34話《経験》
「おー、これはまた。経験の差が出てるな」
準備を済ませた紫音さんは、テーブルに並んでる、ハヤシライスがまだかかってないオムライスを見てそう口にした。
蓮の方は俺が作ったから、まぁ自分でもいうのもあれだけ、めちゃくちゃ見た目がいい。
しかし、蓮が作った俺の方は、ぐちゃぐちゃになっていて、お世辞にも見た目がいいとはいえないでき。
「ごめん……」
「気にすんなって。ハヤシライスかければ問題ないし、味は一緒だって」
「……なぁ颯音」
「あ、はい。なんですか?」
「俺の分は、蓮に作らせてくれないか?」
「え!」
この二つの皿の姿を見て、蓮に作らせることに蓮本人は驚いてるけど、俺はなんとなく紫音さんの気持ちがわかる。
見た目とか関係なく、やっぱり親心的には、息子が作ったものが食べたいよな。
「わかりました」
「え、いいの父さん……俺の……」
「いいのいいの。蓮が作ってくれることに意味があるんだから」
そう言って、紫音さんはいつものように軽く手をふって「いってきまーす」といって仕事に向かった。
さっきまで騒がしかった部屋の中が、紫音さんがいなくなった瞬間にしん……と静まり返る。
「蓮」
「ん?」
「味見」
ルーを少しだけ掬ったスプーンを蓮に差し出す。
じっとそれをみると、そのままパクリと食べる。
「どうだ?」
「ん……美味しい」
「そっか。じゃあこれで完成だな」
火を止めて、そのままかき混ぜていたお玉でオムライスにハヤシライスをかける。
蓮作ってくれた方は、とりあえず天津飯みたいに上からドバーッとかけて……うん、これなら大丈夫。
「よし、食おうぜ。蓮の初の料理」
「うぅ……緊張する」
テーブルに料理が並べられる。今日の俺と蓮の晩御飯。
あ、そうだ。香澄に写真遅れって言われてんだった。
「え、写真撮るの?」
「香澄に頼まれたんだわ」
「せ、せめてこっち。颯音が作った方!」
「やーだ。蓮が作ったから価値があんだろ」
パシャリと、蓮の生死の声など無視して写真を撮って、そのまま香澄に送った。
数分後、香澄から案の定「なんかいつもより見た目が悪い」なんて返信がきたので、これは蓮に教えないでおこうと思った。
あっちはあっちで奮発したみたいで焼肉食べてるらしい。
いいなぁ……
「よし、食うか」
二人一緒に手を合わせて、声を揃えて「いただきます」と言った。