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11:王家の使者はクールな眼鏡のお兄さん

 国王陛下との謁見が終わって、二週間ほどの時間が経過した。領地に戻った私たちの下に王家からの使者がやってきたのは、それぐらいの頃だった。


「アイアンウィル男爵、此度の訪問と逗留を許して頂きありがとうございます。私はラッセル・マクラーレンと申します。所属は近衛騎士団です。本日から陛下の名代としてよろしくお願いします」

「はるばる王都からよく来てくれました。我が家は貴方を歓迎します」


 使者との顔合わせということで、私も身綺麗にしてお出迎えをした。

 ラッセル・マクラーレンと名乗った騎士は、まだ二十代頃の男性だ。髪の色は白みを帯びた水色で、尻尾のように伸ばした髪を後ろで結んでいる。

 瞳の色も群青色で全体的にブルーな色彩の人だ。物腰も丁重で、真面目でクールな印象を受ける。眼鏡もつけているのが印象を加速させている要因だろう。


 それにしても近衛騎士か。騎士の中でもエリート中のエリートしかなれない近衛騎士団の一員が来るなんて。

 それにマクラーレンって侯爵家じゃなかったっけ? しかも王妃様の生家。ラッセル様もよくよく見れば王妃様と似たような髪の色をしているし……ご親戚?

 そんな疑問からラッセル様を見つめていると、彼も私へと視線を向けた。するとラッセル様が表情を引き締め始めた。


「貴方が、カテナ・アイアンウィル嬢でしょうか?」

「カテナ・アイアンウィルと申します。本日は我が屋敷にお越し頂き、ありがとうございます」

「ご丁寧にありがとうございます。……早速ですが、何よりも先に伝えなければならない陛下からのお言葉がございます」


 ラッセル様の言葉にお父様とお母様の表情が引き締められた。ラッセル様と会うための場として選ばれたのはお父様の執務室で、予め人払いがされている。こうなる事を予想して人払いしておいたんだろう。

 すると、ラッセル様が勢い良く、そして深く頭を下げる。突然の事に私たちは呆気取られたようにラッセル様を見つめることになってしまった。


「まず、陛下は先日のカテナ嬢に対するベリアス殿下の無作法を謝罪したい、と言伝を預かっています。あの場では従者の目もあった為、すぐさま謝罪出来なかったことを改めてお詫び申し上げるとの事です。私からも改めて謝罪させてください。ベリアス殿下の無作法、真に申し訳ございませんでした」

「はぁ……そうですか」


 謝罪ねぇ。まぁ、あの場で王族が頭なんて下げたら問題になるのはわかる。こうして人払いをして、当事者だけだから謝罪していると伝えることが出来るんだと思う。……それでも、やっぱり釈然としないけど。


「殿下の無作法はカテナ嬢だけでなく、カテナ嬢を見初めたヴィズリル様に対する無礼でもあった為、本来であれば本人に謝罪させるのが筋ではあると思いますが、このように口答の謝罪になることを許して頂きたいと……陛下はそう仰っておりました」

「……許します、って言わないとダメですよね?」


 一応聞いて見る。顔を上げたラッセル様は申し訳なそうにしつつも困ったような顔を浮かべてしまった。まぁ、仕方ないよね。

 お父様とお母様を見ると頷いておきなさい、と言うように見てくる。ここでラッセル様に文句を言った所で何の意味もないしね。


「わかりました。……ただ一つだけ聞いても良いですか?」

「なんでしょうか?」

「なんであの場にベリアス殿下までいたんです? ヴィズリル様の神子になった報告を聞くのなら陛下だけでも良いですよね?」

「それは……次代を担う神子同士、顔合わせを、という事で……」

「それって、私をベリアス殿下に宛がうつもりだったと?」


 私の問いかけにラッセル様は何も言わず、曖昧な微笑を浮かべるだけだった。まぁ、そういう事だろうと思ってたけど。

 あんな俺様王子、私の好みから外れているし頼まれたって婚約なんてお断りだけど。


「無論、陛下も無理強いするつもりはありませんでした。神子という立場は同じであれど、恩恵を与えた神々は別なのですから礼儀を持って然るべきです。あくまで、その可能性が芽生えるなら望ましいことだと……」

「でも、なれば良いって思ってたんですよね?」

「……否定はしません」

「ベリアス殿下っていつもあんな感じなんです?」

「……少々、自信が過ぎる所があるのが我々の悩みの種です」


 言葉濁してても問題児だって言ってるのが伝わってくる。はぁ、もう最悪だ。


「率直に聞きますけど、王家は私をどうしたいと思ってるんです?」

「……それは」

「私は王家に逆らうつもりはありませんが、国が私の力や立場を利用したい、その為に家族や領地に手を出そうと言うなら黙ってられませんし、巻き込むぐらいなら家も国も捨てる覚悟は出来ています」

「陛下から直接伺った訳ではありませんが、そのようにお考えになる方ではございません。神子となろうとも、貴方は我が国の民なのですから」


 ラッセル様は表情を引き締めて、私と正面から向き直る。彼から聞ける言葉には誠実さを感じる。少なくともラッセル様から見た陛下はそんな事を望まないし、私や私の周囲に何かするつもりはない、と。


「貴方の不信感を煽ってしまったのは、王宮に仕える者たちやベリアス殿下の教育を担当した者たちの責となります。既に殿下にも関係者にも罰が下っております。どうか、それで溜飲を下げて頂ければと……」

「あぁ、いえ。別にそんな、ただ単純にこのままこの国で暮らしていいのかわからなかったもので。私のせいで家や領民に迷惑をかけるのは嫌なので」

「……本当に申し訳ありませんでした。殿下の護衛を担当した一人として、恥じ入るばかりです」


 ラッセル様はこちらが申し訳なくなってしまいそうな程に表情を暗くしてしまっている。

 というか、ラッセル様も殿下の護衛を務めた事があるのか。罰は下ったって言うし、もしかしてラッセル様がここにいるのも罰の一環なのかもしれない。そう思うと、彼に当たるのは気の毒だ。


「気にしないでください。それに殿下の言うことも一理ありますから。工芸品だと言われても、実績がない以上は信用のしようもないですし」

「……カテナ嬢。謝罪してすぐにこの話をするのはどうかと思うのですが、良ければどのように此度の一品を作り上げたか見学させて頂くことは可能でしょうか? 勿論、製法に秘密などがある場合は決して漏らさぬことを誓います。此度の男爵家の訪問の目的はカテナ嬢の一品を見定めることにありますので……」

「あぁ、構いませんよ? それに秘密にするようなものではないので。好んで作ろうという人がいるなら紹介して欲しいぐらいです」


 私は敢えて魔法を使って日本刀を鍛造したけれど、別に魔法がなくても日本刀そのものを作ることは出来る。

 それで魔法を使わないで作った日本刀がうっかり神器にでもなるなら、私の価値も減ってくれるかもしれない。なので日本刀の製法そのものを秘密にするつもりは私にはない。


「カテナ嬢の製法はアイアンウィル家の財産でございますので。みだりに口にしないことを神々に誓いましょう」

「それならそれで構いませんけど。良いですよね? お父様、お母様」

「お前がそう言うなら構わんが……アレをいきなり見せるのか?」

「大丈夫? ラッセル様、引っ繰り返らないかしら?」

「……は? 引っ繰り返る……?」


 私たちの会話を聞く姿勢になっていたお父様たち。私が日本刀の製作風景を見せても良いか確認すると途端にラッセル様を心配し始めた。

 一方、心配されたラッセル様は目を点にして訝しげに呟きを零す。


「ふむ。……カテナ」

「はい?」

「お手玉」

「……あぁ、あれですね」


 お父様が〝お手玉〟と言ったのは、私が家族に見せた一発芸の一つだ。兄様から絶叫を賜った一発芸をラッセル様にも見て貰おうって話なんだろう。


「〝ファイアーボール〟、〝ウォーターボール〟、〝ウィンドボール〟、〝ロックボール〟、続けてもう一周! 〝ファイアーボール〟、〝ウォーターボール〟、〝ウィンドボール〟、〝ロックボール〟! 回ります、回ります!」

「……………は?」

「カテナ・アイアンウィル! いつもより、多く回しております!」

「本当に増えてるんだが!?」

「あらあら、四個から八個になってるのね。凄いわぁ」


 出現させた魔法を触れても問題がないように調節をして、そのままお手玉をする。ぐるぐると回る炎の球、水の球、風の球、岩の球を見てお父様はツッコミを入れ、お母様は手を叩いて拍手をしている。

 お父様たちに最初に見せた時は、まだヴィズリル様から恩恵を頂いてなかったからね。でも、今なら魔法を同時に八種まで行使することが出来る。勿論、威力そのものはヘッポコだよ? 流石に出力を上げたら数を減らさないといけないし。


「はぁぁあああああああああッ!?」


 そして、ラッセル様はキャラ崩壊したと言わんばかりに眼鏡をずり落ちさせながら絶叫するのだった。



 

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