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19:神が語る真実

2021/06/16 更新(2/2)

『さて、改めて名乗り直そうか。僕はネレウス、カテナちゃんにはヴィズリルがお世話になっているね』

「はぁ……どうも」


 ヴィズリル様が射殺さんばかりの視線でネレウス様を睨んでいるけれど、ネレウス様は柳に風と言わんばかりに受け流している。


「……ネレウス様ってこんな感じなの?」

「……割と?」


 小声でテティスに確認してみると、神子のテティスからしても普段の印象と変わらないらしい。あぁ、そう。これが通常運転な訳だね。


『本当に君のような子が産まれてくれて、神々としては嬉しく思っている訳だよ。何せ、魔神と魔族との決着は僕たちの悲願とも言えるからね。真っ当な手段で撥ね除けられるならそれに越したことはない。いやはや、君は神々の期待の星といった所だろう!』

「……ありがとうございます」


 あまりにも胡散臭すぎて声が平坦になってしまう。成る程、ヴィズリル様が閉口するだけはあるな、と思ってしまった。

 ペラペラと喋るから言葉まで白々しく聞こえてしまうのは、狙ってやってるのか、それとも根っからそういった方なのか判断に苦しむ。


『そういう訳でね。カテナちゃんは人と言うより立ち位置的には神に近い。それこそ僕の神子であるテティスちゃんよりもね。そのテティスちゃんが知ることが出来る真実を君が知ることが出来ないというのはどうなんだろう、と思っていてね』

「……わざわざ語るようなことなどあったか?」


 毒を含んだような声色で、突き刺すように告げるヴィズリル様。そんなヴィズリル様へと視線を向けて、ネレウス様は笑ってみせた。


『君は本当に強情だね。アーリエと子犬の戯れのようにきゃんきゃん噛み付き合っていた頃から変わっていない』

「誰が子犬だ、そんなことはしていない」

『これは嘘じゃないよ?』

「貴様の言葉はどれも信用ならんわ!」

『じゃあ、話は戻すけど。とにかくヴィズリルはあまりにもカテナちゃんに隠し事が多いからね。これはフェアじゃないだろうとお節介を焼きにきた訳さ』


 ヴィズリル様が拳を握り締めて震わせているのは敢えて視界から外した。あまりにも形相が怖すぎる。


「……確かにヴィズリル様は禁則事項と言って語らないことも多かったですけど」

『そんなもの、ヴィズリルが勝手に決めただけだろう?』

「息をするように嘘を吐くな! 神々の間で決めたことだろう! 必要以上のことは地上の民には教えない、と!」

『そうだったっけ? いやぁ、僕が関わるのは自分の国の女王ぐらいだから感覚がズレちゃったかなぁ?』

「元々ズレて歪んでいるわ、この人格破綻者が!」


 いきり立った猫のように今にでもネレウス様に噛み付きにかからんとするヴィズリル様。それに肩を震わせるようにして笑っているネレウス様。

 テティスに視線を向けると、何とも言えない顔をした。……もしかして、テティスのとんでもない事をやらかすって話はネレウス様の影響なんじゃないかと思ってしまう。


『まぁまぁ、確かに僕は自他共に認める人でなしだけどね。心に関心がない訳じゃないよ。だからこそ、カテナちゃんに隠し事は止めてあげなさい』

「……何故、貴様にそんな事を言われなければならない」

『その秘密はカテナちゃんを傷つけて、君をも傷つけるからだよ。それぐらいは僕だってわかるさ。そして君たちの好ましい関係がズタズタになるのも見たくはないなぁ。そんなの一度で十分さ』

「――ネレウス、貴様……!」

『おぉっと、今度こそ殺気が零れそうだよ、ヴィズリル?』

「誰のせいだと思っている!?」

『おぉ、怖い怖い。……さて、今の見たかい? カテナちゃん』

「……はい?」


 唐突に話を振られて、私は間の抜けた声を出してしまう。そんな私に対してネレウス様は笑みを浮かべながら言葉を続ける。


『ここまでヴィズリルが取り乱す秘密だってことさ。彼女が君に隠していることはね。そして、きっと君も同じ位に取り乱す可能性がある。だから誰も直接言わなかったけど心配していた訳さ』

「……お気遣いはありがたく思いますが、やり方はどうかと思います」

『生憎と僕は人でなしなんでね。やるべき事を出来る人がやる。僕ほど人でなしだったら人類の選別も気に病まずに済むだろう? だからアトランティアの管轄は僕の、そして僕の神子の役割なのさ』


 ……思わずゾッとしてしまった。淡々と何でもない事のように語るネレウス様は人の形をした別の生き物なんじゃないかと思ってしまう程だった。

 私とヴィズリル様の関係を心配するのだって、どこまで信じていいかもわからない。


『恨みを向ける先は必要なんだよ、カテナちゃん。でも、普通の人はそう簡単に悪意には慣れない。だったら最初から気にしない人に任せれば良い。まぁ、僕はそれを理屈で叩き潰すのが良くないと言われるんだけどねぇ』

「……わかっているなら引き籠もっていろ」

『それが出来たらさっさとしたい所さ。だからカテナちゃんには頑張って欲しい、ヴィズリルと揉めるような要因はさっさと排除しておきたい。だから真実を知りたければ教えるという訳だよ』


 ヴィズリル様はネレウス様の言葉にこれでもかと言わんばかりに表情を歪めている。そんなヴィズリル様を窘めるようにネレウス様が更に続ける。


『ヴィズリル。これが最初で最後のチャンスかもしれないんだよ? 君だって、カテナちゃんのような子が二人も産まれると思うかい?』

「……それは」

『僕等は様々な方法で魔神と魔族の脅威に備えてきた。眷属という形で死後の魂を神の下に招いたり、今を生きる人の希望を繋ぐためにアトランティアを建造し、魔族と戦うために神器や魔法を託した。そのどれもが決定的に状況を覆すためのものではなかった。でも、カテナちゃんは違う。この子はこの状況を一変し得る。魔神だって大人しくしているのも時間の問題だろう。決してカテナちゃんを見逃すような愚鈍ではないからね』


 ヴィズリル様はネレウス様の言葉に何も言い返せないのか、眉間に眉を寄せながら歯ぎしりを鳴らした。


『来たる時が来て、その時に初めて知って、この子が動揺しないと言い切れるかい? それが油断に繋がり、カテナちゃんが死んだら? 全ては水の泡、振り出しに戻ることになる』

「……」

『ハッキリ言うよ、ヴィズリル。君一人の感情で状況を悪化させるなんて、そんなの許されないんだよ。そして、そうなった時に誰よりも許さないのは君自身だ。わかっていて出来ないなら僕がやる。いいね?』

「……好きにしろ」


 ヴィズリル様はただ静かに、ぽつりと一言呟いて黙り込んでしまった。

 背を向けて立つヴィズリル様の姿に、何故だか……それが泣いているようにも見えてしまったのは気のせいなのか。


『……さて、ヴィズリルも黙らせた所で本題に話を戻そう。カテナちゃん、君は真実を知るべきだ』

「……聞きたいことは山ほどあるんですけどね。じゃあ、魔神について教えてください」


 私が魔神について知っていることはそんなに多くない。

 魔神が元々は神々の同胞であり、追放されたこと。追放された先で神に近づく者として魔族を生み出したこと。

 そして魔族を生み出す方法は、人に神の力を注いで変質させること。魔族は生命が歪んだ存在なので、理性の枷などが外れること。

 そんな災厄の存在である魔族に対抗するように神々は神器や魔法を授けて対抗させようとしたこと。これぐらいだ。


『魔神が我々の同胞だった言う話は既に聞いているね?』

「はい」

『神には魔法の元となった、それぞれが司る属性のような力があった。僕の水や、アーリエの火、ヴィズリルの破壊などね。勿論、魔神にも司るものがある』

「……生命、ですか?」


 シエラから以前、聞いたことがあった話を思い出して私はネレウス様に言ってみる。

 するとネレウス様は正解、と言わんばかりに微笑を浮かべて頷いた。


『そうだ。生命、魔法で言うところの治癒魔法に該当する属性を司っていたのが魔神だ』

「じゃあ、治癒魔法は……」

『元々、魔法は魔神が魔族に与えた力を元にしたものだからね。それを人が変質しないように間接的な行使を可能にしたのが魔法だ。治癒魔法はその大元の仕組みに触れることが出来る者の力、だから四大属性に比べて使い手が生まれない訳だね』


 ネレウス様からはっきりと証言して貰ったことで、以前シエラから聞いたことがあった推測が当たっていたと私は悟る。

 じゃあ、その時にシエラが言っていたことも当たってるということなんだろうか。私は意を決してネレウス様へと視線を戻す。


「……魔神は、人に敵意を抱いている訳ではないのですか?」

『何故、そう思うのかな?』

「シエラのことも把握しているのでしょう? シエラがそう言っていたんです」

『あぁ、アーリエの子だった魔神の子だね。うーん、半分正解、半分間違いかな』

「それは、どういう意味ですか?」

『魔神は確かに人に敵意を抱いているという訳ではない。しかし、害意は持っているよ。いや、害意とも言えないか? うーん、言葉にするのが難しい。あれは狂ってしまっているといった方が正確か』

「……狂ったから追放されたとも聞きましたけど」

『そうだよ。アレは狂ってしまった。その理由は、当時の神になる前に僕たちの扱いにあったんだけどね』

「神々の扱い、ですか?」

『神々の間から魔神を追放したのも事実だけど……――神を追放したのも人なんだよ』

「……は?」


 思わず呆気取られた声が出てしまう。人が神を追放した……?


『当時、人類はある難問を抱えていた。それを解決したのは良いんだけどね、その頃から神と呼ばれるようになった僕等の力は普通の人たちとは一線を画するものになっていた。君だって嫌だろう? 自分よりも強大な力を持つ存在が何の制限もなく同じ場所で生きているのなんて。猛獣と暮らせと言っているようなものだ』

「それは……」

『神々は地上を去った。地上を、これから生きる人たちの為を思ってのことなのは事実だ。その前に人が僕たちを追いやったんだけどね。どうか消えてくれ、と』

「どうして……! だって、神々がいないと解決出来ない問題があったんですよね!? その功労者を、当時の人は追放したって言うんですか!?」

『そうだよ。だから魔神は人に絶望した。そして魔族なんてものを生み出してしまったんだ。馬鹿な子だよ……』


 呆れたように、それでいて悔やむように。遠い過去に思いを馳せるような声色でネレウス様はそう言った。

 更に背を向けていたヴィズリル様が、腕を回すようにして自分の体を抱き締めているのを見てしまう。

 神と呼ばれ、人に崇められる彼等が人に疎まれ追いやられてしまった。そんなの簡単に信じることが出来ないのに、納得してしまいそうになる。


『等しく疎まれた神々だけどね、中でもヴィズリルへの当たりが酷かったからね。彼女が神々の中で最も目立ってしまっていたから。暗殺だって何度もされそうになった』

「……暗殺って」

「全て返り討ちにした。今となってはどうでも良いことだ。弱ければ、疑心暗鬼に囚われることもあるだろう」

『でも、それが魔神を狂わせた理由だってわかってるだろう? ヴィズリル』


 ヴィズリル様は背を向けているので、その表情は見えない。でも、その肩が僅かに震えたのを私は見逃さなかった。


「……ヴィズリル様は、魔神と関係が深かったんですか?」


 まさか、と思う気持ちがある。それがどんな関係なのか想像は出来ないけれど、ヴィズリル様の暗殺が狂った理由だとするなら、余程関係が深かった筈だ。

 確かめるために問いかけると、ネレウス様が私へと視線を戻して……そして、私の知りたかった真実を伝えてくれた。



『――魔神の名はフリッカ。彼女は、ヴィズリルの〝双子の妹〟だ』


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