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12:視察と修行の開始

本日二回目の更新となります。お見逃しのないようにお気をつけください。

 ラッセル様に〝お手玉〟を見せた後、私は彼を工房へと案内すると、日本刀を作る手順を紹介した。

 最初は説明する度に何度も念押しをするように確認をしていたラッセル様だけど、だんだん何も言わずに気のない返事をするだけになってしまった。

 流石に心配して様子を窺っていると、ラッセル様は眼鏡を指で押し上げながら固い声でこう言った。


「カテナ嬢、これは……軽々しく他人に広めてはいけません」

「はい?」

「貴方の剣の製法〝だけ〟ならまだしも、貴方が行っている製法の手順は広めるべきではありません。同時に八種の、それも属性が異なる魔法の並行発動と操作。四大属性の適性持ち、更には女神の神子である。知れば誰もが貴方の身柄を狙うでしょう」

「……そこまで言われる希少価値が私にあります?」

「あります。……本当に、陛下へのご報告を考えると気が重たくなる程には」

「……その、なんだか、ごめんなさい?」


 あまりにも気の毒な様子に思わず謝罪してしまう。するとラッセル様は力なく首を左右に振りながら苦笑を浮かべた。


「魔法そのものはともかく、魔法を操る技量は他の追随を許さないでしょう。その技術を駆使することで貴方は神器を〝量産〟出来る。これだけでも国で保護されるべき技術です」

「そう簡単でもないですけどね、これだけの一品を作るのに。だから色々と面倒が多そうな王族にはなりたくないんですよ」

「……王家の支援を受ければ、思いのままに素材を使えて作れるとしてもですか?」

「それ、本当に自由です? 飼い殺しって言いません?」


 ラッセル様は私の指摘に言葉を詰まらせた。それに小さく溜息を吐きつつ、ぼんやり考えてみる。


「贅沢をすれば、本当に良いものが作れるんですかね?」

「……え?」

「勿論、使える素材が良いものに越したことはないですよ? 私の技術だって、素材の質が良ければやらなくて済む工程もありますし。省けることは省いた方が効率が良くなります。でも、効率を良くすることだけが正しいなら、正しいことだけしかない世の中なんてつまらないなって思います。だって、それなら皆が同じことだけやっていれば良いんですから」


 今だったらわざわざ砂鉄から玉鋼を作らなくても、鉄鉱石をお父様に言えば融通してくれるかもしれない。それを加工した方が手間がかからないと思う。

 それに、工程の一つを省くということは、私の魔法を使う工程が減るってことだから、もしかしたら神器に至る可能性も減らせるかもしれない。むしろ、量産するならそっちの方がいいのかも。

 実際にやってみないとわからないから、それが正しいのか間違っているのかも私にはわからないけど。


「だって、間違いなく私より贅沢な暮らしをして、私よりずっと良い教育を受けられる殿下がアレですよ? お金かければ必ず良いものになるなんて幻想ですよ、幻想」

「――殿下は!」


 私が鼻を鳴らして言うと、ラッセル様が思わずといった様子で大きくなった声で私に訴えかけるように何かを言いかける。

 けれど、すぐに自分の声量に気付いて申し訳なさそうに眉を寄せた。


「……申し訳ありません。その、あの方も、悪い所ばかりではないのですが……」

「……いえ、こちらこそすいません。私の作ったものを扱き下ろされたので、どうにも殿下への印象が最悪で」


 脳裏にあの俺様殿下の顔が浮かぶと苦々しい思いが込み上げて来る。でも、それをラッセル様に言う必要はなかった。反省しなきゃ。自分が仕える人を貶されたら黙ってられない立場だよね。

 それにラッセル様から見て、あの俺様殿下にも褒められる所があるのかもしれない。それは私よりも付き合いが長いんだろうし、知っていて当然だ。


「……ともあれ、お金だって、時間だって、技術だって、願いだって、そういうものと真剣に向き合った分だけ返ってくるものなんだと私は思いたいんです。だから、ただ贅沢にすれば良いものが出来るって思われるのは癪と言うか、納得いかないんですよね。真剣に向き合うとしても、きっと一番良い形ってあるんだろうな、って」

「一番良い形……」

「鞘の形が違うなら、剣なんて収められないでしょう? それじゃあ無価値じゃないですか。でも、剣と鞘がピッタリならそれは良いものです。人によってそれぞれピッタリ合う形があると思うんですよ。私はそんな風に生きられたらいいなって」


 誰かに強要される訳でもなく、自分が自分で選んだ道として。

 今は状況に流されるしかない。流されてしまうのは、私に力が足りないからだ。それが私にぴったりの人生だなんて思いたくない。

 自分が思い描く理想を叶えることも、大事なものを守ることも。何一つ、まだ私は果たせそうにない。だから、私は強くならなきゃいけない。誰よりも自分の人生の為に。


「……貴方は、その力で何を為すのですか?」

「はい?」


 不意にラッセル様が真剣な表情で私を見つめていることに気付いた。この力で何を為す、と聞かれても困る。

 だって、私はただ理想の日本刀が自分の手で作りたいだけであって、それ以外に大層な願いは持ってない。


「私は、ただ自分の好きなように生きるだけですよ」

「その力があれば、もっと多くのことを成し遂げられるとは思わないのですか?」

「私は手が届く範囲のものがあれば、それで十分ですよ」

「それだけの力を持ちながら……?」

「力があれば理想が叶えられるなら、とても生きやすい世界になりそうですね」

「……本当に貴方には野心がないのですね」


 肩の力を抜くようにラッセル様は溜息を吐いた。私は思わず苦笑を浮かべてしまう。


「私、面倒なことは嫌いなので」

「……よくわかりました。不躾な質問をしてしまったこと、お許し下さい」

「いえいえ、私を見定めるお仕事もあるんですよね? だったら是非とも、私が危険人物ではないことを王家にご報告して頂ければ!」

「……野心はありませんが、危険がないとは言えないですね」

「えぇーっ!?」


 そんな、どうして……! こんなフレンドリーに接しているというのに、私は何も企んでいないし、国に逆らうようなつもりなんてないのに!

 あっ、でも俺様王子が即位したらどうしようかな。その時はこの国を出て行くしかなさそうかなぁ、肩身が狭くなっちゃいそうだし。


「ふふ……貴方とはこれからも良き関係でいられればと思っていますよ」

「えぇ、こちらこそ」


 私はラッセル様に手を差し出して握手を求める。私の顔をまじまじと見つめていたラッセル様だったけど、すぐに笑みを浮かべて私と握手を交わしてくれた。

 よーし、私が人畜無害なことをアピールして平和を勝ち取るぞ! 頑張れ、私!



   * * *



 ラッセル様との出会いから数日後。ラッセル様は一度、陛下へ報告するために王都へと戻っていった。

 往復するのに楽な距離ではないので、陛下の名代として目になるのも大変だなって思う。

 さて、それはそれとしてラッセル様がいない間に出来ることをやっておかないと。別に隠してる訳じゃないけど、かといってわざわざ見せることでもないし。


「それじゃあ、ミニリル様! ご指導、よろしくお願いします!」

「あの騎士がいると体力作りと基礎しかやれないからな。やや詰め込みになるぞ?」


 ミニリル様が実体化して、自分の依代となっている日本刀を抜く。子供の姿なのにあっさりと日本刀を抜くのは何気に凄いなって思う。


「依代にしたことで、この剣のことも色々と学ぶことが出来た。その扱い方についても構想が浮かんでいる」

「私はミニリル様の構想した剣術を身につければ良いんですよね? でも、ミニリル様でも日本刀って見た事はなかったんですよね? 大丈夫なのかな、って」

「ほぅ? 我を疑うか?」


 私へと流し目で視線を送って、にやりと笑うミニリル様に背筋に悪寒が走った。慌てて首を左右に振る。


「なに、案ずるな。本体のお気に入りの武器にはこうした湾曲した剣もあるからな」

「……ヴィズリル様ってもしかして複数の武器を扱えるんですか?」

「美しい武器には見合った作法が存在する。武器を扱うのであれば、何よりもその武器の力を引き出してやらなければなるまい?」

「まぁ……言わんとすることはわかりますけど」

「この日本刀の売りは切断力だ。力任せに押して斬れなくもないが、それは本分ではない。我が言わずとも、刃の立て方はお前も心得ていると見ているが」

「それは、まぁ制作者ですから」

「頭ではわかっていても身体が追いつくかどうかは、普段の修練次第だ。であれば、使い方そのものは基礎の訓練を積み重ねていけば良い。なので我が教えるのは日本刀を使った立ち回りだな。という訳で……」


 日本刀を鞘に収めてから私に手渡し、ミニリル様は事前に用意しておけと言っていた木剣を手に取る。その感触を確かめるように何度か振ってから、様になった構えを取る。


「お前に課題を与える」

「……課題?」

「私との立ち回りの間に、私の木剣を切り落としてみせろ」

「……それだけでいいんですか?」

「――それだけと言ったか?」


 目は離していなかったのに、呼吸の合間にミニリル様がブレたかと思えば姿が消えた。

 消えた、と思ったのは一瞬。けれど、その一瞬の間で木剣の切っ先が私の喉に突きつけられていた。


「……これを見切ってから言うのだな」

「……ひゃ、ひゃい」

「次から全力で殴るからな。死ぬ気で避けろよ」

「えっ」

「なに、腕や足を切り落とされる訳ではないのだ。骨折ぐらいはするかもしれんが、嫌なら足掻け」


 そう言いながらサディスティックな笑みを浮かべるミニリル様。……あれ、女神? 悪魔の間違いなんじゃないですかね!? 


「では、行くぞ」


 数分後、私の悲鳴が屋敷の中庭に響き渡ることになるのだった。


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