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Vox-ウォックス-  作者: 暁紅桜
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5話《人のあり方》

外はすっかり暗くなっていて、人の姿なんかはもうほとんどない。

すれ違うのは、仕事帰りの社会人や犬の散歩にジョギングをしている人。

向かう方向は、全員俺たちとは逆方向。

とまぁ、気まづい空気からの現実逃避でそんなことを考えているが、せっかくの二人っきりだし、ここは俺から話しかけないとだよな。


「えっと、妹が悪いな……さっきのでまぁお分かりいただけたと思いますが、重度のブラコンで、異性も同姓も関係なくあんな感じなんですよ」


苦笑いを浮かべながら不自然な敬語で喋る。マジで怒ってたら本気でここで土下座する気持ちはあった。だけど、予想外にもれんはにっこり笑みを浮かべながら「気にしてない」なんて言ってきた。


「改めて聞くけど、マジで引いてないの?」

「引かないって。寧ろ颯音はやとの方が引かないの?」

「え?あぁえっと……同姓の声に惹かれるってやつか?」


こいつが俺と同じで声フェチっていうのには正直驚いた。俺は声なら男女問わずに好きだけど、蓮の場合は同姓だけ。俺が今思っていることがそうなのかわからないけど、ちょっとだけためらいながら聞いてみた。


「確認だけど、お前って恋愛対象は男だったりする?」

「……うん」


少しだけ寂しそうに、だけどすげー綺麗な顔で蓮は答えた。

なんでだろう、気持ち悪いとか全然なくて、本当に単純に「そうなんだ」という納得と、どこか嬉しさも感じた。


「引いた?」

「いや、このご時世、同性愛なんて普通だろ?毛嫌いするほうが多いけど、軽蔑したりするほどじゃない。それに、うちの場合は人ごとでもないんだよな」

「どういうこと?」

「……俺のおばさんが、そうだから」


母さんが、あんなに怒ったのは香澄かすみが言い過ぎたってこともある。でも、一番は多分性癖、というか……なんて言えばいいのか、まぁ性癖でいいか。それで身内を傷つけたのが原因だと思った。


母には姉と兄がいて、つまりは俺の叔父と叔母。叔父は結婚して実家の農業の後を継いで、奥さんは計算が得意だから経理系の手伝いをしている。二人とも子供を授かりにくい体だったけど、先月母さん宛に叔父から奥さんが妊娠した報告を受けたそうだ。父さんも母さんも、泣きながら喜んでいた。

そして、母さんの姉である叔母。叔母さんは同性愛者だった。

男性よりも女性に好意を持っており、好きになる相手はみんな同姓だ。

今では珍しいことではないけど、母さんたちが学生の頃は当たり前じゃないことだったから、社会人になるまでずっと隠してて、じいちゃんやばあちゃん。母さんや叔父さんに打ち明けたのは、俺が生まれたのがきっかけだったらしい。

同姓での結婚は日本では認められてないし、当然身ごもることはできない。

俺はその時のことは話でしか聞いてないけど、叔母さんは本当に申し訳なさそうに、涙を流しながらじいちゃんやばあちゃんに誤っていたらしい。

最初こそばあちゃんは顔面蒼白。じいちゃんも結構怒鳴り散らしていたらしい。でも、じいちゃんもばあちゃんもそんなに偏った考えを持ってるわけじゃなかったし、母さんや叔父さんと一緒に色々調べて、そういう人たちが世界にはたくさんいることを知った。

改めて話し合って、じいちゃんもばあちゃんも謝罪をした後「お前が幸せになれるなら結婚しなくても、子供も作らなくていい」そう言ったらしい。


「今は、同じ同性愛者の恋人と幸せに暮らしてるんだってさ」

「そうなんだ」

「だから、うちは結構そういうのは気にしないけど、結構シビアだったりする」


俺も初めて聞いた時は「身内にいるのか、マジか」なんて思ったし、香澄なんて顔面蒼白だった。

でも、たまに会う叔母さんは幸せそうだし、何よりかっこよく見えた。胸を張って生きてるって感じで。


「颯音は……」

「ん?」

「やっぱり女の子だよね?」

「まぁ、そうだな。多分普通に女に惹かれるとは思う」

「そう、だよね……」

「でもさ、好きになったら性別とか関係なくね。好きになった相手がたまたま男だったってだけで。

  女に惹かれるって言っても、本当にそうなるかはわからない」


叔母さんみてるとつくづく思う。叔母さんも別に男になりたいわけじゃない。女性として、女性を愛した。それだけのことだ。

男女が惹かれるのは当然のこと。でも、SNSで一度見かけたけど、同性愛は《遺伝子を超えた真実の愛》っていう考えを持ってる人がいた。俺はそれに対して酷く心を打たれた。

語彙力なんて皆無で、ただ一言「かっこいいな」という言葉が口から漏れたのを覚えている。


「だから、あんまり気にすんなよ。香澄は、俺からももう一度叱って、ちゃんと謝罪させる」

「それはいいって」

「いいや。ダメだ。それに、たとえ俺が良くても、絶対母さんたちが謝らせるから、これは確定事項だ」

「……そっか」


少しだけ申し訳なさそうにしながらも、蓮は笑ってくれた。

いやー、よかったよかった。とりあえずは一件落着かな。


「というか、蓮も声フェチっことは、シチュボとか聴くのか?」

「うん。まぁ僕は女性向けしか聞かないけど」

「俺も聴くけど、やっぱり男性向けが多いな。あ、もしかしてスマホでよく聴いてるのって……」

「うん、シチュボ」

「あはは、俺と一緒じゃん。俺もスマホでよく聴いてる」


意外なところで趣味が同じで驚いた。なんだかんだ隠してたけど、同じだと知ると色々話したくなる。特に声の好みとか。


「どういう声が好きなんだ?」

「えー、恥ずかしいって……」

「いいじゃん別に。誰か聞いてるわけじゃないし」


いうかいうまいかと躊躇う蓮。俺は目をキラキラと輝かせて期待の眼差しを浮かべている。


「少し、低めの声が好き……かな」

「へぇ……じゃあ、ちょっと年上とか、Sっぽいボイスしてる人の声が好きなのか?」

「まぁそんなところ。それと……」

「ん?」


また躊躇うように、だけどどこか恥じらうような表情を浮かべている蓮。なんだよその顔。可愛いな畜生。


「颯音の声は……かなり好み……なんだ」

「お、おぉ……そ、そうですか」


マジですか蓮さん。俺、今内心めちゃくちゃ喜んじゃってるんですけど!!


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