18話《久しぶり》
放課後、俺はそのままSクラスの教室に足を運んだ。
正直緊張しかない。絶対にこないクラスだからだ。蓮と知り合って、一回ぐらいは教科書を借りに行くかと思ったけど、案外俺も真面目みたいで、一度も忘れ物をしたことはなかった。
「あのさ」
教室の出入り口にいる、Sクラスの生徒に声をかける。
楽しく雑談していた時に俺が話しかけてしまい、俺の方を見ながらめちゃくちゃ不機嫌そうに「なに」と言われた。
「海雨いるか?」
「……海雨、なんか呼ばれてる」
教室に向かってSクラスのやつが声をかける。呼ばれた蓮はこっちに向いて、俺と目があった。
軽く手を上げれば、体を少しビクッと震わせた。うわぁ、反応があからさまだな。
だけど、蓮は逃げなかった。教科書とかを鞄に入れると、俺のそばまで来た。
「……帰ろうぜ」
「……うん」
俺はそのまま教室を離れる。一瞬横目でクラスメイトたちの様子を伺うと、随分意外そうな表情をしていた。
ホントこいつ、普段どんな感じなんだよ。
帰路はお互い無口だった。蓮が無口なのはわかるけど、俺まで無口になっちゃダメでしょ。
何か話さないとと軽く唸りながら、とりあえず謝罪を一言。
「悪いな、急に……」
「あ、いや大丈夫。ちょっとびっくりして」
久しぶりに見る蓮の苦笑。あぁ本当に落ち着く。これが、数日前は当たり前だったんだよな。
「あのさ蓮、今週の休みなんだけどな」
「う、うん……」
「……紫音さんに、飯作りに来てくれって言われてんだよ」
「え、父さんに?」
「そう。で、土曜日に家に行くから」
嘘とほぼ強引。紫音さんには後で話を合わせてもらうように連絡しておかないと。
蓮は申し訳なさそうな顔をするけど、逆にこっちが申し訳ない。すごく胸が痛い……。
「それとさ……」
「ん?」
「もう少し、話がしたいと思って……」
たじろもどろ。後半が徐々に小さくなっていく。後、顔を見るのが怖くて若干うつむき気味になった。
「俺らさ、色々話すけどあんまりプライベートな話とかしたことないだろ?だから、そのさ……」
何だろう、いつもみたいに上手く話せない。ちゃんと言えばいいのに、如何してか胸がざわついて口が上手く回らない。
「颯音はさ……」
「え……」
「いや、何でもない」
何かを言いかけて、それをぐっと堪えた。あぁこういうところか。ふと、俺はそう思った。
「土曜日、楽しみにしてる」
「おう。楽しみにしてろよ」
追求はしなかった。今ここで聞くことじゃない。土曜日、喧嘩をしてもいいからちゃんと全部話そう。そして、全部聞こう。そう思った。
「んじゃあまたな」
「うん、また」
今はこうやって、何気ない言葉が口にできるだけで満足だ。




