成霊式
ー正午花霊宮内にて
「姫さま!早く起きて下さいまし!!もうすぐ儀式が始まる頃でございます、」一人の召使いらしき者はそう呼びかけるけれども、睡蓮の形が刻まれ、水晶で作られたベッドに寝ている姫はちっとも動かなくて、まるで眠っているパンダみたいだった。その召使いはそれでも起きない様子をを見て傍で色々と話し始めた。
「お姫様、今回はお姫様のお誕生日及び成霊式ということでありまして、鶏が鳴く頃には起きなくちゃいけません。今回は先に成霊式の行事を行ってから、夜にお誕生日のパーティを始めるわけでございます。そのパーティには美味しいものもいっぱい出ますわ。例年より遥かに豪華なケーキ、団子類、ご飯類、麺類など。お姫様が大好きなたこ焼きもありますわよ!」
姫はそのメニューを聞くなり、すぐさま、ベッドの上で体を起こした。
「たこ焼き?花国にはないお食事まで用意されているん??私、人間界で食べてからというものの、それ以来は食べたことなかったわ。エイブリー、それはほんまか?」
「ほんまか」→「本当か」
「ええ、本当でございます。」エイブリーはしばらく考えてからそう答えた。
それを聞いてスイレン姫は「じゃあ夜のパーティが始まる前に起こしてくれてなー」とまた寝直した。
それを見るなり、エイブリーは慌てて言う。
「姫様!王妃様からの雲殿行きの御車が用意されております。早く起きないと、王妃様が。。。」
その言葉に合わせるかのよう、宮外でペガサスの鳴き声が聞こえた。花国のペガサスは賢いので、上等貴族たちから王様まで愛用されている。スイレン姫は小さいころからその鳴き声を聞きなれているのですぐに分かった。
ためらわずに起きなおし、「すぐ、衣類などを準備して!!」と叫ぶ。
それと同時に心の中でも叫んだ。(お母さまに怒られるわ!!)と。
衣装などが整え、お化粧も済ますと、スイレンはついさきの姿と一段と違った。
銅鏡をみて、エイブリーは笑いながら、
「姫様、おきれいですわ。今日の行事も順調に進められるでしょう。」
「最初の行事はなに?」とスイレンは急かして言う。
「百官に見守もられる中で行われる成霊式です。」エイブリーはそういうとハスの花冠をスイレンの頭上にかぶった。ハスは花国では純潔や純粋の意があり、高貴な花である。その香りも特徴的で朝露のような芳香である。スイレンにしてみれば、花の匂いが全く分からない。それよりも食べ物の匂いのほうが彼女を惹きつけるだろうけれども。
「これは何の花の匂い?」
「ほらね。」
「ハスですよ!姫様。」とエイブリーはあきれたように言う。
「えへへ。いつも一緒にいるからもう慣れっこでしょ?それより、速くしましょ。」
今度はスイレンがエイブリーを促して、外に向かった。
ペガサスが牽く車に乗ると雲の上を通り、あっという間に雲殿に着いた。
スイレンが着くと、控えていた侍女がきて、後方から入るように率いてくれた。後殿内から摂政王が手招きしているのが見えた。それをみて、スイレンは思わず笑った。
(おっと、忘れちゃったわ。叔父様がいればもう怒らないのさ!!ベリーグッドよ。)心の中でそうつぶやくとスイレンは笑みがさらに増す。
「 スイレン、速く来なさい。ところで二十分も遅れたのにその笑顔は何!?」
案の定お母さまの怒りがこもった声だった。
「まあまあ、」と摂政王はなだめて、スイレンに向かって、尋ねた。
「急いだでしょう。早くお茶をお飲み。」
「ありがと!」スイレンは純粋な笑顔を摂政王に向けた。
その様子をみてお母さまはため息を一つつく。
「おじはこの子に甘いのですから、それでいくといつか、ひどいことをやらかすかもしれないのに。。」
それを聞いて摂政王は声を出して笑った
「スイレンは三歳のときに宮中の宝庫のなかに無断で入り、暴れて、国宝を壊したこと。六歳のときに神木にのぼって祭式用の神符をはがし、時間を逆流させたこと。十歳の時に太陽をとってみたいからといい霊鬼から弓と矢をかりて射って無数の炎が落ち、危うく今日の花国がなくなってしまうこと。
これらよりももっとひどいことがこの世にあろうか?」
王妃はそれを聞いてそれもそうだと納得し、改めてスイレンに言った。
「あとの式はジョール将軍も来るよ。遠征で疲れたのに、お前の成霊式に絶対参加するという。だから、ジョール将軍が来るのを待ってから始めよう。」
半時間ほどあと、ジョール将軍が来て皆の前でようやく、成霊式が完成された。
人間界の成人式に転じて、精霊界は成霊式とさせていただきました。