19.
花粉症ってつらいですよね。
19.
「エト!起きて!」
突然ネルにたたき起こされた。
「何事だ!?」
「3号車で警察とアイシャ様が押し問答しています!」
「なんでだよ姉さん!」
そういいながらとりあえず制帽をかぶって制服の上着をつかんだまま、7号車から飛び降りた。
「あけろ!そこに逃げ込んだのはわかっている!」
3号車のドアをバンバンたたく軍服の一団がいた。
「そこ!何をやっている!その車両は外交特権がかかっているのだぞ!」
俺は大声で怒鳴りながら駆け付けた。
「この列車の責任者か?」
ドアをたたいていた一団から一人前に出てきた。
「機関士のエトムントだ。この列車の責任者でもある。」
「騒がしくしたことは謝罪するよ。
我々はマイネス諸侯連邦広域警察本部の刑事部のものだ。私はハーマイン警察少佐だ。」
「要件は?」
「先ほど不審者の通報があったので、職務質問していたらそれらしき人物がこの車両に逃げ込んだのだ。」
「容姿は?」
「長身・・・身長180cm以上の男性が2名、女性が1名、それとは別に小柄の女性が1名だそうだ。」
「乗客はすべて把握しているつもりですが、該当しそうな乗客に心当たりはありませんね。特に、この列車には私が把握している限りは、乗っている女性は1名です。」
「そうですか・・・。」
「次は公営鉄道公安を通してから来てください。それでしたら外交特権以外の部分の捜査はできるでしょう。」
「・・・そうですね。それでは、出直すとしましょう。」
こうして軍服の一団は帰っていった。
そして俺は、外交特権とか言った舌の根も乾かないうちに、3号車のドアを開けて乗り込んだ。
3号車のデッキでは、まだアイシャ姉さん、大尉さんともう一人、そして全く見覚えのない金髪少女が息を切らしていた。
「さて姉さん、説明してもらおうか。」
「いや、そのね、外交特権というか軍事機密というか・・・」
「さっきの連中、マイネス諸侯連邦広域警察本部とか言っていたが、裏ではどこかの諜報部と二足の草鞋な感じがした。あと数日すれば正式な令状をもって公営鉄道公安官と一緒に乗り込んでくるぞ。
その時にどこまでかばえるかは姉さんの返答しだいだ。」
「よい。」
そういって少女はアイシャ姉さんを制した。
「わらわはフルカ皇国皇帝の娘、アイリーナ・フルカと申す。」
おや、皇族だったか。
少女のくせに、やけに古風な話し方をするなぁ。
「事前にいただいた乗客名簿には無い名前ですね。」
「さすがは“ながれもの”といったところか。わが国民なら皇族と名乗っただけですぐにひれ伏すものを。」
「一応は国民ですけどね。数年ぶりにフルカに立ち寄ったもので。あまりフルカ皇国国民としての意識はないですね。不正乗車様。」
元は国民どころか貴族家なのだが、機関士のことを“ながれもの”なんて揶揄する奴には敬意を持つつもりはない。
「それで、国際公営鉄道規則にのっとって、乗客名簿にないから降車命令をしていいのか?アイシャ姉さん」
「・・・それはやめてください。」
「のう、ながれものよ。」
「せめて機関士と呼んでいただけませんかね。」
「今受けておる依頼内容と報酬は?」
「アイシャ姉さんとその部下、この乗客名簿にある人員のアダミーシン大帝駅までの送迎。
報酬は80万リョウ。」
「ほぅ、それなりじゃな。では追加で100万リエンほどだそう。公営鉄道通貨にすると・・・60万リョウ前後かの。
わらわをアダミーシン大帝駅まで乗せて行ってくれ。」
「公営鉄道を通さない仕事は不払いが多いんです。半額は前金で支払う必要がありますし、そもそも今は依頼を遂行中です。この依頼が終わらないと次を受ける気はないですが。」
ちらりとアイシャ姉さんを見る。
「お願いだから!
同行させてあげてください!」
もうアイシャ姉さんは涙目だ。
「・・・特別に許可します。ただし、報酬の件とここまでの無断乗車の件はお忘れなく。」
そう言い放って俺は7号車へ戻った。
「さすがにヒヤヒヤしました。」
大きくため息をつきながらヨルクが椅子に腰かけた。
「ヨルクはフルカ皇国に長く住んでいたし、長く執事としてミロネス侯爵家に仕えてきたからね。そう思うのも仕方ないかもしれないけど、慣れたほうがいいよ。
国際公営鉄道の範囲内で、国際公営鉄道の関係者が貴族の云々で殺されたり、裁かれたりすることは基本的にないから。
一度公営鉄道にちょっかい出した某国王族がいたんだけど、その国の国境線近くで逮捕して、その国の仮想敵国の鉄道公安官事務所で交流したこともあるらしい。その王族は最終的には自分の国に帰れたけど、気が気でなかっただろうね。」
「結構えげつないですね・・・」
ヨルクがドン引きしていると、ネルが紅茶を持ってきてくれた。
「お休み中起こしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「いや、全然。
こういうのは俺の担当でしょ。」
「・・・ご立派な機関士になられましたね。
ネルは少し感動しました。」
いや、感動したからってわざわざ涙拭く真似しなくていいから。
「それで、どうされます?あの生意気少女」
切り替え早いな。
「乗せていくしかないでしょ。俺も馬鹿じゃないから本来の目的はあのあ・・・アイ・・・なんだっけ」
「アイリーナ・フルカ様です。」
ヨルクが補足する。
「そうだ、アイリーナ様をアダミーシン大帝駅へおくくり届けるのが本当の目的だろう。
ただなぁ・・・」
「何か不安なことが?」
「皇族、お忍び、他国の組み合わせといえば?」
ネルもヨルクも、口には出さないが微妙そうな顔をしていた。




