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10:本当は、悔しくて

本日、二回目の更新です。読み逃しのないようにお気をつけください。

「ベリアス殿下に逆らったぁ!? 何をしてるんだ、お前はぁ~~ッ!?」


 再会した兄様がムンクみたいな顔になってくねくね身を捩っていた。陛下との謁見が終わった後、結果報告も兼ねてお兄様と合流し、謁見した時の事を話すとこの反応である。

 お父様は感情が無になったように遠くを見ているし、平然としているのはお母様だけだ。正直、申し訳ないと思ってる。でも、後悔はしない。


「お、おま、お前! お、おう、おうっ、おうっ!」

「……オットセイの真似ですか?」

「違う!? お、おま、お前! どうして殿下に楯突いたんだ!? 使者が来るとは言うが、それは絶対に監視の意味も含んでるだろ!?」

「お父様が今にも砂になってしまいそうなので、事実を突きつけるのは止めて! 兄様!」

「誰のせいだーーーっ!」

「お、俺様殿下が悪い……わ、私、悪くない……」

「王族のせいにするな! あぁ、父上がこれなら俺が継ぐ時にどうなってるんだ、男爵家……! ねぇ、いっそ爵位返上しませんか? 父上! 平民になったら俺、商人になりたいです!」

「うむ、それも考えよう。最悪は国外逃亡だな……」

「いや、二人は悪いことしてないじゃないですか。その時は私を勘当すれば話は済みます」

「――貴方たち、ちょっと興奮しすぎじゃないかしら?」


 喧々囂々と話し合っていた私たちは、冷気を感じるようなお母様の一声で一斉に黙り込む。

 私たちが静かになったのを確認して、お母様は満足げに頷いてみせた。


「なってしまったものは仕方ないわ。それにあの調子ではカテナを王族に迎える、なんて話にはならないでしょう。使者が来るといっても、別に我が家は不正をしている訳でもないですし、自然体で過ごせば良いと思うのだけど?」

「しかし、母上! カテナが常識からズレているのはともかく、それが許される状況というものがですね!」

「――あら、ザックス? 私、いつカテナが悪いと言ったかしら?」


 ひぇっ、と思わず声が漏れた。お母様はいつもの笑みを浮かべているけれど、なんだか笑顔の裏の圧が凄い。兄様も母様が発する圧に気付いて、表情を引き攣らせた。


「貴族というのは王家が忠誠を捧げるに足るから忠義を捧げるものなのではないかしら? なのに何でも王族だからと許すのは、それはどうなのかしらねぇ」

「は、母上……? そ、その発言は不味いのでは……?」

「私は貴族の妻である前に、この子の母親だもの。あと、殿下に思う所はあっても陛下と王妃様には別に何も? なら良いじゃない。……それに、一番怒ってるのはカテナでしょう?」


 話を振られて、私は目を瞬きさせてしまう。怒ってる? と聞かれれば、怒ってるけど……。


「……でも、言ってる事は間違ってなかった」


 日本刀はこの国では未知の武器だ。だから武器として評価出来ないというのは正しい。だからこの国で尊ばれる大剣の方が良い、そっちで作ってみせろというのは間違ってないと思う。

 でも、そもそもなんで王族のために、王族に評価されるためだけの物を私が作らないといけないの? 日本刀がヴィズリル様に神器として認められたから見せに行った筈なのに、あの俺様王子のせいで話がややこしくなった。


 恐らく、改めて陛下から武器を頼めないかという話をしたのは、俺様殿下の顔を立てるために敢えて自分からも話題を振って仕切り直すためだったんだろう。ご本人もそう言ってたし。

 詳しい話は使者が男爵家に訪問してから改めて、というのもその辺りの話になるのだと思う。だから我が家はただいつも通り、堂々として王家の使者を迎え入れれば良い。……多分。


「カテナの作ったものを否定する必要もなかったのよね。なのに自分が欲しいものを寄越せ、だなんて。流石に殿下にはご指導が入るのではないかしら?」

「……お母様」

「大丈夫。貴方が何も言わなくても私が言っていたと思うわ。むしろ、ちゃんと自分の口で伝えようとしたことは偉いわ。叱るとするなら、穏便に収めたいのに皮肉を口にしてしまったのは減点ね。アレはダメよ、カテナ」

「……はい」

「さぁ、今日は疲れたでしょう? もう休みましょう。クレイもこの調子だし、ザックスもごめんなさいね。急にこんな話になってしまって」

「いえ……」


 兄様はちらりと私を見たけれど、私は兄様と目を合わせづらくて視線を背けてしまった。



   * * *



「よくあの程度で抑えたな」

「……文句でもあるんですか? ミニリル様」


 私たち、家族が泊まっているのは王都の高級宿屋。お父様とお母様は同室で、私と兄様はそれぞれ個室を宛がわれていた。

 一人になって部屋に入るなり、日本刀からミニリル様が実体化して姿を見せる。出てきてすぐの一言で、私は思いっきり眉を寄せてしまった。


「いいや、むしろ言い返すのが足りないぐらいだ。カーネリアンの神子の一族め、奴等は脳筋になる加護でも掛かっているのか? まぁ、あの王子が未熟と言えばそれで終わる話でもあるがな」

「……あそこで言い過ぎたら家がどうなってたかわからないし」

「我が後ろ盾に立っているのだぞ? そんな無法、許すものかよ。……とはいえ、我が本体も悪戯に世を騒がすつもりもない。これ以上、カーネリアンの神子どもに我から言うことはない。むしろ、お前に話がある」


 そう言いながらミニリル様はベッドに腰を下ろすように座り、私に向けて両手を広げた。


「ほら、来い」

「……何の真似ですか?」

「慰めてやろうと言うのだ。本当は喚きたい程、悔しかったのだろう?」


 指摘されたことで私の抑え込もうとしていた感情が溢れそうになった。それを溢れさせまいと唇を強く噛んでしまう。


「来い」

「……」


 ミニリル様が再度、強い口調で言う。私はおずおずとミニリル様の膝の上に頭を置くようにして跪く。

 膝の上に置いた私の頭をミニリル様が優しく撫でてくれる。見た目は子供の癖して、随分と手慣れているように思える。

 すると、抑え込んでいた感情が解されるようにして表に出てきてしまう。沸き上がった悔しさに涙が滲んでいった。


「……ッ、アイツ……! ムッカついたぁ……! 勝手なことばかり言って……! 言われるままだったのが悔しい!」


 理屈で感情が納得させられれば世話はない。あっちにはあっちの言い分があることはわかってても、感情は納得しない。

 日本刀が工芸品だって? 私がどんな思いで、何年もかけて再現させたと思ってるんだ! 確かに未知の武器なのは認めるけど! だからって納得がいかない!


「まったくだ。我が認めたものをあそこまでよく扱き下ろしたものだ」

「悔しい……!」

「あぁ、だから証明しなければならんな。お前が、あの日本刀なる武器を使いこなしてな」

「戦うのなんて別に好き好んでしたくないけど……これは話が別。舐められたままなんかで終われない……!」

「それでこそ、我が神子だ。……確かお前は今、年が十三歳。学院という学び舎に通うようになるのには二年の猶予があるのだったか?」

「? なんで学院……?」


 ミニリル様の膝から顔を上げて見上げると、ミニリル様は歯を剥くような好戦的な笑みを浮かべていた。


「あの王子もお前と同年代なのだろう? ならば、その学び舎でお前の実力を証明するのが手っ取り早いであろう? 二年もあれば十分だ。お前を鍛えてやろう、その剣に見合うだけの剣士としてな」

「……なんか、上手く乗せられてる気もするけれど、利害は一致してる」


 強くならなきゃいけない理由がまた一つ増えた。守りたいものがあるなら、強くないと何も守れない。

 その為に必要なら、女神様からの修行だってこなしてみせる。そして証明するんだ。日本刀の素晴らしさを。でなければ腹の虫が治まらない!


「やる気を出させた点だけは評価してやるが、不敬は我も許せぬ。あの生意気な王子の鼻を明かしてやろうではないか、我が神子よ」

「当然!」


 目標は二年後までに強くなること! 日本刀の凄さを証明するためになら、やってやる!


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