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国際公営鉄道(仮題)  作者: 急行 千鳥
列車強盗編
9/23

8.

都会に引っ越してひと月。

やっぱ都会って暮らしやすい!

8.

クライス共和国ハスティナ県ハスティナ市

人口800万を超える巨大都市である。

いち早く鉄道の有用性に注目し、“メトロ”という名の都市交通鉄道、“トラム”という路面鉄道を開業させ、都市通勤圏を拡大。主要産業であった工業も巨大な貨物駅“ハスティナ貨物ターミナル”から延びる貨物線のおかげで大増産が可能となり、急成長した都市である。


その都市の歓楽街。

そこでせっかくの酒場だというのに、しずかに酒を飲んでいる二人の男がいた。

一人は俺、エトムント。C55-12機関士。

もう一人はオーヌシ。DRG03-261機関士。

「どうもきな臭いな・・・」

黒エールを飲みながら事の顛末を聞いたオーヌシ師匠はつぶやいた。

「やはり、ですか・・・。」

「ああ・・・。

知っての通り、公営鉄道ってのは基本的に“政治的中立”だからこそ、国際社会からなんとなく独立性があったんじゃが、その前提を崩すような話じゃな。」

「だからこそ、予想外だったんですけどね・・・」

俺もソーセージ盛り合わせをつまむ。

「・・・この件については、他言無用じゃぞ。下手に口にせんほうがええ。」

「わかってます。」

「少し、わしも探りを入れてみよう。何かあったら知らせようと思うんじゃが、これからどうするんじゃ?」

「2日ぶっ通しで運転してましたし、数日休んでからしばらくはこの辺をウロウロしようかと。」

「おめぇの“ウロウロ”は範囲が広すぎるからのぉ。あてにならへんわぃ。

親子そろって似たもん同士じゃのう・・・」

あきれながらオーヌシ師匠は黒エールを飲み干した。




翌日

公営鉄道系列のホテルで目が覚めた俺は、適当な朝食をとって町へ出る。

ハスティナ市は工業都市というだけあって、工作機械市場なるものまで存在する。ここでは機械部品や完成品の機械など、様々なものが雑多に売られている。

「前照灯のネジと、ついでに電球も買い込んで・・・あ、このラチェットレンチいいなぁ・・・」

普段から使う者としては目移りしてしまうのは仕方のないことである。


一通り買い込むとC55-12へ荷物を置き、ついでにハスティナ貨物ターミナルへ行く。

“機関士用”の窓口へ行くと、かなり込み合っていた。

窓口の数も多いのだが、機関士の数も多い。

「さすがは鉄道で発展した町ってとこか。」

ふと外を見ても種類雑多な機関車がそろっていた。


余談だが、機関車は地域性が出る。

理由は単純で、世界中で“連結器”や“線路幅”は統一されているが、それ以外は民間会社がその基準に合うように機関車を作るからだ。

そのため、ここら辺では“DRG社”が多い。ほかには“SNCF”や“SBB”といった会社があるが、ここいら一帯は圧倒的にDRG社だ。


ちなみにC55-12も正式な表記は“JGR C55-12”である。


やっと番号札で呼ばれて、窓口へ行くことができた。

「あまり遠くに行かない仕事が欲しいんだが。」

俺は登録証を置いた。

「珍しい機関車ですね・・・。えっと・・・。

期間はどのくらいがいいですか?」

「日帰りにしたい。」

「う~ん・・・そうなると旅客のほうがお勧めですね。貨物も日帰りが後にはありますが、今は貨客混合か旅客のほうが報酬的によろしいかと。」

「いや、個人事業主なんで、車掌とかいないんですよ。客車も持ってないし。」

「ただいまでしたら、客車と車掌は無料でレンタルできるキャンペーンを行っております。」

その後も受付のお姉さんはしつこく旅客を勧めてきた。

結局、何も仕事を決めずに宿に戻った。


このお姉さんのしつこさの原因は、新聞が教えてくれた。

“ずさん管理!ナルバ川支流ニベ川ダム決壊!”

“土砂がナルバ川本流まで侵入。河川船舶と水産業に大ダメージ”


つまり、これで貨物特需が生まれ、余分な機関車がナルバ川沿いの路線へ向け旅立ってしまうのを恐れたのだろう。または、旅立ってしまったか。

確かに生産物も鉄道輸送しているハスティナ市だが、毎日必要な旅客通勤列車がやられるほうがダメージはでかい・・・。

いや待て。

すでに多少の生産物の滞りを無視しなければならないレベルでやばいのか・・・?


結局、翌日、報酬がよかったので短距離旅客列車の依頼を受けた。


「本日車掌を務めさせていただきます、エイラといいます!よ、よろしくお願いします!」

「エトムントです。よろしく。」

明らかに年下の車掌が来た。

まぁ、無料キャンペーンだ。文句言うなってやつか。


青い車掌服にケピ帽、髪は邪魔にならないようポニーテールにしてある。

化粧は薄め。上着のポケットが少し膨らんでいるのは予備の手袋か。

一応、初心者ではないようだ。


「こちらが今日けん引する客車の詳細になります。あと20分ほどで信号係が来る予定ですけど、よろしいでしょうか。」

「ん。問題ないよ。」

“客車の詳細”なんて初めてもらった。ハスティナではこういうものなのだろうか?


「ほぅ。よくできてるね・・・」

思わず“客車の詳細”を見て感想が出た。

例えば“客車5両”といっても重さが全く違ったり、ひどいときにはブレーキ装置が一部の客車にしかついていない、なんてこともある。

これによれば、全車貫通ブレーキ付き、車検は生きてる。問題ない。


「あ、ありがとうございます!これ、私の手造りでして・・・」

驚いた。

こりゃ、なかなかいい車掌かもしれない。


朝6:25

汽笛一声、C55-12はゆっくりハスティナ客車区で客車を連結し、ハスティナ駅へ侵入した。










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