表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/22

11 閑話5 神様と愛し子



 愛し子からの希望で、揺り籠の中に沢山のクッションを置く。そのクッションに背もたれ、ゆったりと半身を起して我を見る愛し子。

 うむ、信じられないほど愛らしいな。


「あの、守護神様って、お名前はあるんですか?」

「ないな。いつも愛し子の好きに呼んで良いと言うが、皆、神様か守護神様、と呼ぶな」

「ふーん? じゃぁ私がつけてもいいんですか?」



 なんと!? 我の名をつけてくれるのか!



 我々神にとって、愛し子が名をつける、というのは、一種のステータスよ。愛し子と想いを通じ合せている証でもある。

 今までの愛し子たちは、我を愛してはいたが、どちらかというと崇拝だったからな。名をつけるなど恐れ多い、とかしこまり、誰も名をつけてくれなんだ。敬われるのも悪くはないが、少し寂しくもあった。

 我が名づけを許すのも、名を呼ぶことを許すのも、全ては愛し子にだけ。

「勿論だとも」

「じゃぁ……んー……ディオス。ディオス様。ってどうですか? 愛称はデュー様かなぁ……」

「ディオス? デュー?」

「ええと、名前はディオス。で、親しい人が呼ぶのがデュー……」

「では我の名はデューだ。我の名を呼ぶのは愛し子だけ。我が許すのは愛し子だけなのだから、デューでいいのだろう?」

「はぇ!? あ、わ、私、だけ?」

 真っ赤になる愛し子。


 ……この、頬が赤らんだ顔も、実に可愛いな。


「そなただけだ。我は愛し子以外に我が名を呼ばれることを望まぬ。故に、そなたにも望んでほしくない。この名は、愛し子と、我だけのものでありたい。良いか?」

 ますます真っ赤になって、揺り籠の中に潜っていく愛し子。

 うむ、折角の可愛い顔が見えなくなった。少し残念だが、あのような態度も悪くない。いや、むしろ良いな。可愛い。


 潜った先から、くぐもった声が、諾の返事を返す。


 なんと愛らしい事か!

 なんだ、この生き物は! 我の心をこのように踊らせて、どうするのだ!?

 よし、わかったぞ! このように愛らしいそなたを傷つけた世界なんぞ、きっちりと真っ新にしてくるからな!

 しかしこれで新たな誓約ができる。



 『愛し子が名づけた我が名は、愛し子以外に呼ばれてはならない』



 これは素晴らしいな。

 ふふふ。たとえ愛し子にその気がなかったとしても、愛し子が諾の返事を返したのだ。最早覆せぬ。

 ああ、今日はなんと気分の良い日なのだろうか。




「ところで、我は主のことを何と呼べば良い? 前世の名か? それとも、そなたに混じった者の名か?」

「はぇ!? え? わ、私、え!?」

 がばっと顔を出し、目を丸くする愛し子。


 ん? 何を驚いている?

 我がそなたのことを知らぬわけがなかろう?


「お主は我が創った愛し子だが、前回転生する際に、愛し子自身が別の世界の魂から、記憶の一部を引きずって、取り込んでおる。正直、転生の時に気づいておったが、愛し子自らが行ったこと。そのまま放置した。希望があれば、分離もできるぞ」

「あ、待って、待ってください! 私、その混ざった方の意思が強いってか、まんまなので、私が消えちゃいそうで怖いから、嫌です!」

 それは違う、と我は思うのだがな。



 愛し子の魂は愛し子のまま。

 愛し子が『自分』だと思っているのは、あくまでも『記憶』なのだ。だがまぁ、人とは不思議なもので、『記憶』があると、それが『自分』だと認識する。記憶の『過去の自分』と、新しく生まれ変わった『今の自分』は別物だ、と認識できない者が多いのだろうな。我は我以外の何者にもなれぬからわからぬ感覚だが……しかし、だからこそ、歴代の愛し子は転生の際、己の記憶を引き継ぎたがらない。『新しい自分』になるために。


 何故愛し子がそんなことをしたかは、我にはわからぬが、想像するに、愛し子も偶には変化を求めたのだろう。初めから決まった性格。その中で送る人生、というものを楽しんでみたかったのかもしれない。いや、もしかしたら違うのかもな。あの転生先は愛し子の希望だしな。



 それにしても、なかなか面白い記憶を引きずってきたが、結局愛し子の本質はなにも変わっておらなんだ。我の愛しい子でしかない。

 まぁ、愛し子が嫌だというのなら、我は何もせぬ。

「安心せよ。我は愛し子が望まぬことはせぬ」

「うわ、何それ、この人スパダリか何かかなぁ……? 何このイケメン、なんですけど……いや、イケ……メン……? イケ……? んん?」

 何やらぼそぼそと呟いて、首も傾げているな。

「どうした?」

「あっいえっナンデモナイデス!」

 ふるふると首を左右に振る。

 よくわからぬが、愛し子が良いなら良いだろう。


 ぽすぽすと頭を撫でる。

「あの、ここなら守護……デュー様って普通に触れるんですか?」

「うん?」

「あ、えっと、ほら! 小さい頃デュー様に触ろうとしたら、すり抜けたじゃないですか。それ以外で触れた場所って牢の中で、デュー様からだけだったんで……」

「ああ、なるほど。ここなら触れることができるぞ。下にいるときは、我が力で造り出した分身体故、基本的に触れることはできない。あのときも、触れてはいない。主がそのように感じただけだ」

「? 本体は下に行かないんですか?」

「行かんな。降臨したら木端共に我の姿が見えてしまう。この姿を何故木端共に見せねばならぬのだ。そもそも、我には姿などない。これは愛し子が、姿のない者とは会話がしづらい、と言ったから、『愛し子が思い描く我の姿』が反映されている状態なのだ」

「ええええ……?」

 なんだ? 何やら不服そうだな?

 何故だ?

 この姿を望んだのは愛し子だろう?

 何が悪いのか、全くわからぬのだが……どうすれば良い? 折角愛し子が傍にいるのに、がっかりされるのは嫌だぞ。





「ちょっ……なんでもっとちゃんと好みのイケメン想像しなかった……!」




 何やら打ちひしがれておるな。

 どうやら我の見た目に不服があるようだ。

 さてどうしたものか。

「今から変えるか?」

「い、いえ、えーっと、大丈夫。大丈夫です。うん、はい。今から急に変わっても慣れないと思いますし」

「そうか? 別に我はかまわぬぞ? 今までだって、人ではなく、獣の姿を思い浮かべた者もいたし、我の領域が内陸地のせいか、海への強い憧れから、巨大な魚を想像した者もおった」

「それは……ちょっと見てみたいかも」

 ふにゃり、とふやけたように笑う顔。


 うむ。

 可愛らしいことだ。

 希望とあらば今度、歴代の姿でも見せてみようか。それで愛し子が喜ぶのなら、いくらでも見せよう。

 少しずつ、少しずつ、ここで癒されていくが良い。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ