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Vox-ウォックス-  作者: 暁紅桜
15/40

15話《そっと背中を》

「ねぇお兄ちゃん」

「んー、どうしたー?飯ならまだだぞ」

れんさんと、喧嘩したの?」


何気ない香澄かすみ問いかけ。俺は手を止めづに、そのまま夕食の準備をする。

油の中で上がっていく唐揚げを見つめながら、俺はいつもの場所を思い出した。

蓮のいない、物陰の情景……。


あの日から、蓮とは会ってない。

物陰に来なくなれば、俺たちの接点なんてない。クラスに行く用事もない。

俺たちの繋がりは、あの場所だけ。


「別に。なんでだ?」

「だって、蓮さんが一人で私のところ来たから」

「お前のところ?」

「うん。勉強のお礼。伝えてくれたんでしょ?」


律儀なやつだな。わざわざ香澄の所に行くなんて……。

なんとなく胸があったかくなって、思わず口元が緩んでしまう。


「そっか」

「んー、やっぱり喧嘩してるでしょ」

「してないって。ほら味見」

「ングっ」


プンスカ怒ってる妹の口の中に、揚げてる唐揚げを捻じ込んでやった。あ、熱々ではないから大丈夫。


「どうだ?」

「んっ……美味しい」

「だろ」


別に話をそらしたかったわけじゃない。でも、俺自身はこのままは嫌だしな。

あっちから来ないなら、こっちからいかないといけない。

蓮が逃げないように、しっかり道を塞いで。俺の方を見させるために。


「蓮は、なにが好きかな……やっぱり711のメロンパンか?」

「もぐもぐ……ングっ……蓮さん、ハンバーグ好きだって」


唐揚げを飲み込んだ香澄が、けろっとした表情でそういってきた。なぜお前が蓮の好物を知っている。俺知らないぞ……


「前の勉強会で、お兄ちゃんがお昼ご飯作ってる間に色々話した」

「色々話しすぎだろ……」

「むしろ、お兄ちゃんが話してなさすぎ。普段どんな会話してんの?」


あ……今言葉という凶器に胸を容赦なく突き刺されてる感じがする……返す言葉もないです……

俺たちの会話は、勉強だったり、何気無い事だったり、シチュボのことしか話してない。何気なことも、別にお互いのことではなく、今日の上でどんなことがあったとかの話。確かに、お互いのことはあまり話した事がない。


「その様子じゃ、普通の話はしてないみたいだね」

「返す言葉もありません」

「……蓮さんは多分だけどね、自己犠牲タイプだと思うんだよね」

「え?」

「自分が、自分がぁって。何かが壊れるかも、変わるかも。そう思ったとき、自分を犠牲するタイプ」

「……お兄ちゃんより蓮のことをよくご存知で」

「……まぁ、お兄ちゃんもちゃんと話せばわかるよ。私だって少し話しただけでわかったんだから」


少し、か……出会って数ヶ月経つ俺より、数日……いや、多分正確には数時間だとは思うけど、そんな香澄の方が蓮のことをよく知ってるのは、やっぱり心が痛む。


「そうだな。やっぱりちゃんと話さないとだよな」

「あ、いつも通りのお兄ちゃんの顔になった」

「えー……俺、そんな顔に出てた?」

「ブラコン妹をなめないで。すぐにわかったよ」


ニッと無邪気な笑みを浮かべる香澄。ホント、こいつには叶わないな。よし、お兄ちゃんが褒美をやろう。

俺はそのまま、優しく香澄の頭撫でてやった。


「ありがとな、香澄」

「……む……こういうところずるい……」


どこか恥ずかしそうな顔をしながら、俺に頭を撫でられる香澄。

妹のためにも、いや……それは言い訳か。俺のために、俺は行動に移すことにした。

決戦は、今週の土日だ。


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