も馬鹿野郎って思う事があるなら言うべきだったんじゃないですか?」

「……カテナさん」

「大事なんだって言ってやってくださいよ。じゃないと自覚しないですよ、石頭の俺様なんですから」


 私は言いたいように言って背を向ける。結局、私は他の人の責任を背負えるようなことは出来ないし、無責任なことしか言えない。

 でも、責任ばかりに雁字搦めにされるぐらいなら全部ぶった切って進む。そう生きると決めているから。


「カテナさん!」

「……リルヒルテ様」

「聞きたい事も、言いたい事もいっぱいあります。――だから、ご武運を」


 リルヒルテ様は本人が言うように何か言いたげな表情で私を睨んでいる。でも、口から出たのは祈りの言葉だった。

 つい、そんなリルヒルテ様の頭を撫でてしまった。リルヒルテ様は驚いて私の顔を見つめる。無意識の行動に自分でも気付いて、すぐに手を離す。


「必ず戻ります。だから、ここをお願いします」

「任されました」

「カテナ様、私からもご武運をお祈りします」


 レノアもリルヒルテ様に続くように祈りをかけてくれる。私は笑みを浮かべてレノアに拳を差し出す。私の意図を汲み取ったようにレノアが私と拳を合わせてくれた。

 ラッセル様に視線を向ければ、何か葛藤するように唇を固く引き結んでいた。何を言われてももう止まるつもりはなかったけど、それを良いことに私は背を向けて駆け出した。


 ――私が駆け出したのに遅れて、ラッセル様が追いかけてくる気配を感じながらも私は走る速度を上げて街を駆け抜けた。



   * * *



 それからベリアス殿下に助けられたという兄弟を発見出来たのは幸いだった。

 どうやら避難の混乱の最中で親とはぐれて迷子になってしまっていたらしい。彷徨っている先でベリアス殿下と魔族が戦っている現場に出くわし、ベリアス殿下が二人を庇ったことを聞いた。


 事は一刻を争うと、なんとか兄弟には自分たちで安全な場所まで行くように指示を出した。

 子供にこの状況で二人で安全な場所に向かえ、というのは酷だとは思う。だけど幼い兄は意を決したように歯を噛みしめて頷いた。



 ――僕たちは大丈夫だから! だから、あのお兄ちゃんを助けて!



 その必死な願いを聞き届けて、私はベリアス殿下の下に駆けつけることが出来た。

 案の定、私が現れたことが気に入らなかったみたいで喚かれたけれど。まったく、重傷人は黙ってればいいのに。本当、ラッセル様が付いて来てくれて良かったわ。

 ベリアス殿下を抱えて遠ざかっていくラッセル様の背を見送っていると、私が蹴り飛ばした魔族が瓦礫を吹き飛ばしながら起き上がった。


「女ぁ……! よくもやってくれたなぁ! このマグラニカ様を足蹴にするとは、生きたまま焼かれて悲鳴を上げたいんだよなぁ……!」


 マグラニカと自称した魔族が猛るように仄暗い炎を展開する。まるで私へ威嚇するように牙を剥いているかのようだった。

 私はゆっくりと息を吐き出して向き直る。明らかに常人とは思えぬ色彩を持つ魔族の姿を視界に収めた。


「この気配、お前も神子か? 次から次へと俺様の娯楽を邪魔しやがって……!」

「……今、娯楽って言った?」

「あぁっ? そうだよ! 娯楽だ、娯楽! 人を焼くことこそが至上の快楽だ! お前も良い悲鳴を上げて――」



 ――あぁ、なるほど。

 何を喚こうが、こいつは始末する。今、そう決めた。



「――〝お目覚めを〟。カテナ・アイアンウィル、参ります」

『――うむ、見届けようぞ。我が神子、カテナよ』


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