3話《ルーティーン》
「よし、でーきた。今日のも完璧」
朝、いつも朝食と弁当作りをするために家族の誰よりも早起きをする俺。
基本的に父さんは朝、珈琲だし、母さんはギリギリまで寝てるから焼いた食パンと牛乳だけを準備する。
しっかり朝ごはんを食べるのは俺と妹の香澄だけ。
「ふわぁ……おはよぉ」
そんなことを考えていれば、香澄が欠伸をしながらリビングに入って来た。
しっかり制服を着てはいるが、まだ脳みそは動いてないみたいだ。
「ん、おはようさん。朝飯、今日は和食ですがご不満は?」
「ありませーん」
そう言いながら、テーブルに用意している朝食を、寝ぼけた状態でもぐもぐ食べている。大体、食べ終わった後に覚醒するんだよなあいつ。
「おはよう」
「おはよう父さん。珈琲できてるから、飲む分だけ自分でついでくれ」
「ありがとう」
次は父さんが起きてきて、自分のカップに珈琲を注いで席に座った。
朝は新聞を読みながら珈琲を飲むのが父さんの日課というかモーニングルーティーンみたいな感じ。
「そろそろかなぁ」
「はぁ、結構ギリギリ。でも間に合う!」
「おはよう母さん。はい、トーストと牛乳」
「うん、ありがとう」
きっちりスーツに身を包んだ母さんは、俺からトーストと牛乳を受け取り、一気耐えらげて、気合いを入れるために両頬を叩いた。
「よし!」
「はい、弁当。転ばないようにね」
「うん。行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
「いってらっふぁーい」
母さんを見送り、弁当も完成させた俺は、香澄の向かいの席に座って朝食を口にする。うん、味噌汁もいい感じ。鮭も今日はうまく焼けてる。
「さて……父さんもそろそろ行くな。戸締り頼んだぞ」
「はーい」
「弁当忘れないようにな」
「あぁ。いつもありがとうな」
立ち上がってしっかりと片付けをした父さんは、鞄に黒い布で包まれた弁当を鞄に入れていく。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃーい」
そうして、家には俺と香澄だけ。これが、我が家の朝である。
まだ少し寝ぼけ眼だけど、香澄はしっかりと朝食を耐えらげ、「ごちそうさま」と口にするとちゃんと洗い物をする。こういうところは偉いよなぁ。
「弁当忘れんなよ」
「……また作ったの?」
「ん?」
「お弁当。家族の分と別にもう一個」
「あぁ、蓮の分か。別にいいだろ」
「よくないよ!うちの食費が減る!」
むすっとした表情を浮かべる香澄。どうも、妹は蓮のことがお気に召さないようだ。父さんと母さんは特に気にしておらず、事情を話せばむしろ喜んでいた。息子の成績が上がるなら、弁当の一つくらい安いものだと。
「父さんも母さんも許可してんだから、お前がギャーギャー言っても仕方ないだろ」
「んー!!もう!お兄ちゃんのばか!」
すでに頭が覚醒している妹はすっかりいつも通り。元気で何より。
少し乱暴に弁当を手に取り、少し乱暴に鞄に入れる。
「行ってきます!!」
「行ってらっしゃーい」
怒りながらもちゃんと言うあたり、根はいいやつなんだよなぁ。
そんなふうに考えながら朝食を耐えらげ、洗い物もしっかり済ませ、戸締り確認に火元確認などもして、家を出る。
これが俺のモーニングルーティーン。
その後は、寄り道せずにまっすぐ学校に向かう。
もうすっかりこの生活には馴染んでしまい、特に面白みなんてものは何一つない。
でも、楽しみは増えたかな。
「ここ、結構間違えやすいから気をつけてね」
「わぁー、今のでフラグ立った気がする」
蓮との昼休みは、最近の俺の楽しみ。
作った弁当を美味しいと言ってくれるのが嬉しくて、勉強もこいつの声だとしっかりと頭に入ってくる。本当に俺はこいつの声が好きすぎる。
「颯音?」
「え?あぁ悪い。ちょっとぼーっとしてた」
「ちょっと休憩する?」
「そうだな。まだ弁当少し残ってるし」
広げていたノートを片付け、お互いに残っている弁当を耐えらげる。
お腹は当然満たされるが、蓮といると心まで満たされる。本当に幸せだ。
「そういえば、この前お前に教えてもらったところが小テストで出てさ、2年になって初めて満点取れたわ」
「よかったね」
「これも蓮様のおかげです。ありがたやー」
「颯音が頑張ったからだよ。僕はただ教えただけ」
「いや、それがありがたいんだよ。実際、お前に教えてもらうようになってから成績も上がったし。父さんも母さんも喜んでたよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
しっかりと結果が出せているからこそ、弁当のことも母さんと父さんは許可を出してくれている。本当に蓮には感謝しかない。
「そうだ蓮、今夜暇か?」
「え?あぁうん。大丈夫だよ」
「お前、夜も外食だって言ってただろ?この前、母さんの実家からたっぷり野菜送られてきてさ、家で消化しきれないんだわ」
「えっと……もらってくれってこと?」
「そうそう。でも、ただ野菜だけ渡してもその……困るだろ?」
料理ができないだろ。なんてバッサリいうことができなかった。でも、蓮はしっかりそれを察してくれて、「そうだね。腐らせちゃうね」と苦笑いを浮かべた。
「だから、日持ちできそうな飯を作るから、それをお前に渡そうと思って。温めるぐらいは流石にできるだろ?」
「助かるよ。実は、父さんにも颯音のお弁当の話をしたんだけど、すごく羨ましがられて」
「え、なんか恥ずかしいなそれ……」
「手料理なんて、もう何年も食べてないから、きっと父さんも喜ぶよ」
「そっか……」
なんか、そうやって本当に嬉しそうにしてもらえるのは嬉しいな。料理ができてよかったって、心から思える。
「じゃあ放課後、昇降口のところ集合な」
「うん。楽しみにしてるね」