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Vox-ウォックス-  作者: 暁紅桜
9/40

9話《予兆》

「おーい、優しい俺が昼飯を適当に作って持って来てやったぞ」


それはとある日のこと。

その日は、れんがうちに来ていた。というのも、期末テストが近いということで俺が勉強を見てもらっている。

そして、見返りは俺の手料理。+紫音しおんさんへの手土産と言う名の食事。

あ、そっちに関しては紫音さんが金銭の支払いをしている。いらないと言ったんだが、あのグイグイ来る「いいからいいから」みたいな感じで、押されてしまった。まぁとりあえず水道代とかガス代とかそんな感じでいただいている。


「あ、待って!私トイレ行って来る!」

「ついでにシャンプー詰め替えといて」

「お兄ちゃんのアホ!」


勢いよく扉を閉めて、勢いよく階段を下りる香澄かすみ。はしたないなぁ……

蓮の風邪が治ってしばらくして、俺は両親の命によって蓮を家へと招いた。

そして、香澄に謝らせた。

蓮本人は気にしてないからと言ったが、香澄はそれはもうすごいくらいに両親に怒られ、わんわん泣いていた。蓮を送って帰って来た時、流石の俺も驚いたもん。


まぁなんだかんだあり、テストが近いということでこうして蓮を家に招いているのだが、香澄も今年は高校受験。お勉強をしないといけない時期。なので、ついでに一緒にしよう!ということで、蓮は俺に勉強を教えながら香澄の勉強も見るという形になった。

実際、「妹ができたみたい」と蓮は嬉しそうに笑っている。


「いただきます」

「「いただきます」」


テスト勉強はだいぶ捗り、今回はなんだかいい点が取れるような気がする。

初めて教えてもらった時もそうだけど、蓮は教えるのがうまい。香澄も、スラスラ問題が解けてすごく嬉しそうだった。

確かこいつの志望校は、有名女子校だったかな。なんでも制服が可愛いという理由だけで選んでいた。まぁそれも学校選択の一つではあるけど。


「結構偏差値高いから頑張らないとだね」

「はい!でも、蓮さんの教え方が上手だから、なんだか受かりそうな気がします」

「気が早い気が早い。それに、今できても本番でダメならダメだろ」

「お兄ちゃんはなんでそう意地悪なの!」

「妹だからだ」

「ふふっ」


まぁなんだかんだ、蓮と香澄が仲良くしてくれて俺は嬉しいよ。思い出すのは初対面の時の情景……カオスな思い出……


「そういえば、お兄ちゃん見た?蓮さんのお父さん」

「ん?あぁ知ってる。紫音さんだろ」

「若くない?あれで40とか、怖いんだけど」

「いやー、俺とお前は本当兄妹だな。俺も実際に会って同じこと思った」

「まぁ確かに、よく兄弟に間違えられる。そしたら父さん調子のって、すぐ僕のことを弟っていうんだよ」

「紫音さんらしいな」


紫音さんの職業のことは、香澄も聞いたらしい。偏見とかはなく、むしろ納得という表情を浮かべていた。

実は、一度紫音さんが家にきて、まぁ弁当とか勉強の件を改めて話して、お互いの家族同意の元となった。

そして、お互いの両親口を揃えて「うちの息子でよければいくらでも」なんて言ったのだ。

俺も蓮も苦笑い。


「目指せ、学年上位!」

「気合入ってるな、香澄」

「当然」

颯音はやとも頑張って」

「任せろ。優秀な家庭教師のためにも、しっかり結果を出さないとだな」


昼食を終えて、俺は洗い物をしに一度下に降りる。

そして、戻ってきて勉強を再開するのだが、なんだか空気が妙だった。

香澄はいつも通りだったけど、蓮の様子がなんかおかしい……。


「蓮、どうした?」

「え、なに?」

「いや、なんか様子がおかしいから……香澄、お前何かしたか?」

「お兄ちゃん……すぐに私のせいにするの良くないと思うよ」


香澄じゃないならなんだ……だって、この部屋には香澄と蓮しかいなかったし……。


「もしかして、お兄ちゃん秘蔵のシチュボCDを見せたことかな?」

「香澄さん、なんで知ってるんですか……」

「前に掃除した時に見つけた」

「俺の部屋は掃除しなくていいって、言ったのに……」


なんて兄妹茶番をするが、蓮が笑わない。

本当にこいつ、どうしたんだ?


そんな微妙な空気のまま、今日の勉強会は終了。

俺は蓮を玄関先まで送った。


「ありがとな」

「ううん、こちらこそ。ごちそうさま」

「またよろしくな」

「う、うん……」


やっぱり様子がおかしい。全然目を合わせないし……また風邪でも引いたか?


「なぁ、やっぱりお前……」


体調が悪いのかと、そう聞こうとした時、蓮に勢いよく手を払いのけられた。

突然のことで、さすがの俺も驚いてしまって放心状態。


「あ……ご、ごめん」


蓮は今にも泣き出しそうに顔を歪ませながら、挙動不審に当たりをキョロキョロしていた。

何が何だか分からず、俺はただ馬鹿みたいに「え、あ、いや……」とか言っていた。


「それじゃあ、僕行くね」

「お、おう。また連絡する」


軽く頭を下げて、蓮は小走りで家から離れて行く。

そんな姿を見つめながら、俺は蓮に払われた手を見つめる。


あの瞬間、ひどく胸の奥に痛みを感じた。

なんていうか、蓮に拒絶されたような、苦しい感じ……


「俺、何かしたかな……」


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