8話《熱》
「んじゃ、俺帰るわ」
いい時間になり、俺はそろそろ帰ることにした。蓮に伝えれば、わざわざ玄関先まで見送りに来てくれた。
いいって言ったんだが、「鍵、閉めないといけないから」と言って聞かなかった。
「いいか、大人しく休んでおくこと。欲しいものがあったら、親父さんに頼むこと」
「颯音、お母さんみたい」
「せめてお父さんっていえよ!いや、それもどうかと思うけど」
「あはは」
帰る前に、こいつの笑顔が見れてなんかよかった。顔色もだいぶいいし、明日は学校にこれるかもな。
「休みにしろ、学校に来るにしろ、連絡はするように」
「めんどくさい彼女みたい」
「やかましい!んじゃぁな」
軽く手を振り、そのまま家を出ようとした。
「颯音!」
だけど、部屋を出る前に蓮に腕を取られた。
流石に驚いて、俺は放心状態。蓮は、ほんのり顔を赤く染めながら、絞り出すような声で「ありがとう」と言って腕を離した。
「お、おう。いつでも頼っていいからな」
「うん」
「そ、それじゃあ俺帰るな」
「ありがとう」
「おう」
少しだけ気まづさを感じながら、俺は蓮の家を出た。
そして、気付いた時には俺の手の中に食いかけの肉まんが握られていた。
蓮の家を出てコンビニに入って、晩御飯代わりの肉まんを買った記憶が完全になくなっていた。
「あれ、いつの間に」
自分でもびっくりした。
とりあえず買った肉まんを耐えらげて、家へと向かった。
空を見上げながら、ぼんやりと蓮の家でのことを思い出す。
「可愛かったなぁ……」
蓮の一つ一つのことに愛おしさを感じた。
そして、コロコロ変わる声音に胸がドキドキした。
特に、耳に触れた時の蓮の声が忘れられない。あいつに触れられた腕に、まだあいつの感触を感じている。
「うお!新作シチュボ上がってる!ダッシュで帰らねば!」
肉まんひとつじゃお腹は満たされなかったから、とりあえず家に帰って適当に何か食べながらシチュボでも聴こうかなと思った。