18.
どうも、毎度お待たせしております急行 千鳥です。
社会人ってやっぱり忙しいです。
そろそろ私も年老いて、腰が痛くなってきました。
18.
大変こっぱずかしい入国審査を終えて、C55-12率いる列車はマイネス諸侯連邦に入国した。
マイネス諸侯連邦は複数の都市国家の集合体で、各都市の市長が国会議員となり、国家議会が国を取り仕切る。軍事力はお世辞にも強大とは言えず、むしろ隣にこの列車の行き先でもあるライーズ連邦なんていう強大国家には到底立ち向かうことのできない小国家だ。
まぁ、たとえマイネス諸侯連邦が挙国一致ですべてを犠牲にして富国強兵したとしたとしても、通常期のライーズ連邦軍にすら勝てないだろう。なにせ国土の広さと人の多さが違う。
マイネス諸侯連邦が小さいのもあるが、ライーズ連邦が大きすぎるのだ。
リリリン、リリリンと運転台にベルが響く。
客車の車掌室との車内電話だ。
前を見たまま手探りで受話器を取ると、相手はヨルクだった。
“アイシャ様より、この先のオオソコ駅で停車してほしいとご要望がありました。”
「はぁ・・・まぁいいけど。できればオオソコじゃないくてバンダゾコにしたいんだけどなぁ・・・元々バンダゾコで補給する予定だったし。」
“その旨もお伝えしましたが、オオソコで補給してほしいとのことで・・・”
「了解。じゃあオオソコで補給しよう。連絡筒を用意して。」
“連絡筒とは・・・?”
「あー、ヨルクには教えてなかったか。ネルに聞いてくれないか」
“聞こえていますよ。”
通話にネルが入ってきた。客車が本体であるネルにとっては、車内電話なんて別に受話器を取らなくても参加できるしな。
“オオソコでの停車と留置線確保の連絡ですね。留置線のご希望はありますか?”
「公営にしよう。オオソコは停車したことないから民間の留置線は全く知らないし。
ついでにヨルクに連絡筒のやり方教えといて」
“わかりました。”
連絡筒とは、文字通り筒だ。学校の卒業証書を入れるような筒を想像してもらえば、そこから豪華さをなくせば似たようなものだ。筒の中に要件を記した連絡文書を入れて、有人駅を通過するときに駅舎めがけて投げれば駅員がその先の信号場などに連絡してくれる便利なものだ。
ちなみに連絡筒は公営鉄道指定品を使用せねばならず、消耗品だ。公営鉄道は駅舎に投げられた使用済みの連絡筒をそのまま販売するので丸儲けである。
「にしても、なんでオオソコ駅なんだ?60km先のバンダゾコのほうが町も大きいし、いろんなものが手に入りやすいのにな・・・」
マイネス諸侯連邦 オオソコ市
オオソコ駅ホームから信号係が乗り込んで、留置線へ案内された。
まだ若い信号係にチップを渡し、C55-12から離れる。
「火は落とさないようにしてくれよ」
「わかったぜ!」
チップを手にかかげながら走り去っていく少年。
「誰ぞが“職場の年齢層を見れば経済状況から付近の政情までわかる”なんて言ってたがなぁ・・・。」
どうみても10歳そこらの信号係を見ながら、思わずつぶやいた。
外交特権となっている3号車へ向かう。
「すみません。ここはちょっと・・・。通り抜けですか?」
3号車デッキで陸軍兵に進路をふさがれる。
「当列車の機関士です。出発時刻の伝達を姉さ・・・依頼人に行いたいのですが。」
「申し訳ありません。現在中佐殿はお休みになられておりまして。よろしければ私からお伝えいたしますが。」
「はぁ・・・」
たった1時間前に停車駅の要望を伝えたばかりなのに、もう寝るか?ふつう・・・
「では、補給の関係もありますので、発車は8時間後、今晩23時ごろを予定とお伝えください。」
「了解しました。」
大尉の階級章をつけた長身将校は軽く敬礼で答えた。
「ところで、ここからは私的な質問なのだが・・・この駅で買い物とかをしたいのだが、どうすればいい?」
「ああ、でしたら職員通路を通ることになるので、車掌までお申し付けください。
お立場もありますので、改札を出るのはおやめください。もし何か必要であれば、補給物資と一緒に発注しますので、30分以内にお申し付けください。」
「承知した。
ちょっといいかな」
俺の方に腕を回し、大尉は俺を2号車のデッキへ連れて行った。
「その・・・な。
到着まであと3日もかかるわけだろ。
こう、男のしての・・・な。上官が女性なのもあって、その辺の配慮が少なくてな。」
「あ~・・・(察し)」
「私は我慢できても、若い部下は正直そろそろやばい。しかも到着後は護衛でひと時も気を抜けないからな。」
盛りすぎだろ部下。まだ発車して2日目だぞ。
たしかに1日目の終わりに停車したカタカ操車場は山の中だからそういうのは全く期待できなかったが。
「了解です。こういうのは駅によって異なりますので、ちょっと調べてきます。くれぐれも無策に改札口を突破するなんてことは考えないように。公営鉄道公安官に逮捕された場合、どうにもなりませんからね。」
「・・・感謝する」
まったく、軍の将校っていうのも大変だな・・・
国際公営鉄道というのは、この世界で雄一のほぼ全ての国にかかわる組織である。つまり、言い換えれば世界最大の組織、といっても過言ではない。その分、末端ともなると監視の目が行き届いているとは限らないのだ。
それっぽい職員を見つけ出し、公営鉄道公安官に感づかれない職員通路を教わるのは意外と簡単だった。まぁ、田舎だからというのもあるが。
4号車の食堂車で軽食を食べていた大尉殿を見つけて、こっそり教えてやる。
「ありがとう。感謝する。」
「ただし、乗り遅れても私は知りません。」
「・・・了解した」
7号車
7号車は発電室と職員仮眠室、荷物室というか補給物資を置く倉庫となっている。
長時間停車に伴い、俺だけでなくネルとヨルクも集まっていた。
「お疲れ様です。坊ちゃま。」
「ヨルク、エトムント機関士と呼んでくれよ。」
「おっと、これは失礼しました。お茶でよろしいですかな。」
「お願いします。」
「エト坊ちゃま
補給物資に関しては発注を終えました。
公営鉄道の業者を通したので、仲介料にそれなりにとられましたが。」
そういってネルが領収書を渡してくる。
「仲介料に4割かよ・・・。相変わらずぼったくるなぁ・・・」
まぁ、今回は払いは良いし、下手な業者を使って品質の低い食料品なんて寄こされたら論外だし。
公営鉄道に認定を受けている業者はそこらへんがしっかりしているので、値段が高いうえに公営鉄道が仲介料を持って行っても利用者は多いのだ。
「それよりも大丈夫なのですか?今回のお客様、そうとう厄介なことになりそうですが・・・。」
「しかたないよ。さすがに断れなかったんだよね。
この仕事が終わったら遠くへ逃げることにするよ。」
「できれば連れて行っていただきたいですけどね・・・。
私はミロネス家の所有物。そうはいかないのでしょうね~・・・」
ネルが天井を見上げながらつぶやく。
「私も、これが終わればまた家に帰るだけですね。
家といっても、何もないのですが。」
「ネルとヨルクがいれば、客車を使って旅客専門でいくのも悪くないかもなぁ。」
疲れからか、頭が少しボーっとする。そのせいかありえない理想を語ってしまった。
「では、少し休みます。補給は申し訳ないけどネルに任せていいかな?」
「もちろんですエト坊ちゃま。ゆっくりお休みください。」
俺は薄い壁で区切られただけの乗務員仮眠室でベッドにダイブした。




