20 その時彼女は何を思ったのか
私は神の愛し子。
私は神が己の領域を管理する、その役目を全うするために存在するモノ。
敬愛する神様。
あの方はお優しい方。そして、とても素晴らしい御力をお持ちになっている。
誰よりも尊敬されるべき。
誰よりも愛されるべき。
誰よりも、尽くされるべき御方。
ああ、神様、神様。私を創って、私を愛してくださる神様。私は、誰よりも貴方様のためにこの身を捧げます。
幸せであれ、と仰るのでしたら、幸せになって見せましょう。
健やかであれ、と仰るのでしたら、健やかでありましょう。
恙無くあれ、と仰るのでしたら、恙無く生きましょう。
私は貴方様の為に在ります。
私のこの身、この命、全ては貴方様の為に。
けれども、私の中には一つの使命。それはきっと、歴代愛し子たちにもあったに違いないもの。
神様、貴方様の治める領域に、貴方様の存在を今一度敬わせる。
今、私の眼下に在る人々のなんと醜い事!
己の欲にばかり目がくらみ、神様の事を忘れた者達ばかり!
許すまじ!
私の敬愛する神様。彼の御方がいらっしゃらねば、生きていくこともできないような脆弱な存在が、神様の事を忘れるなど! 軽んじるなど! 言語道断である!
背に、滾る炎を背負い、強く決意する。
絶対、絶対、ぜぇえええええったいに! 我が敬愛すべき神様を、思い出させてみせます! そして、神様を敬う心を取り戻してみせます!
もしも腕があり、袖のある服を着ていたら、袖をまくりあげ、鼻息荒く、フンスフンスと音をたてていたでしょう。最早転生する前となった私は、丸い光の球なので、ぴこぴこと明滅するくらいしかできない。
神様、神様、貴方様の領域に蔓延る悪は、私が排除します。貴方様の望む、幸福で、健やかで、恙無く暮らせる世界を、私が作って見せます。
劣悪な転生先だ、と難色を示しておられましたが、どうかご安心ください。必ずや、あの者達を改心、または、断罪いたしますから! そのために、神様の御力を使うこと、お許しください。
世界に揺蕩う知識の流れから、私の求める知識を引きずり出す。
この世界を創った、私の敬愛する神様を創った、神様の、神様。その方の知識が見つかったけど、それは私には閲覧もできなければ、引っ張り出すことさえできない。それはまぁ仕方ないけれど、でも、そこから辿って、神様の神様の知識を持った、別な知識を見つけた。
内容を確認し、それが私の欲しい知識であることを知る。
よし、これでいいわ!
引きずり出し、私の魂に練りこんだ。
あ、ああ、不思議な感覚……。
私が、私でなくなっていく。
でも、いいの。
私は神様の為にやれることをするだけ。それに、どうせ転生したら、私は私ではなくなるのだから。
そういえば、知識を持ってくるとき、何か引っ付いてきたような気がしたけど……気持ち悪かったから振り払ってしまった。アレは、どうなったのかしら?
考えようとするけど、知識が混ざりこみ、私が消えていく。
もうすぐ転生先に送られることもあって、私の意識は全く保てなくなってきた。きっと、目を閉じたら私は消える。それでも、いい。
私は、私たちは、必ず、神様の為になってみせるわ……。
神様、みて、いてくだ……い……私、あ…………だ様……た……に……。
か、み様……。
――え? エスカリーテ? うそ、私、悪役転生したの!?
END




