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14:持ち込みの武器は登録しましょう

タイトルを変更致しました。本作を今後ともよろしくお願い致します。

 私が通う学院、ブラットフォード貴族学院はグランアゲート王国の王都に存在している。

 貴族学院の基礎を生み出した過去の王、ブラットフォード・グランアゲートによって開校されたこの学院は長い伝統を積み重ねながら、今日まで多くの生徒を導いてきた。


 ブラットフォード貴族学院は、その敷地の広さもあって一個の街のようになっている。最初は王都の端に建てられたのだが、増築と改装を重ねた結果、今のように巨大化したそうだ。

 貴族学院と名前がついているものの、後の時代で貴族に仲間入りする可能性が高い平民などの入学も許されるようになり、それが平民も試験を受けて合格すれば入学出来るように変化していった経緯がある。


 ブラットフォード貴族学院を発端として学院という概念は王国全体に根付きつつあるものの、高度な専門的な教育を施せるのはブラットフォード貴族学院しかないのが実情だ。なので、ここの卒業生というだけで箔がつく。

 平民にとっては将来の道が一気に開くことが出来るし、貴族にとってはここを卒業出来ていないということは不名誉にも等しい。それぞれの思いや事情を抱えて、生徒たちは学院へと通う訳だ。


「カテナ・アイアンウィル様。はい、アイアンウィル男爵のご令嬢様ですね?」

「はい」

「……確認が取れました。改めてようこそ、ブラットフォード貴族学院へ。私たちは貴方たちを歓迎します」


 入寮するための手続きを担当してくれた受付のお姉さんが人好きのする笑顔で私を歓迎してくれた。

 なんというか新鮮だ。もう実家での私の扱いは珍獣扱いだし、領民からも親しまれているけれどお嬢様って感じでは扱われなくなっていた。皆、お嬢って私のことを呼ぶし、なんだか気分はヤクザの跡取り娘だ。いや、日本刀は持ってるけどさ!


「あっ、そうだ。武器持ち込みの登録手続きもお願いします」

「あぁ、持ち込み。……将来は騎士志望で?」

「いえ、あくまで護身用に……」

「そうですか」


 私みたいに武器を所持している人は学院に武器の所持を登録しておかないといけない。もし刃傷沙汰が起きたら犯人を特定しないといけないし、当然の処置だと思う。

 ちなみに登録申請をしない武器を所持していることがバレたらほぼ一発で退学、場合によっては隠蔽の罪で牢屋まで直行だとか。

 これは兄様やラッセル様が教えてくれたので、素直に私は受付に日本刀を見せる。


「これは……湾曲剣ですか? 随分と変わったものですね」

「はい。アイアンウィル領で研究されている新型なんですよ」


 私が研究しているだけだけど、嘘は言ってない。


「なるほど、そうなんですね。それでは試し切りで切断面なども見たいので演習場に向かってください。そこで担当の者が待っていますので、所持登録に来ましたと言えば案内して貰えます」

「わかりました」


 手早く手元の書類に何か書き込んでから、受付のお姉さんは私へ手渡した。書類を受け取った。それから道順を聞いて、そのまま演習場へと向かう。

 私の他にも何人か武器の登録に来ていたのか、ちらほら人がいるのが見えた。他の人が持っている武器がやや気になりつつも、受付を担当していると思わしきお兄さんへと声をかける。


「あの、すいません」

「ん? ……お嬢さん? ここに何の用でしょうか?」

「武器の持ち込みがありましたので所持登録を受けにきました。こちら、書類です」

「可愛いお嬢さんなのに勇ましいですな。……えっ、アイアンウィル!? ってことは、クレイの兄貴の娘さん!?」

「えっと、クレイ・アイアンウィルなら父ですが……」


 私から笑いながら書類を受け取ったお兄さんが書類に記された私の名前に反応を見せた。どうやら父を知っているらしい。


「これは失礼しました! ははぁ、確かに言われるとシルエラ様の面影がありますね」

「父とはお知り合いで?」

「私が駆け出しだった頃にお世話になった恩人です。そうか、兄貴の娘さんですか……もうこんな大きくなったんですねぇ、年を食ったものだなぁ。私はモッド・レイヴです。この学院の警備として雇われています」


 モッドと名乗った男性を改めて見つめてみる。私が見上げる程に長身で、剽軽な印象を受ける笑顔を浮かべている。

 髪の色は褐色、肌には過去についた古傷が所々に見えた。それが過去、傭兵だったことが本当なんだと思わせる。


「ご丁寧にありがとうございます。それで、武器の登録に来たんですけど」

「はいはい。じゃあ、持ち込む武器を見せてもらっても良いですか?」

「こちらです」


 私が日本刀を手渡すと、受け取ったモッドさんは目を丸くした。


「うぉ、見たことがない形状だな……湾曲剣ですか?」

「アイアンウィル領で研究されている新型です」

「へぇ! じゃあ、こいつも近々売り出されるんですか?」

「それはまだ未定でして、何とも……」

「そうなんですか。こいつはちょっと切断面を見せて貰わないと分類がなぁ、それはそれで助かるけれど、あまり例がないとな……」

「モッドさん?」

「あぁ、すいません。持ち込んだ武器が独特だと犯人捜しをする時には助かるんですが、それが冤罪だった場合もあるんで怖いんですよ。盗難には気をつけてくださいね」

「……わかりました」


 盗んだらミニリル様にやられてしまうかもしれないけれど、そうなると管理がなってないと怒られるのは私なんだろうな、と思ったのでしっかりしないと。


「切断するのを見せるだけでいいんですか?」

「それだけで全部わかる訳じゃないですが……こういうチェックしてるから監視はちゃんとしてるんだぞ、っていう周知のためでもありますね。さっきも言った通り、冤罪を仕向ける奴が出る可能性もゼロじゃないんで。あ、試し切りはそこの巻藁を使ってください」


 試し切りのために設置されている巻藁を束ねた的を示しながらモッドさんは言う。

 さて、試し切りをするのは構わないんだけど……。


「モッドさん」

「ん?」

「全力でやった方が良いですか? こう、切ってる所を見せる必要があるかって質問なんですけど」

「そうですね、出来れば見せて貰えると。手加減して人を斬り付けるようなことも早々ないでしょう?」

「わかりました」


 確認を取ってから、私は日本刀を腰に戻す。日本刀用に誂えた剣帯がズレていないかを確認して、精神統一のために深呼吸。

 無駄な力を抜いて、脱力した状態を作って――抜刀。一拍の間に巻藁を切り裂き、そのまま鞘へと走らせて納刀する。そして思い出したように巻藁が地へと落ちた。


「終わりました」

「…………」

「……モッドさん?」

「……え? あ、あれ? は……? 今、抜いた……?」

「えぇ、切りましたけど」

「……速すぎて、何が何だか。えっ、怖っ」

「怖い!?」


 モッドさんは口元を抑えて、まるでドン引きしたと言わんばかりに私を見ている。

 うっ、しまった。普通に抜いてから切れば良かった。つい居合いをやってしまった私が悪いね、これは。


「うわぁ……断面もすっぱり行ってる……怖ぁ……」

「せ、切断力が売りなので……」

「それ、本当に売りに出さないんですか? 俺……ごほん、私も興味が出てきたんですが」

「ちょっと普通の剣とは勝手が違うんですけど、それでもですか?」

「あぁ、こいつは騎士には不評かもしれませんが、傭兵とかなら需要があると思いますよ」

「そうなんですか?」


 騎士には不評だけど、傭兵には需要がある? これはもしかしたら何かの参考になるかもしれない。確かに以前から騎士には不評だろうとは聞いていたけど、傭兵には需要があるということはどういう事なんだろう?


「騎士様ってのは全身を鎧で固めてますし、馬での移動も多いんで馬上でも使える大剣とかが都合が良いんですよ。騎士は魔物や魔族だけじゃなくて他国に対しての力を示すためにも必要で、だから見た目とかの厳つさも重要なんです」

「ははぁ……成る程? それで傭兵に需要があるというのは?」

「傭兵は騎士に比べて斥候や個人単位での護衛が主な仕事ですからね。勿論、大規模の魔物討伐に呼ばれる時もありますが、普段の仕事としては斥候や護衛の方が主です。なので取り回しやすい武器の方が好まれるんですよ。勿論、騎士みたいに大剣振り回してる勇猛な傭兵もいますが、基本的に何でもやらないと傭兵ってのは食っていけないんで……」

「ある意味、大剣が騎士の象徴とも思われてる訳ですか」

「騎士は魔物を相手にすることも多い関係上、どうしたって数が多い時は一対多数なんて状況もありますからね。薙ぎ払っても良し、咄嗟の盾に使っても良い。だから大剣が都合が良いって言われてるんですよ」


 なるほど。そういう視点と価値があるからこそ大剣が騎士たちには尊ばれる訳か。確かにそれなら日本刀が細くて頼りない、って言うのは間違ってはいない。

 じゃあ、この世界で日本刀がまったく需要がない訳じゃないのか。これはお父様や親方、あとはラッセル様にも相談してみても良いかもしれない。貴族には売れなくても、傭兵に向けた武器として売り出すのはありなのかも。


「ともあれ、カテナお嬢様の武器登録は確認させて頂きました。これだけ断面がすっぱり行くと、本当に武器を盗まれた時とか疑われる可能性が高いんで十分注意してください。あと、揉め事も起こさないようにして貰えると仕事が減ります」

「わかりました、気をつけます」

「……カテナお嬢様、自分は平民なんで敬語は使わなくて良いっすよ?」

「あー……つい年長は敬わないといけないと思ってしまって……」

「大事なことですけど、自分は平民でお嬢様は貴族ですから。一応、学院は建前として生徒は身分を気にせず、とは言ってますが無視出来ることじゃないんで。目をつけられないようにしてください」

「……そう出来れば良いんだけどね」


 はぁ、と深く溜息を吐いた私にモッドさんは不思議そうに首を傾げていた。

 私だって静かに暮らせるなら静かに暮らしたい!


面白いと思って頂けたらブックマークや評価ポイントをよろしくお願いします。

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