16話《甘い卵焼き》
「はい。じゃあその日に……はい、すみません」
翌日もやっぱり蓮はこなかった。一応弁当は二つ用意していたが、結局無駄になってしまった。責任持って、自分で二つ分耐えらげることにした。
飯を食べながら、俺はある人に電話をした。夜は仕事。昼間は多分寝ていたであろう、蓮の父である紫音さん。半強制的に交換させられた連絡先が、ここで活用されるとは。
《いいよいいよ。最近蓮もなんだか落ち込んでてね。そうかー、やっぱり颯音君と喧嘩してたかぁ》
いつもの軽い口調になんだかホッとする。後、最高にいい声すぎる。もう深々とため息こぼしたいよ、ホント。
「喧嘩、なんですかね……俺は単純にすれ違いだと思ってるんですけどね」
《そうだな。あいつはあんまり自分から話すタイプじゃないからな。それに、全部自分でどうにかしようとしたり、自分を犠牲にすることも多いからな》
香澄も、蓮の性格をそう言っていた。実の父親がそう言っているのだから、自己犠牲タイプっていうのは、ほぼ確定だな。
「とりあえずは、その日に伺います」
《大丈夫だよ。仲直りできるといいね。まぁ、俺個人としては、颯音君のご飯が食べられるならなんでもいいんだけど》
「あはは、そんなに喜んでもらえると嬉しいです」
軽い挨拶をしたあと、俺は通話を切った。
体から一気に緊張が消え、壁に寄りかかって一息。何もない天井をしばらく見つめたあと、俺はもう一つの弁当箱に手を伸ばした。
中身は一つ目と同じ。下の段に米が敷き詰められて、上の段におかず。あいつが好きだと言っていた甘い卵焼き。それを一つ口に運ぶ。特に感想なんてものはない。ただ、それを食べた瞬間にあの日の蓮の姿を思い出した。
「それで、話って何?」
不意に聞こえた声に、俺の箸が止まる。




