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20:見学授業はちょっとした小旅行

 ベリアス殿下と会話した後の放課後、私はリルヒルテ様とレノアに事情を説明した。するとリルヒルテ様が悩ましそうに顔を歪ませて、額に手を添えた。


「……そんな事が。申し訳ありません、それは私の責任ですね。カテナさんにご迷惑をおかけしてしまいました」

「そんな、リルヒルテ様が謝ることじゃないですから……」

「いえ、自分の立場と影響力を軽んじた結果です。カテナさんとの鍛練が楽しくて役割を忘れていました。今度からそちらにも力を入れたいと思います」


 悔恨極まると言わんばかりの表情を浮かべてリルヒルテ様は強く言い切った。こればかりは私が何の力にもなれないことなので、申し訳なく思うことしか出来ない。


「ですが、ベリアス殿下から話かけて頂いたのですよね? 険悪だとは聞いていたので、なるべく私も傍にいるべきかと思ったのですが……」

「いや、険悪なのは変わらないです。お互いにお互いが気に入らないのも。けど事を荒立てるつもりはないというか……なので、大丈夫だと思いますよ」

「……なんと言いますか、カテナさんは本当に規格外の方なのですね。だからベリアス殿下も気にしてらっしゃるのでしょうか……」


 規格外と言われると否定出来ない。実際、神子に認定されてる訳だし……。


「……ベリアス殿下も、昔はあんな方ではなかったのですが」

「……そうなんです?」

「はい。昔はもっと私や王女様たちに優しくて、良き兄君だったんです。でも、いつからか誰にも心を開かなくなってしまったんです。その分、王子としての務めや教育には力を入れるようになったのですが……王子としての自覚が出たのだ、という方もいますが、私にはそうは思えないのです」


 あのベリアス殿下が良い兄をしていた? いまいち今の印象と結びつかなくて首を傾げてしまう。

 すると、私の様子を見たリルヒルテ様は寂しげに笑みを浮かべたことに気付いた。


「無理もありません。今のベリアス殿下を見れば、良き兄であったなんて信じられないですよね。でも、本当に良い兄だったんです」

「……いつから変わってしまったんですか? 何かキッカケとか……」

「五年ほど前ですね。キッカケといっても、特にこれといって心当たりはないのです。その頃から王女様たちの所にも尋ねてこなくなって……」

「側室様との関係は?」

「特に悪い訳でもないかと……正直、ラッセル様でも理由を把握しかねてるので、どうしてベリアス殿下が心を閉ざしてしまったのかはわからないのです」


 特に周囲がキッカケとなるような出来事があったとは思えなくて、原因があったのだとしてもベリアス殿下以外にはわからない、か。


「……やっぱり理解出来ないなぁ」


 ベリアス殿下がやってる事は私とは真逆と言っても良い。私は自分が特別な存在だとしても特別であることに価値を見出していない。

 でも、ベリアス殿下は特別である事にこそ価値を見出している。私と逆の考え方をしているとするなら、特別であるために普通であることを捨てたのがベリアス殿下だ。でも、だからこそ思うことだってある。


「……捨てていいものじゃないでしょ」


 ラッセル様も、リルヒルテ様だってベリアス殿下を疎ましく思っている訳じゃない。むしろ心配をして、言葉が届かないことに心を痛めている。

 あの俺様殿下が何を思ってそこまで頑なになっているのか知らないけれど、気に入らない以外の言葉が浮かばない。

 でも気に入らないと思うのと同じぐらい、きっとそこまでしなければいけない理由があるんだろうとも思う。

 はぁ、面倒臭い。ベリアス殿下が関わるとそれしか言葉が出て来なくなる。


「あの調子でしたらベリアス殿下が私に何かしてくるって事はないと思いますから、リルヒルテ様は自分の事を優先してください」

「……申し訳ありません。では、今度から毎日ではなくてお互い日を決めてということで。あと、カテナさんも私たちのお茶会に参加するのも良いと思うのですが?」

「あー、まぁ、それは追々ということで……」


 リルヒルテ様とは個人としてはお付き合いしても良いと思ってるけれど、そこまで行くと派閥だとか面倒な話になりそうなので断りたい。

 それはリルヒルテ様も察してくれたのか、笑って話を流してくれた。それから私たちは別の話題で盛り上がりながら解散するのだった。



   * * *



 法政科の授業の中には、領地を見学して領地の実態を調査する授業がある。

 毎年、領地が幾つか選ばれて学生たちが見学するため、事前に調査が入る。これも不正を防ぐための一環であり、学生たちの参考にもなるので一石二鳥なのだとか。


 法政科の生徒の他にも騎士科や魔導科の生徒が護衛として同行している。

 護衛としての同行は希望者だけとされてるけど、よほどの事がなければ経験を積んだり単位欲しさに皆、参加している。

 


「……で、わざわざ私の護衛として付いて来たんですか、二人とも」

「えへっ」


 この授業、予めパートナーを指定していて合意を貰えれば組を組むことが出来る。

 なので、何故か私の護衛としてリルヒルテ様とレノアが付いて来た。いや、本来だったら身分的に立場が逆なんじゃないかと思うんだけど。


「ガードナー侯爵家に生まれたことを嫌だとは思ったことはありませんが、時には身分や立場を忘れて一介の騎士を夢見る乙女として振る舞いたい時があるのです」

「……だからって私の護衛を指定する必要はないじゃないですか。というか、私は直前に聞いたんですけど?」

「そこはお嬢様がラッセル様に協力をお願いしました」

「ラッセル様……」


 これ、私たちが組んでいた方が良いっていう判断なんだろうなぁ。私の護衛という名目でリルヒルテ様がついてくるなら、もし仮に何かが起こった時には私がリルヒルテ様を守ることが出来る。

 一方で、一応はベリアス殿下とは相互不干渉を決めたとは言っても何が起きるかわからないので、王家に近しい関係者の目を置いておきたいという思惑もあるんだと思う。


「はぁ、深く考えないようにしておこう……それで今回の見学先については聞いてますよね?」

「ヘイムパーラ伯爵領にあるマイアですね。流通の拠点の一つとも言われて、栄えている街の一つとして数えられています」


 マイアという都市はリルヒルテ様が言うように流通の拠点の一つだ。

 武器も食料も必要としている人に届かなければ無用の長物、だから届ける人もまた重要だ。

 それだけでも見学の対象になるマイアだけど、選ばれた理由はもう一つある。


「同時にマイアは昔から魔物の襲撃も多く、それを退け続けてきた堅牢な都市でもあります。この都市がどのように維持されているのか、それを見るのも大事なことですね」


人類の忌むべき天敵、魔族。その魔族によって生み出された魔物はいつだって世界を脅かしている。

 魔物の厄介な所は、発生が神出鬼没であることだ。何の前触れもなく魔物が出現し、小さな村が潰されるなんてこともない訳じゃない。

 けれど今日に至るまで魔物の出現条件となるような手がかりは何一つ掴めていない。


 マイアは頻繁に魔物の襲撃が起きる都市だった。マイアは流通の要の一つであり、魔物の出現が頻繁に起きることから魔物出現の法則を探る手がかりになるかもしれない。

 そんな思惑から予算もかけられ、マイアは華やかでありながら堅牢な都市となった。


「私もお父様に連れられて子供の頃に連れてきて貰ったことがあるんです。だから少しなら道案内が出来るかと思いますわ」


 リルヒルテ様はそう言って、楽しそうに笑みを零す。

 あまり浮ついてたら怒られるんだろうけども、ちょっとした旅行みたいなものだ。少しばかり楽しんでも罰は当たらないだろう、と思うのだった。



 

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