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17 閑話8 神様は働き者だけどものぐさ



 ――浅ましい。



 自ら追いつめ、殺した相手に希うなど、呆れてものも言えぬ。

 我が愛し子は何故このような愚かな者達を守っておったのか。かける慈悲など見当たらぬような愚物ではないか。

 ふん、と鼻を鳴らし、下の様子を映していた光の球を消す。

 まぁ良い。これで大体の仕込みは終わった。後は魂の牢獄の準備だ。


「デュー様ー?」

「どうした、ユリよ」

「あ、いたいた。急にいなくなったので探しに来ました」

「ああ、すまぬな」

 足を動かしたり、ハッとしたように足を止めてふよふよと浮いて移動しながら近寄ってくる愛し子。

 うむ。可愛らしいが、面白いな。

「どうしたんですか?」

「神の仕事だ。我も神として色々とせねばならんのでな」

「新しい世界を創るんですか?」

 小首を傾げて問う。



 ふふ。もう、すっかり下の者を覚えていないようだ。『エスカリーテ』として生きてきた時の記憶と、『ユリ』が知っている下の世界の記憶の全てを抜きとった甲斐がある。

 まだ生きているのに憐れなものよ。お前たちが救いを求めた者は、既にお前たちを覚えておらぬぞ。だが愛し子は優しいからな。もしも見せたり会せたりしようものなら、憐れんで慈悲をかけるやもしれぬ。そうならぬよう、徹底的に隠さねばな。



「そうだな。もうすぐ一度大地を更地に戻す。それが済んだら主にも手伝ってもらおうか?」

「私!? 私なんかがデュー様のおおおおお手伝いを!?」

「なに、そう難しい事ではない。たとえば、どこに森を創り、どこに川を創るか。そこに住まうのはどんな者達か。それらを共に考えてもらいたいのだ」

「うわぁ……本当に天地創造ってやつだ……。あの、私なんかが、そんな大層な事に関わって良いんですか?」

「ユリ。我が愛し子よ。たとえそなた自身であったとしても『私なんか』などと己を卑下した言い方をするな。そなたは我が愛し子。我がこの世界で唯一愛する者だ。だれであっても我の愛する者を卑下することは許さぬ。良いな?」

「ひゃ、ひゃ……い……」

 真っ赤になって頬を抑えながら、こくっと頷く頭。

 素直な様子に、よしよしと頭を撫でれば、ふにゃりと腑抜けたような笑みを浮かべて見上げてくる。


 どうやら愛し子は、こうして頭を撫でられるのが好きなようだな。

 よしよし、と更に撫でる。

「ふあぁぁ……この『疑似恋愛。スパダリに可愛がられる私』的な状況美味しすぎるぅうう」

 相変わらず奇妙な独り言が多いが、それもまた可愛いな。



 しばらく頭を撫でていると、愛し子が思い出したように声を上げた。

「そういえばデュー様。この国はデュー様の領域なんですよね?」

「そうだな」

「で、他の国は他の神様の領域なんですよね?」

「そうだな」

「他の神様と交流とかしないんですか?」






 ……は?





 なんだ? 何故突然そのようなことを?

 なんだ? 旅行、とやらは今は必要ない、と言ってなかったか? 行きたくなったのか?

「あ、ちょっとした好奇心なんで、なんか神様的な決まり事で話せないとかなら、別に答えなくて大丈夫です!」

 首を傾げた我に、慌てたように手を振る愛し子。


 なんだ。単純に疑問に思っただけか。

 確かに、その存在が在ることを告げながら、一度も会っていないからな。子供のように好奇心の塊のような愛し子なら、気にして当然か。


「問題ない。我らは基本的に念話で会話する。殆どの神が愛し子を持ち、見守るのに忙しいからな。会いに行くのは稀だ。愛し子がいるのに他にかまけるなどありえん」

 まぁ、我は愛し子が眠りについている時に会いに行ったが。そういうのは本当に稀だな。

「愛し子を持たない神様もいるんですか?」

「おるな。愛の神なんかはそうだな。アレは『アタシの領域の子は、みぃんな、アタシの可愛い愛し子ちゃんよぉ。でもおイタしたら、ちゃぁんとメッってするんだからぁ』と言っておったな」

「えええ? 愛の神? そんな特化した感じの神様がいるんですか? え? じゃぁデュー様はなんの神様……? あ、ところで、その話し方からして、愛の神様って女性ですか? 女神様もいるんですね!」

「いや、あれは、自分でそう名乗っているだけだ。あそこで生きる者達が、彼の者をそう呼ぶから、という理由で。それに、アレは我らの中でも変わり者で、奇妙な口調をしているが……そもそも我らに姿形などない。性別があるわけなかろう?」



 間違った知識を教えるわけにはいかないからな。きちんと訂正をしておかねば。

 む? 愛し子が何やら不思議そうな顔をしておるな?



「え……? じゃぁ、デュー様も、性別ない……?」

「ないな。以前説明したように、我のこの姿は、愛し子が望んだように変わる。獣だったり魚だったりしたこともある。少し前に見せなかったか?」

「見ました……」



 何やら肩を落としておるな。

 どうかしたのだろうか?

 しばらく肩を落としていた愛し子だが、すぐに、パッと顔を上げた。

「オッケー、関係ない関係ない。私が望んだんだからちゃんと男の人だし? うん、問題ない問題ない。なんかもーずっと神様は男の人だと思ってたもんね」

 何やら謎の呟きを残して。



「えーっと、愛し子がいなければ会いに行ったりもするんですか?」

「まぁ稀にな。基本的に我らは他領に関心がない。愛し子の幸せは、己の力で完結できるよう、どこの神も自領を治めておる。人は、まぁ、何故かない物をねだり、他国間を行き来するがな」

 これがまた不思議なことだ。

 衣食住、全てが揃うようにどの神も己の領域を創ってある。にもかかわらず、何故か他領の物を欲しがるのだ。

 何故だ?

 別にそれらがなくとも、必要なものは揃っているではないか。というか、姿形が多少違うだけで、同じものを、何故求めるのだ?

 人という生き物は実に不思議なものだな。



「どういう時に会いに行くんですか?」

「神が、自領を治めることを止め、そこに住まう者が他領に迷惑をかけ始めたら、諫めに行くこともある。それでも変わりがなければ、全神でその神を討つ」

「ぜ、全神で?」

「うむ。何しろ、他領では神は力を使えない。それでは諌める事も出来なかろう? だから、力を使えるように他の神々と力を合わせるのだ。遠い地域の神は、神力を送り、近しいところの神はそれを受け取り、力の底上げをし、他領にて力を振るう。つまり、正確にはその場に行くのは数名の神で、他の神はその神に力を渡しているだけだな」

「……超元○玉かな?」



 うん?

 何の話だろうか?



「えっと、そういうこと、あったんですか?」

「あったな。もうずいぶん昔の事だが」

「神様がいなくなった地域はどうなるんですか?」

「隣接する神たちが等分に分け合い、自領とする」

「へぇ、じゃぁ、隣接する神様はお得なんですね!」

「得? 何故だ?」

「え? だって、領土が増えるんですよね?」

「? 面倒が増えるだけだろう?」

 互いに何を言ってるんだと、首を傾げあう。



 不思議な事を言う、としか思えないな。

 確かに人は、何故だが己の治める領土を増やしたがる。だが、神が認めていない以上、そのような事をすれば即座に神罰が下ることになる。そして、神はそのようなこと、けして認めない。

 そもそも愛し子を持つ神は愛し子さえ在れば良い。その他の思惑なんぞどうでも良い。そんな我らにとって、広い領域など無意味。むしろ愛し子だけに使いたい力を、割かねばならない分、不要の長物ともいえるな。



 愛し子を持たぬ神は、面倒臭いが口癖の者達ばかりで、自領で力を使わねばならない範囲を極端に狭くしておるしな。というか、人が住まない、住めない、望まない、不毛な土地を創り、寝ている事が多い。起きているのは稀だな。

 あの愛の神のように、自領の生き物全てを愛し子と呼ぶ者も、他に数名いるが、あの変わり者たちでさえ、自領だけで十分だと言っておるしな。いや、あれらの場合は、無駄に力を使う範囲が多すぎるから、これ以上は管理しきれない、とも言えるな。



 あの時も、我の領域が隣接していなくて良かったな。

 まったく、自領が増えるなど煩わしいだけではないか。

 他国に迷惑をかけると存在を消される。残った者達は欲しくもない領域を増やされる。

 ああ、忌々しい出来事よ。



 あれを教訓に、我らは規則を作った。

 己の領域に生み出した者達が、他領に迷惑をかけることを徹底的に禁ずる規則だ。面倒事は自領だけで十分だからな。


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