13.
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「ほぉ~、門の向こうはそうとうキナ臭いことになっとんじゃのぅ。」
バルデル工房の事務員室。
俺の近況報告を聞きながらバルデルさんはつぶやいた。
ちなみにオーヌシ師匠はバルデルさんに出された酒を一気飲みして速攻ダウン。だからあれだけ「ドワーフ用の酒であって、人間にはきつい」って言ったのに・・・。
「んで、ここいらはどうれす?バルデルさん。」
意識は比較的はっきりしているが、強い酒のせいで舌が回らない。
「まぁ、ぼちぼち、といったところかのぅ。ただ、わしら一般庶民にははっきりわからんが、どうも政治がキナ臭いような気がする。」
「キナ臭ぁ?」
「予想じゃがな。鉄の相場があがっておるのは間違いない。商売あがったりじゃ」
鉄の相場が上がる。
元貴族の俺にはバルデルさんの思うより強い不安がよぎった。
「電話、借りていいれすか?」
俺はその日のうちに昔馴染みに電話した。
ところで、この国の電話について話しておこう。
この国において電話は国営事業だ。各都市に複数の“電話局”があり、24時間体制で電話交換手が対応している。ただ、この世界・・・というか各国によって電話の信号形式などが違い、どの国でも(公営鉄道の鉄道電話を除く)電話は国内専用だ。
翌日
様々な機関車部品の乗った貨物列車がバルデル工房に到着するのを眺めていると、工業地帯には場違いな黒塗りの高級車が止まった。
「お久しぶりです。坊ちゃま。アイデル様よりご連絡は受けていたので、そろそろだとは思っておりました。」
「坊ちゃまはやめてよ・・・ヨルク」
運転席から降りてきたのは、俺が子供のころお世話になった執事、ヨルクだ。
長く俺の実家に仕えている。
俺はあらかじめ電話予約しておいたホテルの連絡先をバルデルさんに伝え、高級車に乗り込んだ。
「まだこんな車に乗っているってことは、実家で働いているのか。」
「いえ。昨年、息子に執事頭を譲りました。私ももういい年です。車は愛着があったもので、旦那様に無理を言って譲っていただきました。」
「あ~、クソ親父、生きてんの?」
「ええ、まだまたお元気そうで。お兄様方も今では出世なされて・・・」
「ほ~ん。」
俺は三男だ。上には兄二人、姉一人いるのだが、一番上の兄についてはほとんど覚えていない。歳の差が15くらいあったため、物心つく頃には“首都のエリート学校”へ進学していて、年二回くらいしか実家に帰ってこなかったからな。
二番目の兄や姉は・・・仲が悪かったわけではないけど、家出した身としては会うのはためらいが大きい。
「それでエト坊ちゃま。鉄の相場ですか?」
運転しながらヨルクがたずねてきた。
「・・・よくわかったな。」
「予想はしておりました。ご家族のこと以外で私をよんでお話ししたいことと言えば。」
「なるほど。相変わらずすごいよ。ヨルクは。」
ヨルクは助手席に置いてあった資料を俺に手渡した。
「隣国、ライーズ連邦が武器の買い付けを強化しています。もはや国内産、外国産問わずある程度数がそろうならそれでいい。といわんばかりの勢いです。」
資料には詳しい内訳が書いてある。
フルカ皇国ではその工業力を兵器産業にも割り振っている。しかし、戦争がなければ武器は不要であり、兵器産業は儲かりにくい。そのため、フルカ皇国は毎年上限量を設けて兵器の輸出を認めている。
フルカ皇国製の迫撃砲、小銃などが輸出されている。
他、ライーズ連邦は周辺諸国からも武器を買いあさっており、急速な重武装化が進んでいた。
「すごいな・・・フルカ皇国からの輸出だけでなく、ライーズ連邦の武器輸入の実態が丸わかりじゃないか・・・。どうやって手に入れたんだ?」
バックミラーからこちらを見るだけで、ヨルクは何も答えない。
「まぁいいや。それで?ライーズ連邦の矛先はどこになるんだ?まさかフルカか?」
「いえ、それはまだいまいちつかみ切れていないのが正直なところです。」
「そうか・・・」
まさか、ヨルクでもつかみきれないことがあったなんて・・・
「うん。ありがとう。しばらくライーズ連邦には近づかないでおくよ。」
「それが賢明かと。」
タイミングよく、俺が予約したホテルの車寄せで停車する。
「俺、行き先言ったっけ?」
ヨルクはニコリとしてドアを開けてくれるだけだ。
「・・・ほんと、ヨルクと同じ年になってもヨルクに勝てる気はしないよ。」
「おほめにあずかり光栄です。また、家を出られた後も私を頼ってくださり、大変光栄に思います。また何かありましたら、次からはこちらの電話番号へご連絡ください。」
「ありがとう。」
走り去る黒塗り高級車を見ながら思った。
相変わらず、“仕事中毒”だなぁ・・・。
俺はさっさとチェックインをすまし、ホテルの部屋でベッドで大の字になったのであった。




