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22:再びの会談へ

 私たちが朝食を終えた後、少し時間を置いてから再びテティスと会談する運びとなった。

 テティスのいる庭園へと足を運ぶと、そこにはテティスと護衛たち、そして新しい顔ぶれの人がいた。

 髪がすっかりと白髪に染まる程に年を重ねたオジ様だ。厳格そうな雰囲気を纏っていて、淡い青緑の瞳にはしっかりと私たちを見つめた。その立ち振る舞いに隙が無くて、ついつい観察しているとオジ様が微笑を浮かべた。


「お初にお目にかかりますな、グランアゲート王国の皆様方。私はトビアス・キュルケ、テティス女王陛下に大公の座を授かっている」

「キュルケ大公……貴方がそうなのか」


 大公という事は、このオジ様が事実上の政治のトップということか。しかもアネーシャ様と同じファミリーネームだ。

 元王族が臣籍に降る先として大公家の養子に入るのは納得のいく話だ。つまりアネーシャ様の義理のお父様でもある訳で……。

 それが理由なのか、ベリアス殿下もどこか緊張した様子で挨拶を交わしていた。そして私たちは席について、会談が始まる。


「先日は私が不在だった為、あくまで概要をテティス女王陛下がお聞きになったとか。私は慣れぬ旅路で来られたお客人にはもう少し気を遣うべきだとはご進言したのですが、何分、悪童の気質が抜けきらずに苦労をおかけした」

「トビアスよ、説教なら其方にもアネーシャにも散々されたぞ? また妾の耳にタコでも作るつもりか?」

「女王陛下を思えばこそ、先の短い私はこの重い口を開かねばならぬと奮い立たされてしまうのです。どうか許されよ」

「はっはっはっ、なかなか面白い事を言う。どの口で先が短いなどと、大公には二代に渡って尽くして貰わねば困るというもの。普通の老人のようなことを言うではない」

「はっはっはっ、ご老体には優しくするものですぞ。女王陛下、まだまだ若い貴方様では理解出来ぬ悩みも多くなる年になりましたのでな」

「抜かしおる! ……まぁ、見た目は厳ついが中身はこんなご老体だ。緊張などせずに気楽に構えてくれてよいぞ、ベリアス殿下」

「はぁ……」


 話を振られたベリアス殿下が何とも反応に困っている。確かに見た目は真面目そうな感じなのに随分と軽いオジ様みたいだね、キュルケ大公は。


「さて、それでは改めて本題に入りたいと思う。まず話し合うべきはベリアス殿下からの申し出……神器、またはそれに準ずる武器の量産計画についてか」

「神器の量産……私どもとしても興味深いお話ですな」


 口元の髭に触れながらキュルケ大公は何度か頷く。先程までの飄々とした調子は鳴りを潜め、見た目通りの厳格な空気を纏っている。


「その恩恵に我が国も与れれば、とは思うのですがな。今、我が国もテティス女王陛下の代替わり直後で地盤を固めている時期でございまして。グランアゲート王国を始めとした各国と足並みを揃えられるかと言われれば、様々な協議が必要でありましょう」

「それもテティス女王陛下に聞いている。その点については、今のアイオライト王国の立ち位置を大きく変えるような支援まではこちらも考えてはいない。海からの侵略を一手に引き受けているのはアイオライト王国の存在があっての事だとは把握している」

「ご配慮頂きありがたく思います、ベリアス殿下。しかし、こちらが一方的に提供を受けるというのも筋が通りませんな」

「テティス女王陛下からは知識人の提供という案を聞いている。グランアゲート王国でもアイオライト王国が蓄えた知識には一考の価値があると判断している」

「ふむ……それでアネーシャとの婚約を提案されたという話も本当で?」


 ぴくり、とベリアス殿下が肩を揺らせた。その身体が少し硬くなっているのを見て、私は不安に思いながらベリアス殿下を見守る。


「……事実だ。あくまでテティス女王からの提案ではあるが、キュルケ大公としてはどのようにお考えであろうか?」

「どうでしょうな。何せ、前例が少ないですからな。それも貴族ではなく元王族ともなればもっと少なくなる事でしょうな」


 キュルケ大公の返答は賛成とも反対とも取れないものだった。髭をそっと撫でながら、キュルケ大公はそっと息を吐く。


「グランアゲート王国からの申し出はとても魅力的でしょう。ですが、その価値がこの国に変化を齎して良い程のものなのか……そして、その変化を迎えた先に本当に良い結果が待っているのか、どうしても懸念を覚えてしまいます」

「トビアスよ、前にも言ったが其方の頭が固すぎるだけであろうよ」

「私はまだ茶目っ気があると孫にも評判でございますよ。無論、年を重ねている以上、若者ほど柔軟ではないということも重々承知ですが……それが我が国、アイオライト王国の貴族なのですよ、ベリアス殿下」


 テティスと軽くじゃれ合うような言葉を交わした後、キュルケ大公はベリアス殿下へと視線を戻した。


「我らは変化を望まず、伝統を受け継ぐことが何よりも第一になります。それ程までに守らなければならない物がある。この国の在り方は、いつか訪れるかもしれない危機のために。それだけは譲ることが出来ないのです」

「……私は、その伝統への思いに理解を深めたいと思っている」

「ありがたいお言葉ですな。しかし、私でもまだ柔軟な方なのでしょう。それでも懸念を覚えるからこそ、我が国の貴族がこの提案を快く受け入れてくれるかは難しいでしょう」

「……成る程な。だからこそテティス女王陛下はしきりに神器を望んだ訳だな?」


 ベリアス殿下が確認するように問いかけると、満足げにキュルケ大公は頷いた。まるで正解を言い当てた生徒を見守るような教師のような仕草だ。


「えぇ、我らとしても優秀な武器が手に入るなら欲しいと思います。しかし、その為の変化への労力が上回るというのなら頷けません。そこで可能なら神器が望ましいと思った訳ですな。その神器をテティス女王陛下が率先して振るえば、それが旗印となる。我らアイオライト王国の民は女王陛下に忠誠を尽くす者であるが故に」

「……理解した。我が国の貴族とは在り方の違いがあるという事だな」


 確かにグランアゲート王国だったら話は変わってくる。例えば、私がベリアス殿下のために神器を作ったら、量産出来るのならば次は自分もと貴族たちが言い出すのが予想出来る。だからこそ神器の量産に対してイリディアム陛下も懸念を示していた。

 でも、アイオライト王国では逆に女王が率先して変化を受け入れないとそこに倣えないという傾向があるんだろう。この価値観の違いは摺り合わせておかないといけない点だ。


「こちらが懸念していたのが、量産が成功したと聞けばカテナへの干渉が強まることだ。グランアゲート王国でもカテナの立場は複雑であるからな」

「皆無とは言いませんが、グランアゲート王国に比べればそういった事態に対しての懸念は杞憂だと言えるでしょう。あくまでテティス女王陛下が手にするという前提であれば、ですが」

「それがアイオライト王国の女王であり、神子であるということか……」

「妾がそれを言ったところで確信には足らぬと思ってな。改めてトビアスの口から語らせる必要があった。それを踏まえた上でもう一度、問いたい。どうだろうか、ベリアス殿下、妾にカテナの生み出す神器を貰い受けることは叶わぬか?」


 テティスが僅かに微笑を浮かべてからベリアス殿下へと問いかける。その問いかけにベリアス殿下は息を吐いてから私へと視線を向けた。

 ベリアス殿下の視線に気付いて、私は応じるように頷いた。私が頷いたのを見て、ベリアス殿下がテティスへと視線を戻す。


「神器について、改めてこちらからも提案したいことがある。その為に確認しておきたいことがあるのだが……テティス女王」

「うむ? なんであろうか」

「テティス女王の魔法適性について確認したい。テティス女王もまた全ての属性に適性を持つのではないか?」

「……ふむ。最も得意とするのは水ではあるが、他の属性も扱えぬ訳ではないな。それがどうかしたか?」


 テティスが少しだけ怪訝そうな表情を浮かべながら言った。私はその返答に確信を抱く。


「ここからは説明を代わろう。カテナ、頼む」

「はい。テティス女王、神器についてなんですけど」

「うむ?」



「――神器の製法をテティス女王が身につける為に私が指導する、というのはどうでしょうか?」


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