15.
お待たせしました。仕事が忙しくなかなか執筆できない急行 千鳥です。
まぁ、海外の鉄道ゲームにはまっていたのも執筆が遅くなった原因の一つなのですが・・・
サクセルン市近郊
かつては炭鉱町として栄えた町、オスロン。
サクセルン中心部からオスロンまでの区間は長い長い石炭列車がひっきりなしに走っていたが、それも昔の話。今はオスロンの温泉を目的にした観光客を運ぶ列車しか走らない。
が、そんな路線を複複々線(つまりは6線)にしてしまったため、せいぜい複線分しか列車需要のないサクセルン~オスロンの区間は線路を持て余すこととなった。
そこに地元公営鉄道鉄道管理局が目をつけ、鉄道産業が盛んなサクセルンで修理、製造した機関車の試験線としてお勧めし始めた。
シュシュシュシュシュシュシュシュ
シリンダーに激しく蒸気が出入りし、力強く3軸の動輪を回す。
多少の振動はあるが、特に異常振動はなく、C55-12は快調にすっ飛ばす。
「どうだい!?」
バルデルさんが大声で俺に声をかけてきた。
「最高っす!蒸気の調節が今までよりしやすくなったような気がします!」
「そりゃあそうだ!自動給炭機は完全新調したからなぁ!位置調整も完璧だから罐の中にバランスよく石炭が給炭されるはずだ!」
蒸気機関車の罐は機種によってサイズが千差万別で、さらにその熱が伝わる煙管と呼ばれる水を温めて蒸気を作るところの形状サイズも千差万別である。そのため、機種によって罐のどの部分にどのくらい石炭があれば燃焼効率が最高か、というのは各機種ごとに異なるのだ。
自動給炭機自体は普通に売られているものではあるが、取り付け、特に最高の燃焼効率を引き出すための微調整は、職人技である。
プシュゥゥゥゥ・・・
「ふいー」
俺もC55-12も満足そうにバルデル工房に戻ったのであった。
むろん、試験走行結果は良好だ。
「んじゃ、兄様の依頼を受けるしかないか・・・」
フルカ皇国外務省の公印入りの依頼書と支払保証書を見ながら俺は少しうんざりした。
3日後
「おはようございます。坊ちゃま」
依頼開始日。バルデル工房に迎えをやる。と聞いていたので蒸気を上げて待っていたら、ヨルクがやってきた。
「ヨルク!?」
「ええ、この度車掌を務めます、ヨルクです。」
「ええ・・・実家の仕事辞めたんじゃ・・・」
「ローベルト様たっての願いで、車掌としての依頼を受けまして・・・。」
いくらローベルト兄様とはいえこれはひどい。一度やめた人間を無理に使うとは・・・。
だが、ヨルクなら気心知れた仲である。能力は高いし安心はできる。
「よろしく、ヨルク。トランク預かるよ」
そういってヨルクのトランクを運転台に入れる。
「いえいえ坊ちゃま、そこまでしていただかなくとも・・・」
「遠慮しないで。車掌ができるってことは資格取得のときに学んだと思うけど、運転士が指揮官だから。ヨルクももう年なんだし、俺ももうミロネス家から家出した身だ。気軽にエトって呼んでよ。」
「・・・そうですな。考え直してみれば私ももう執事ではないのでしたな。では改めて、エト機関士、よろしくお願いいたします。」
「よろしく。ヨルク車掌長」
「じゃあな。今度は撃たれるなよ。」
バルデルさんが見送りに来てくれた。
「善処するよ。」
当日になっても説明のない詳細と、やたら高い報酬に不安になりながらもC55-12はサクセルン市内線へゆっくり走りだしていった。
サクセルン中央駅併設の留置線
ヨルク車掌に案内されるがまま留置線に入ると、そこには7両の客車が留置してあった。
少々古く、形式は異なるが茶色に白帯をまいたデザインで統一されている。
俺自身大好きだった、フルカ皇国侯爵、ミロネス家所有の客車だ。
世界的にも、富豪や権力者や政治家などはたいてい客車を所有しているものだ。さらに大物だと、機関車や機関士も所有している。そういう雇われ機関士は多少不自由だが、安定した収入と居場所を持つことができる。
「お久しぶりです。坊ちゃま。」
女性車掌が客車から降りてくる。
「お久しぶり。ネル。」
ネル。一見すると20代から30代くらいの女性車掌だが、そもそも人ではない。この世界でも少し珍しい、精霊なのだ。また、この客車そのものでもある。俗にいう付喪神みたいなもので・・・そういえばこの7両のうちどれが本体なんだ?
「大きくなられましたね。坊ちゃま」
「坊ちゃまはやめてくれ。家を飛び出した身だし・・・。」
「ご立派になられて・・・。できれば連れて行ってほしかった、というのは贅沢ですかね。」
「・・・いや、さすがにね。駆け出し機関士にそんな余裕は・・・」
「小さいころには必ず連れて行ってくださると」
「何年前の話!?」
というか、ネルは何歳だっけ?
俺が物心ついた時から・・・やめとこ。
「ヨルクもお久しぶりです。転職ですか?」
「まぁ、そのようなものです。この度は車掌としてお世話になります。」
「あのヨルク坊やが・・・大きくなりましたね。」
いやもう・・・何歳・・・。
ネルはC55-12に目線を向けた。
「JGR社、C55型の12号機。C55型の初期型ですね。いい機関車です。」
ネルは軽く炭水車をたたきながら言った。
「では、客車内で打ち合わせをしてもよろしいですか?」
「もちろん。お茶でも出しましょう。私の客車への立ち入りを許可・・・いえ、歓迎します。」
ネルは少し微笑みながらも淡々とした口調で言った。




