19話《違い》
「んじゃあ、俺出かけてくるな。晩飯はあっちで食ってくるから」
「うん、気をつけて」
週末。今日は蓮の家に晩御飯を作りに行く日だ。
材料は、蓮の家に行く途中にあるスーパーで買う予定だから、必要な荷物はショルダーバッグに入れてる。
因みにこれ、香澄が今年の誕生日プレゼントでくれたやつ。
「晩御飯でビーフシチュー作ってるから、食うときはあっためて食えよ。一応ご飯炊いてるけど、パンが良かったら籠の中のやつ食えよ」
「うん、ありがとう。外食でも良かったのにわざわざ」
「昨日の夜、食べたがってただろ」
そう言いながら、俺は香澄の頭を撫でてやった。
これでもお兄ちゃんだから、極度のブラコン妹でも可愛いんだ。妹が食いたいって言ったら作ってやるのが兄ってもんだよ。
「んじゃあ行ってくるな。帰りは遅くならないようにするから」
「……お兄ちゃん!」
「ん、どした?」
「……頑張ってね。私は、応援してるから」
「応援って……何をだよ」
俺が苦笑すれば、香澄も同じように苦笑する。
見送る香澄に手を振り、俺は蓮の家へと向かう。その前にスーパーだけどな。
いつも利用してるスーパーだと、蓮の家から離れてて、大荷物を持って移動するのは苦労するから、普段行かない、蓮の家に近いスーパーによる。
自転車を使えばいいんだが……俺の自転車は、ロードバイクだから買い物向きじゃない。
「三人分だけど……少し多めに作ってミートソース作ってやるか……ご飯にかけてチーズ載せて焼けばドリアとか作れるし……できる、よな……それぐらい」
色々と考えながら、俺は今夜の海雨家の晩御飯材料を買って行く。
食費に関しては、後日紫音さんが払ってくれるらしい。断ったんだが、逆に断られた。俺は、もう決めた。あの人の言葉には逆らわない。どうあがいても受け入れざる得ないから。
「肉は……1円単位でも安いのを……んー」
「あれ、お前確か……」
不意に聞こえた男性の声。普通なら特に視線を向けたりしないし、気にしたりなんかもしない。だけど、俺はその声に聞き覚えがあった。
「やっぱり、蓮の友達の」
「お前……」
俺の顔を見て驚いた表情をするそいつは、以前、コンビニ前で会った蓮の中学時代の同級生だった。
「買い物か?」
なんて聞いてくるそいつは、店のエプロンを着けていた。
こいつここで働いてんのか?
「お前、中卒か?」
「失礼な。この前制服着てただろが!バイトだよバイト」
「ふーん」
全くもって興味がないから、俺はとりあえず無視して肉選びをした。一番安い肉。
「見かけないけど、いつもこの店きてんの」
「今日が初めてだよ。この後蓮の家に飯作りに行くから」
「ふーん。仲良しなんだな」
こいつと、蓮の関係は聞いた。
蓮が中学時代に好きだった相手。蓮の告白をひどい言葉で断った相手。
「お前さ、知っての?蓮のこと」
「……これから知りに行くところ。ちなみにいっておくが、俺はあいつが男を好きだって知ってる」
「……知ってるのに、なんであいつといるんだ?」
心底驚いた声を出されたが、逆にお前はなんでそんなに驚いてんだよ。あぁそうか、お前にとっては男が男を好きなのがわからないんだもんな。
「友達だからだよ」
俺はお前と同じだよ。仲のいい友達。だけど、お前と違ったのは蓮のそれを受け入れられるか受け入れられないかだ。
「んじゃあ俺行くわ。バイト頑張れ」
一番安い肉を見つけてカゴに突っ込み、俺は軽く手をふった。
なんだかどっと疲れたような気がする。
「ちょっと待った!」
不意にそいつに呼び止められた。そして、籠の中に入れてた肉を取られた。
「お、おい!」
だけどすぐに返された。肉には割引シールが貼られてる。ん?どういうことだ?
「この店では、16時になったら肉は割引されんの。で、今がちょうど16時」
スマホで時間を確認すれば、確かに16時。なるほど、この店はそんなお買い得なことがあるのか……次からは、肉はこっちで買うか。
「綾人」
「ん?」
「空野綾人。俺の名前。お前は?」
「……岸部颯音」
「颯音な。よし、覚えた。……蓮のこと、よろしくな」
どうしてこいつがそんなことを言うのかわからなかった。だけど、その最後の言葉をを口にした時の声音は、なんとなく後悔のようなものが含まれてるような気がした。
「嫌だ」
「え?」
「任されたと言いたいが、お前がもし蓮に対して思うところがあるならちゃんと伝えろ」
正直、お前がバカみたいな振り方したせいで現状蓮とすれ違いというか、変な溝みたいなものができてんだ。
お前にそんなこと言われる筋合いはない。
「立会人ぐらいにはなってやる」
「……颯音はすげーな」
「何がだよ」
「いや……そん時は頼むな」
「おう。連絡先知らないから頼まれても無理だけどな」
「えー……」
「……次のバイトっていつだ」
「えっ、えーっとぉ……確か月曜日の17時だったかなぁ」
「じゃあそん時にでも来る。肉を買いに来るついでにな」
背中を向けながら、俺はそう言った。
なんであんなことを言ったかはわからない。少なくともあいつは変わろうとしてる気がしたし、蓮にも過去と向き合ってほしいと言う気持ちがあった。
あいつが相当のクズだったら絶対断ってた。でも……
「ちゃんと話せば、いいやつみたいだな。声もまぁよかったしな」
会計を済ませ、持ってきたエコバックに商品を詰め込んで、俺はいざ戦場……蓮の家に向かうことに。




