16 責任を持てぬ民
何故?
どうして?
ぐるぐると疑問がわき上がる。
悪いのはあの魔女だ。
だから皆で断罪してやった。
魔女はいくら傷つけてもすぐに癒える。
化け物だ。
あんな化け物が、自分勝手な事を言って聖女様を殺したから、だから神様が怒った。
でも、どうしてそれに俺達が巻き込まれなければならない?
俺達は悪くないじゃないか。
悪いのは魔女だ!
だからあの魔女を断罪した。なのに神様の怒りは解けない。
日照りが続く。
もう、だめだ。
水も食料も何も残っていない。
逃げようと思って国境へ向かった。そしたら突然水が押し寄せた。
あの時を思い出し、俺たちはすぐさま逃げた。逃げ遅れた何人かが水に飲まれた。
水は、国境をふさぐようにその場にとどまっているから、あれは間違いなく神様のお力だ。
神様は許さない。
俺達が逃げることを。
何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ?
俺達は悪くないのに。
何故許されない?
もっと魔女を痛めつけないと駄目なのか?
もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと。
『己が罪を自覚できない。だからこそ、お前たちは許されぬ』
神様!
神様だ!
神様の声が聞こえた!
やはり魔女を痛めつけ足りなかったんだ!
やっと……やっと! 神様が来てくれた!
これで、俺達は救われるんだ!
『そんなわけなかろう? 我はお前たちの罪を裁きに来た』
何故!?
俺達は何もしていない!
悪いのは全てあの魔女だ!
必死に訴える。
そうだ、悪いのはあの魔女だ。俺達は悪くない。だって俺達は騙されただけなんだから。
『お前たちは、我が愛し子を罵り、処刑場へ行く手助けをした。お前たちの声が大きく、愛し子は、無実の証明さえさせてもらえなかった。全て、証拠を揃えていたのにな』
そんな!
俺達はあの魔女に騙されただけだ!
それにそんなことを言うなら、何故俺達だけなんだ!?
水に飲まれて死んだ奴らだって、同じようにしていた!
あいつらは簡単に死んで、俺達は今なお苦しんでいるのはおかしい。
『この国には、口を開くのも億劫になるほどの愚かな者しかいないのか?』
呆れたような声。
何故?
事実しか言っていないのに、何故神様はそんなにうんざりしたように言うんだ?
だって、俺達は魔女に騙されただけ。
何も悪くないじゃないか。
『ああ、それだけの奴らは、確かに水に飲まれて死んだな。だが、生き残ったお前たちは、あの場所で、我が愛し子に石を投げた者達ばかりだ』
そんな!
たったそれだけで!?
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故!?
たったそれだけしか違いがないのに、何故こんなに苦しみに差がある!?
おかしいじゃないか!
『神を信じなかった者、神を信じなかったうえに神の像を破壊した者。どちらの罪がより重いかも理解できないのか?』
でも、それだけしか差はない!
それでこれほどの苦しみの差はおかしい!
だいたい、俺達は騙されただけなんだから、慈悲があってもおかしくないじゃないか!
『慈悲? 散々お前たちの為に心砕いた我が愛し子を、容易く疑い、裏切り、罵り、石を投げた者に慈悲? そんなもの、必要あるまい』
何故だ!!!
確かに俺達はエスカリーテ様に世話になった! でも、エスカリーテ様は罪人になった!
俺達に政治的なものはわからない! わからないようにしていたのは王で、貴族で、俺達じゃない! だから、俺達にはエスカリーテ様の真実などわかりようはずがないじゃないか!
『だが、信じることはできたはずだ』
信じる!?
何を?
戦争を起こそうとした、悪魔の薬をばらまいた、人間を商品として売った、他にもたくさんの罪、その全てに証拠が揃って罪人となった者の、何を信じるんだ?
『お前たちの生活を救ったのは誰だ? 仕事がなく、盗みを働くしかなくなったものを救ったのは?』
静かな声が問う。
少し考え、すぐに答えは出た。
……エスカリーテ様だ……。
『貴族でありながら、話し合いの場を設け、お前たちの言葉に耳を傾け、真っ直ぐに答えたのは誰だ?』
続けて神様が問う。
あ、ああ……それも、エスカリーテ様だ……。
『老いた親を棄てなくて良くなったのは誰のおかげだ?』
……エスカリーテ様だった……。
『子を飢えさせなくて済んだのは誰のおかげだ?』
うぅ、う……エスカリーテ様、です……。
あ、あああ、ああ……俺達は、ずっとずっと、エスカリーテ様に助けられていた……。
『お前たちは、いつから感謝の念を持てない傲慢な愚か者になった?』
多分に呆れを含んだ声。
呆然とする。
わからない……。
わからないんだ……。
俺達は、いつから、エスカリーテ様への恩義を忘れていたんだ? あんなに、俺達の為に奔走してくれた。
あの細く小さな体で、酒場でのんだくれて暴れるような荒くれ相手でも、ピンと背筋を伸ばし、物怖じすることなく話を聞いてくれた。
王家を巻き込み、沢山の公共事業を立ち上げてくれた。そのおかげで、沢山の人間が職を得られた。
職に就く人間が増えれば、金が回るようになる。そうすれば国は潤い、豊かになった。十年前より、遥かに生活がしやすくなった……!
俺達は……
俺達は、なんてことを……!!
頭を抱える。
これ以上神様の声を聞きたくない。
俺達は悪くないんだ!
俺達は、俺達は騙されただけ。
俺達はわからなくて、わからないことは全部貴族や王が決めるんだ。
俺達はそれを受け入れるしかないんだ。
だって平民だから!
俺達の命なんて木の葉より軽い!
意味なんてない!
もしも俺達が異論を唱えたら、即刻捕まって、殺される!
『お前たちは、お前たちの耳目でみた愛し子の姿と噂の姿の差に、何故、疑問を持てなかった?』
わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない!!!!!!
俺達には学がない!
だから上が決めたらそうだと思ったんだ!
『慈悲を与えるに値しないな。知識があろうがなかろうが、お前たちは愛し子本人の人となりを知る機会を持っていた。それでなお、騙されたのなら、初めからお前たちは我が愛し子を、都合がよい存在、程度にしか認識しておらず、心からの感謝などしていなかったのだろうよ』
あ、ああああ……
『そうでなければ、平然と恩人に牙が剥けるか? 己が子を、親を、守ってくれたものを、処刑台へと送れたか? 喜んで、祭り気分で石を投げ込めたか?』
う、ああ……
俺達は……俺達は……
『なぁ、お前たちにかける慈悲は、必要か?』
ああああ……
エスカリーテ様……
あ、ああ……
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。
俺達は、上には逆らえなかったんだ……強い奴に従わなければ、生きていけない。だから、悪く、無いんだ……。
『ならば、人よりはるかに上位である神の決定に従うが良い』
神様の声は遠ざかった。
何度呼びかけても、もう答えはない。それが何を意味するのか、わからないわけがなくて、頭をかきむしる。
あ、あああ……
そんな……
そんな……
嫌だ……
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!!
死ぬのは、嫌だ!!
苦しいのは嫌だ!!
どうしてっ!
俺達は騙されただけだ!
俺達は従っただけだ!
それなのに、それなのに、どうして!!
エスカーリテ様、エスカリーテ様、助けてください!
エスカリーテ様、聖女なら、神様の愛し子なら、慈悲をください!
エスカリーテ様、エスカリーテ様、エスカリーテ様、エスカリーテ様、エスカリーテ様、エスカリーテ様、エスカリーテ様、エスカリーテ様、エスカリーテ様ああああああああああっ!!!!
先日頑張って某オタクの聖祭に参加してから体調が良くない……。
事前準備で熱中症は免れたけど、あの日から8度超えの熱が下がらない……。
いえ、もう一月以上7度5分前後の微熱が続いてるんですけど(・ω・;)
7度台の発熱だったら一年の大半がそうですので、平気なんですけど、8度超えると流石に辛いです><;
頑張って小説書きますが、次の更新遅れたらすみません><;