14話《聴けなくなった声》
「あ、いた」
いつもの場所に行けば、蓮はいた。
昨日のこともあったからいないかもとは思ったけど、まぁ結果オーライ。弁当が無駄にならなくてよかった。
「って、お前それ……」
「あ……えっと」
蓮の近くにはたくさんパンやおにぎりが置いてあった。
「颯音、来ないと思って……」
「それはこっちのセリフっつーの。ほら、他のは食わずにこっちを食え!」
「え、でも……」
「賞味期限が早いのはこっちなんだから、俺の弁当を優先的に食え」
強制的に弁当を蓮に渡し、床に置かれたパンやおにぎりを袋に戻していく。食べてしまった分はまぁ……仕方ない。
「……ありがとう」
小さな声でそう言いながら。蓮はいつものように弁当を口に運ぶ。ふわっと笑みを浮かべて「美味しい」と言ってくれて、俺はそれだけで十分だった。
「昨日は、ごめんね……」
「別に、気にしなくていいって。お前も、あんまり顔色良くなかったしな」
正直色々聞きたいけど、俺からその話を振ることは出来なかった。怖いというのもあるけど、踏み込んでいいことじゃない気がする。
「……昔好きだった人なんだ、彼」
そう思っていたのに、蓮は少し苦しげにそう言ってきた。別に無理して言わなくてもいいのに……そう思いながらも、俺は黙って蓮の話を聞いた。
「中学時代、好きだった人なんだ。優しくて……よく一緒にいてくれてね。で、僕は勇気を出して告白したんだ。だけど……」
——— は?なにそれ……男が好きとか気持ちわる
「そう言われちゃったんだ……そうだよね……なんて思って。彼とはそれっきり話さなくなった。幸いだったのは、彼がそのことを誰にも話さなかったことぐらいかな。いじめとかはなかったし」
過去を思い出すように、もう笑い話というように話してるけど、その時の傷はいまだに癒えてないのだろう……浮かべてる笑顔が苦しそうだし、声もいつもと違う。
「それからはもう誰かを好きにならないって決めて、溜まった欲はシチュボで発散してたんだ。だからね……だからね、蓮」
今にも泣き出しそうな声と顔で、蓮は俺の方をみる。
「明日からはもう、僕はここに来ないから」
あぁそうか。あいつの言っていた、”精々深く仲良くならないことだな”という言葉はそう言う事かと、俺は思った。
仲良くなれば、蓮が俺を好きになると、忠告、したんだろうな。
「なに泣いてんだよ」
「え……べ、別に泣いてなんか……」
「……香澄がな、成績上がったって喜んでたんだ」
「え……」
「お礼が言いたいって、昨日連絡するの忘れてた」
「えっと、颯音……僕は……」
「お前が来なくても、俺はここに毎日来るからな」
こいつが俺を遠ざけたいのは、気のあったあいつの事があるからだ。こいつは今必死に俺を好きにならないようにしてる。
それまでわかってしまえば、俺もなんとなく自分の気持ちに気づいてしまう。だけどこの気持ちを口にすることは、蓮が望んでいない。
「とりあえず飯食おうぜ。腹が減ると午後の授業マジで死ぬんだよ」
なぁ蓮。俺はお前の声が好きだよ。
下心で、ずっとお前と一緒にいたいと思った。お前の声をもっとたくさん聞きたいって……声が目的だったけど、今は純粋にお前に会う事が目的になってる。
俺は……
———お前が好きだよ。
翌日、屋上の物陰に蓮の姿はなかった。




