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Vox-ウォックス-  作者: 暁紅桜
7/40

7話《無色な空間》

れん、起きてるか?」


軽く扉をノックして声をかける。

返事はなかったけど、扉を開いて部屋に入った。

薄暗い部屋の中、ベットの上で眠っている蓮はぐっすり寝てる。ちょっと安心した。

額に汗がにじんでいたから拭いてやろうと思ったけど、タオルの場所がわからない。


「聞いておけばよかったなぁ……」

「……は、やと?」

「え……あぁ起きたのか」


眠気まなこの蓮の声が聞こえて振り返れば、ぼんやりとしながら俺の顔を見ていた。

そういえば、メガネはずしてるところ初めて見たな……

少しだけ顔を寄せて蓮の顔をじっと見る。うん。メガネ外すとオヤジさんそっくりだ。遺伝子すげーな。


「飯できたから持ってきた。あ、タオルどこだ?お前汗かいてるし」

「ん……あそこ……」


ゆっくりと体を起こしながら、タオルがある方を指差した。俺はすぐに蓮の指差す方のクローゼット?の扉を開いた。中には数着の服と、タンスがいくつかあった。どこにあるんだ?


「蓮、どれ?」

「えっと……いちばん右のタンスの、上から二番目」

「オッケー」


言われた引き出しを開ければ、真っ白なタオルがたくさんあった。

柄も、色もない。本当に真っ白なタオルしかない。

取り合いず二枚引っ張って、蓮の側に行く。


「ちょっと動くなよ」

「あ、自分でするから大丈夫だよ」

「病人なんだから大人しくしてろ」

「……う、うん」


少しだけ身構えながらも、蓮は大人しくなった。軽く額や頬、首筋の汗を拭いてやる。そのまま背中も拭いてやろうと思ったけど、そこは抵抗された。


「一応うどん作ったけど、食えそうか?」

「うん、ありがとう」

「柔らかめに作ったから、食いやすいとは思う。ただなぁ、こんな事ならなんか買ってくればよかったな。もっといいもの作ってやりたかった」

「気にしなくてもいいよ。僕には十分すぎるほどの食事だから」


そう言いながら、蓮は一口食べた。ふんわりと笑みを浮かべて「美味しい」って言ってくれて、なんだか嬉しかった。


「あ、家のご飯大丈夫?というか颯音はやとの分……」

「ん?俺は大丈夫だよ。帰りに適当に食うから。両親には事情はちゃんと報告してるしな」

「……ごめん」

「謝んなくていいって。ただそうだな……今後は、こういうことがあっても困るし……」


んーっと考えながら、俺はスマホを取り出して蓮にニッと笑みを浮かべた。


「なんだかんだ、連絡先交換してなかったよな。だからさ、蓮の連絡先教えて」

「あ、そういえばそうだった……」

「連絡先交換してれば、宿題でわかんないところがあったらお前に教えてもらえるしな」

「はは。それが目的か」

「……まぁそれだけじゃないけど」


蓮に聞こえないぐらいの声で、俺はそう呟いた。

電話をすれば、スマホからお前の声が聴ける。結局連絡手段は建前で、全部下心。ホント、俺は最低だな。


「早く風邪治して、また一緒に昼飯食おうな。もちろん勉強も」

「うん。そうだね。早く風邪治さないと」


笑みを浮かべる蓮がなんだか愛おしくて、俺は思わず頭を撫でてしまった。


「え……颯音?」

「あ、悪りぃ、つい……」

「う、ううん。大丈夫……あの、できればもう少し……撫でて……」

「え……」

「な、なんか落ち着く……」


思いもよらない言葉に驚いてしまった。

風邪の時は、どんな相手でも弱っているというが、蓮の場合、この弱り方はやばい。女子だったら失神するんじゃないか?


「だ、だめ?」

「いや、だめではないけど……いいのか?」

「うん……」

「じゃ、じゃあ……」


改めて「やって」なんて言われると身構えてしまい、撫でる手が少しだけぎこちなくなってしまう。

ただ、指や手のひらに感じる蓮の髪の感触はすごく心地いい。


(そういえば、蓮に触るのって初めてかもな)


距離が近くても、触れるなんてことはなかった。

別に男同士だし、触れてもなんとも思わないけど、なんていうか……蓮の場合だと顔面美がやばいから、優しく触らないと壊したり汚してしまいそうで少しだけ怖かった。


(男相手に俺は何考えてるんだ……)


そんな俺の心情とは反対に、蓮はとても気持ちよさそうにしていた。

まぁ、こいつがいいならいいか。

とりあえず、蓮が満足するまで俺は頭を撫で続けた。

犬のように頭を重点的に撫でるが、途中で手を滑らせて横髪も撫でた。

その時、わずかに手が耳をかすめた。


「んぁ」

「っ!……お、おい!へ、変な声出すなよ!」

「ご、ごめん」


気まずい雰囲気が漂い、その後はお互い無言になった。

いやだって、びっくりするじゃん。いきなりあんな……。


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