20.6.3
ほの白い昼が来る
猫を撫でる女性の手のように
ゆるやかに揺れる帳を透かして
花が咲いて枯れて
また別の花が咲いて
それも萎れている
雲の道から見える空の地面は
誰かの眼差しに似ていた
燕の声も子供の騒ぎも
風の音も自分の吐く息も
まったく聞こえない
なんだか不安になる
名前のあるものが多すぎて
そのくせ限られた世界に生きていて
一週間前に飲んだ紅茶の匂いばかり思い出している
玄関のドアを押し開ける
ほの青い夕暮れが来る
ようやく風の戻ってきた通りには
雨が残した闇が残る
桜の青葉を伝う滴が落ちる
藤と躑躅が透ける住宅街の小路を歩いていた
朽ちかけたアパートの植え込みに恐ろしく繁茂する緑や
そっぽを向くゴミ集積所の看板
側溝の蓋石を鳴らして車が道を逸れていく
物言わぬはずの全てのものが存在を知らせる
大気がくらくらとぬめりを持つ
水たまりに映る世界では
何故か良いことがありそうに思える
言葉で表したいのに表せられない
黙っているのが一番真実に近いと
わたしもあなたも知っている
真実ってなんだろう
今日も色の無い夜が来る
瞼の裏で幻のような朝が手招く
半分眠りに落ちたとき
桃色の鳩の番が羽ばたこうとしていた
夢の中でわたしはブーツを履いて国道を走っている
自信家で尊大で強欲で打たれ弱い
いけ好かない幼い子供のまま
山吹色の壁の前で振り返った若者の
その白いなだらかな肩から
血が一筋流れていった
わたしを惹きつけた
誰かを殺す夢 誰かに殺される夢
未熟さを見せつけられる夢に疲れた
けれど生きていかなければ
言葉にしたくないものを抱えて
正直に言えばわたしが
太陽の光を無遠慮だと嫌い
星の煌めきにさえ自分と同じ物を見出す
毎日つまらない主張に終始するわたしであることに
嫌気がさしてしまう時がある
二度とは素直に生きられないかもしれないということ
理屈を捨てられないこと
感情の見えない顔をしてしまうことが
わたしの人生
誰かの人生を
易く表現できる言葉で当てはめてしまおうとすることが
自分から姿を眩ます本心が
心の中にある
認めてはいけないような気持ちが
でもそんなのは誰でも同じこと
叱られそうだから黙っている
わたしの悩みはそんなものばかり
指揮者の指先が描く線
自動車の計算された輪郭
散りゆく花火 金粉でできた柳の弧
刃物の刃元から切っ先までを目で追ってしまう
こういうものに憧れて久しい
不安も怒りも悩みもなくて
心地良い昂りを見据えていればいい
ただ__美しいと言えばそれでいい
生きることは
結局のところ強制ではない
けれど生きていかなければなあ と
空を見上げながら思っている
わたしの憧れであるままに
今でも超然と
道の先を一歩一歩踏みしめる人がいる
なんだかじんわりと嬉しくて
それを覚えて生きていけたらと思った