表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/118

09:私はNoと言える転生者なので

 グランアゲート王国、それが私たちが住まう国の名前だ。

 大地と豊穣を司る神、カーネリアン様の神子が開国した国であり、かの神の恩恵を受けたこの国の特色は良質な鉱物が取れることと、豊かな農地に恵まれていることだ。


 なので同じ国でも、地域によってその特色が大きく二つに分かれている。

 一つは私たちアイアンウィル家のように鉱物を採掘し、加工する者。もう一つは作物を育てる農家だ。

 豊富な食料と質の良い装備から成る屈強な騎士たちが守護する国であり、魔族の侵攻を防ぐ大いなる盾と称されてもいる。

 グランアゲート王国の王族はカーネリアン様から授かった大地の力を操る神器を継承しており、自らも戦場に立つ人が多い。


 そんな我が国の国王との謁見の日を迎えた訳なんだけど、国王陛下はもう完全に武人と称する以外に言葉が見つからない人だった。

 現在の国王、イリディアム・グランアゲート陛下。御年は四十歳だけど、年齢を感じさせない逞しさに目を見張ってしまいそうになる。髪はやや赤みが混じった金髪で、瞳の色は真紅。獅子だとか、そういった雄々しい動物を連想してしまう。


 その隣で微笑む正妃様、クリスティア・グランアゲート様は穏やかなおば様だった。無骨と言う言葉が似合う陛下の隣に並ぶと、その穏やかさが際立っているかのように見える。

 王妃様は薄い空色の髪に、ふんわりとした優しい蜂蜜色の瞳をしている。相反しているように見えて、長年連れ添った自然な空気感が陛下との間には存在していた。


 そして、もう一人。それは陛下の面影を残す私と同年代ぐらいの少年だ。

 髪の色は眩しいまでのプラチナブロンドで、真紅の瞳を持つ野性味の溢れるイケメンだ。顔は初めて見るけれど、彼がこの国の第一王子であるベリアス・グランアゲート様だと思う。

 流石に王族と会うのに名前ぐらいは把握しておかないと不味いから必死に名前を覚えた甲斐があった。


 お父様は王族を前にして緊張を隠せない様子で、ソワソワしているのがわかる。その一方で、お母様は凄く自然体だ。思わず二度見しかけた。流石、私のお母様だ。こんな時でもブレない。


「よく来た、クレイ、シルエラ。そしてその娘、カテナよ。楽にして良い」

「陛下に謁見の機会を賜り、至極光栄にございます」

「此度の偉業を耳にした時は驚いたぞ。アイアンウィル家は三代に続いて我らを驚かせることに長けていると見える」

「恐縮でございます」

「息子のザックスも学院では優秀な成績を残していると聞く。しかし、此度の偉業は息子の優秀さも霞むやもしれぬな。さて、カテナ嬢よ」

「は、はい!」


 陛下から直接、声をかけられて緊張で声が上擦らないように返事をする。


「女神ヴィズリルから直接、神子として認定されたと聞く。これに嘘偽りはないか?」

「ご、ございません」

「ふむ。では、その一品を私にも見せて頂こう」

「こちらでございます」


 私は布包みにしていた日本刀を掲げて見せる。控えていた従者が私から日本刀を預かって、陛下に持っていく。

 布を解き、鞘に収められた日本刀が姿を見せる。陛下はそのまま鞘から日本刀を抜いた。


「ほぅ……」


 陛下が感嘆の声を漏らすと、自然と日本刀に注目が集まる。

 心臓が煩い程に心音を鳴らせているけれど、鎮めるどころではなかった。そのまま汗が浮きそうなのを堪えながら、陛下の言葉を待つ。


「確かに、これはヴィズリル様がお気に召したと言うのも理解出来る。剣でありながら芸術品のようだ。剣身の波の如き紋様が特に美しく思う」

「過分なお言葉、光栄に存じます」

「これは一から独力で作り上げたと聞いている。それは真か?」

「はい。全て私一人で作り上げたものでございます」

「ふむ……」


 陛下は日本刀を鞘に戻して、布で包み直して私に返すように控えていた従者の方に渡す。私の手元に日本刀が戻って来ると、思わずホッと一息を吐いてしまう。


「確か、カテナ嬢は四大属性の適性を全て持つと言っていたな?」

「はい。それこそ私が単独での武器の鍛造を志した動機でございます。私が独力で此度の剣を作り上げられたのは魔法を駆使したからです」

「発想が面白いですね。本来であれば人や設備が必要な所を魔法で補ったということでしょう?」


 陛下に続いて私に声をかけてきてくれたのは王妃様だった。雰囲気に違わぬ穏やかな声に少しだけ緊張が解ける。


「お、仰る通りでございます」

「貴方は大変、魔法の制御がお上手なのね。私は鍛冶師の仕事がどのようなものか正確には把握していませんが、豪快さと繊細さが揃わねば成り立たぬ仕事だとは思っています。それを一人で、しかも魔法を使ってとなればどれだけの研鑽が必要なのか、想像しただけで目眩がしそうだわ」


 うふふ、と嫋やかに賞賛してくれる王妃様の言葉に私はただ頭を下げることしか出来ない。

 評価してくれるのはありがたいんだけど、じゃあ、それで王家に来ませんか? みたいな話にはなって欲しくないんだけどなぁ。逆に高評価なのが怖くなってきた。



「――しかし、武器として評価するのは些か早計ではございませんか? 父上、母上」



 そんな時だった。そんな不満が滲み溢れたような声が聞こえたのは。

 声を上げたのはベリアス王子だ。彼は私を見下ろすように見ているけれど、その目には挑発的な光が宿っていた。


「ベリアス」

「確かにこの者の作った剣は美しい。しかし、細く、頼りないという評価も私はしてしまいますな。この国で騎士が尊ぶ武器といえば大剣です。これでは多くの騎士が評価に悩むのではないかと思います。騎士は工芸品で戦う訳ではないのですから」

「な……っ」

「しかし、美しく仕立てる腕は良いのでしょう。技法も独特であれば今一度、我らが伝統たる大剣を作り上げてこそ、腕前の正しい評価が出来るのではないでしょうか?」


 ふん、と鼻を鳴らしてベリアス王子は私に向けて言い放った。私は一瞬、呆然自失して表情が崩れそうになったのを堪える。

 ベリアス王子、俺様系の王子様か……! しかも滅茶苦茶見下してくる……むかつく……!


「おい、カテナと言ったな。その剣の美しさは評価出来る。女神様が見初めたというのも理解は出来る。女とは綺麗なものを好むのだろう? しかし、この国で普及している武器とは懸け離れすぎている。それでは腕前の評価など出来ん。丁度、俺様に合う剣を探していたのだ。故に一振り、俺様に献上せよ。その時、貴様の名誉は確実なものとなるだろう」


 …………耐えよう。耐えるんだ、私。ここで爆発するとお父様とお母様にも迷惑をかけるし、これでも多分、前世の記憶も合算すれば精神年齢は俺様王子よりも上の筈。ここは大人として、精神的年長として……穏便な対応を……!



「――謹んでお断りします」



 ――出来るか、ボケェーーーーーーーッ!!



「……は? 貴様、なんと言った?」

「お断りします」

「な、何だと……!」

「殿下の言う通り、私の作ったものは武器とは言えぬ工芸品なのでしょう。であれば、王家の方々にお見せする程のものでもなかったようですね。お時間を頂き、真に大変失礼致しました。お許し頂けるのであれば、これでこの場を辞させて頂きたく。あぁ、剣をお探しであれば我が領、自慢の鍛冶師にお求め下さい」


 自分でも、よくここまで回るものだと言う程に早口で言い切る。するとベリアス王子が顔を真っ赤にした。


「俺は貴様の腕を見せよ、と言っているのだ!」

「あら、私の剣はたかが工芸品なのでしょう? 工芸品は武器ではないと仰られたのは殿下ではございませんか? であれば殿下に献上する程の物ではございません」

「貴様……!」


 ベリアス王子が、まさか私が断ると思っていなかったのか、信じられないといった表情で私を睨んでいる。一方で、私は爆発しそうな感情を抑え込んでいるので、表情筋が死んでいる。ついでに目も死んでる自覚がある。

 私は自分が言えば何でも従うだろうと思い上がっている勘違い野郎が大嫌いなんだ!



「――ベリアス、下がれ」



 空気を震わせるような重い声が響き渡った。それが一気に場を静寂へと塗り替えた。

 それは陛下だった。全身から圧力を感じる気配を撒き散らして、ベリアス王子をじろりと睨み据えた。


「父上!」

「口を閉ざし、下がれ。許可なく口を開くことを許さん。良いな?」


 有無を言わせぬ、といった声で陛下が言い切る。何か言いたげにベリアス王子が口を開こうとするけれど、何も言えずに私を睨んできた。

 ……は? なんで私を睨んでるの? 私が断ったから悪いとか思ってるの? 馬鹿なの? 俺様なの?


「……些か、空気が悪くなってしまった。仕切り直しが必要であるな」


 全身から立ち上る気を静めて、陛下がぽつりと言った。そして、私に視線を移す。


「カテナ嬢、確かにその剣は美しい。しかし、形状も製法も既存に例を見ない新しいものだ。我らでは正しく評価することは難しい。それ故、既存の武器においても君の腕を見たいと望んでいるが、どうだ?」

「お言葉ですが、私の製法は独自のものでございます。私の理想は此度の剣であり、どこまでいってもこちらの延長線にしか存在しません。大剣の製作となれば勝手が違います、ご満足頂ける品を作り上げることは恐らく難しいかと思います」

「……どうしてもか? 王家として支援の用意もあると言ってもか?」

「私は所詮、しがない男爵令嬢でございます。幾ら、ヴィズリル様より恩恵を賜った所で未熟者。王家の方々にお目にかけるのは早計だったと、我が身の思い上がりを恥じるばかりでございます。どうか、このまま御前を辞する許しを頂きたく」

「……成る程、わかった。しかし、ヴィズリル様の神子として認められた事も含め、その真偽と真価を見定める目を置きたい。近々、男爵家に使者を送る。詳しい話は使者を通して確認をする。それで構わないな? クレイよ」

「……陛下のお言葉のままに」


 ……お父様に許可取られたら、私は何も言えないじゃん。くっそぅ、いっそ、もう私のことなんて放っておいて欲しいんだけどな。陛下と王妃様はまだしも、そこの俺様王子と今後も関わる気は一切ないわよ?

 あー、もう! 面倒臭いったらありゃしない!!


面白いと思って頂けたらブックマークや評価ポイントをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ