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15 閑話7 神様は愛し子を甘やかしたい



 デュー様、と愛し子の呼ぶ声がする。



 揺り籠の中から出て、動き回れるようになった愛し子。我の用意した衣服に着替え、我の手を引き、我の作った庭の中を散策する。

 まるで幼子のように何か見つけては駆け出し、覗き込み、我を呼ぶ。

 無邪気に微笑む姿が愛らしい。

 今までにいない愛し子だ。

 今までの愛し子は皆、我を敬い、一歩引いた立場を崩さなかった。敬服し、我が世話をやこうとしても、我にされるのは嫌がる、いや、恐縮する。そんな愛し子ばかりだった。それに比べ、この愛し子は……。

 我に名づけただけでなく、我に自分の名を呼ぶようにねだった。ユリ、と呼ぶたびに、はい、デュー様、と元気よく返事し、見上げる目。綺麗を集めて作った見た目なのに、随分と可愛らしく感じる。

 我に物怖じすることなく触れ、笑いかける。今までの愛し子は、こちらから語りかけねば黙して静かだったのに、この愛し子は暇さえあれば我に話しかけ、笑いかける。一時も止まっていられないのか、と思うほどだ。生き生きとして、何と愛おしいことよ。

 食事を摂る必要がなくとも、食事をし、一人は寂しいから、と我に同席を求める。所詮我の力の塊でしかない。食べたところで我に何かあるわけではないのだが、まぁ、愛し子が喜ぶから良いか。




「デュー様、見てください! 空を飛べるようになりました」

 ふよふよとほんの数センチ、浮いているだけなのだが……。うむ、まぁ本人がとても嬉しそうだから良いか。

 満面の笑みを浮かべて、宙を駆けてくる。

 折角宙に浮いているのに、足を動かすなど、浮いている意味はあるのだろうか?

 なかなか面白い事をする。

「ん? デュー様、どうしました?」

「いや……浮いているのに、走ってくる理由を聞いても良いか?」

「え!? あ! ええっと、あの、癖で……。ほ、ほら、ずっと足を使って移動していたから」

 真っ赤になって慌てておる。

 少し目が潤んでいるな。

 頬が赤くなる時に、こうして目が潤むのは凄く愛らしいと思う。そっと伏せられた瞼。長い睫毛が影を落とすのも良いな。

「なるほどな。しかし、動かす必要はない。少しずつ慣れるが良い」

「はい、デュー様」

 ぽす、と頭に手を乗せれば、途端に嬉しそうにはにかむ。


 表情がころころとよく変わる。

 今までの愛し子や、今生で下で生きている時も、このように表情に変化はなかった。貼り付けた微笑みか、我に粗相をせぬよう、緊張して強張らせてばかりだったな。それはそれで可愛らしかったが、このように表情が変わるのも良い。まぁ、結局何をしても愛し子が愛しい事にも、可愛らしいことにも変わりはない。




「あ、デュー様、それでですね、あっちに鳥がいたんですよ! すっごく綺麗なの。羽が緑色で、赤色のもあって、とにかく派手なんです。私、南国に行ったことがないんで初めて見ました。あーぁあ、日本にいたころは旅行とかできなかったからなー。仕事の疲れはゲームに癒してもらってたなぁ……」

「見たいものややりたいことがあるなら、遠慮せずに言うが良い。我にできることならなんでも叶えよう」

「ええ!? うーん、そうだなぁ、ペット飼いたい。明日を気にせず徹夜でゲームがしたい。太るの考えないでカロリー爆弾が食べたい。人間をダメにするソファーでこたつにくるまりたい。化粧とか、人目とか気にしないでジャージ生活したい。あと、旅行! 海行きたい、山行きたい、海外行きたい! あとそれから……」

 次々に紡がれる望み。

 だんだん調子が出てきたのか、それは途切れることはない。

 しかし……我が愛し子は随分と欲がない。





「我が愛し子、ユリよ」

「はっ!? はいっデュー様! ご、ごめんなさい、調子にノりました!」

 慌てて頭を下げる愛し子。それを軽く手で押さえて止める。

 うむ、こういう時、手足と言う物は良い物だと思うな。

「いや、ユリよ。そのようなことで良いのか? もっと我儘を言っても良いのだぞ? そなたも歴代愛し子も、欲がなさすぎる」

「えぇえええ……な、何この人、こういうのがスパダリってやつ? 甘やかされてダメになりそうなんですけどぉおお……」

「よくわからぬが、駄目になれば良いではないか」

「うぁあ、優しさが沁みるぅ……前世の会社の怒鳴り散らすだけのクソ上司とか、好みの男に甘く女に厳しい局ババァとか、嫌味ばっかの先輩とか、文句だらけの後輩とかばっかな世界から、子供を駒だと思う親とか、平然と裏切る婚約者とその仲間たちとかな世界だったから、優しさが身に染みるわぁあああ……言葉だけでもヤバいぃぃ」

「ど、どうした、愛し子! どこか痛いのか!?」

 突然愛し子が泣き出した。

 何があった!?

 この世界に愛し子を傷つけるような愚か者はいない筈なのに! しかし、現実、愛し子は泣いておる! いったいどういう事か? おのれ、我に気づかせずに愛し子を傷つけるとは……! どこぞの神の眷属か? いや、我が領域にて他神が力を振るうわけがない。




 それは、ないのだ。




 我以外、全神が集結しなければ、他領の神が我の領域で力を振るえることはないのだからな。そしてそれこそありえない。過去の忌まわしきことがあったから。あれから我らは決まりをつくり、それに則り行動しておる。簡単に破られることはないのだ。

 我の領域で、我は絶対的力を有している。それなのに、愛し子が泣いている。その事実に慌て、何が起こったのかわからぬまま、愛し子を慰め続けた。


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