12.
12.
「この辺だと、フルカ皇国まで行かないと修理できないだろ。なんたってボイラーまでやられちまったらな・・・。」
「フルカ皇国かぁ・・・」
実家に近づくから、戻りたくないんだけどなぁ・・・
行くしか、無いんだよなぁ・・・
ガタン!ガタン!ガタン!
周期的に異常振動がする。
DRG03-261に牽かれたC55-12は時速45㎞以下でゆっくり本線を走行していた。
おかげさまで信号場につくたびに側線に入れられ、後続の列車が不機嫌そうに俺たちを追い越していく。
峠を越え、リーメルド皇国からフルカ皇国に入る。
入港審査待ちをしていると、オーヌシ師匠がC55-12にやってきた。
「エト。この先のスクロール持ってないか?俺もこの先は行ったことがなくてな。なかったら今のうちに買ってこようと思うんだが。」
スクロール。路線情報が書かれた巻物だ。運転台にセットすると、車輪の回転によってビデオテープのように回って現在地を示すものだ。公営鉄道と違い初めて通る線路の多い個人事業者にとっては必需品だ。
線路には制限速度標識は設置されてはいるが、突然速度の低い制限速度が現れると列車の減速が間に合わない。最近では制限速度“予告”標識も設置が始まっているが、そもそもどの路線に導入されているのかを知るのにも結局スクロールを購入する必要がある。
本末転倒だ。
「オーヌシ師匠、運転変わってもらっていいですか?」
「んあ?まぁいいが・・・スクロールは?」
俺はズタボロになったスクロール保管庫を指さした。
「あー・・・。買うか?」
「いや、大丈夫です。
ここから先は、たいへん慣れているので。」
「ほい、身分証。ようこそフルカ皇国へ。」
入国審査官は俺らの身分証に日付入りのハンコを押すと、ろくに中身も見ずに返却した。
「適当なもんだな。」
オーヌシ師匠があきれ顔だ。
「仕方ないですよ。今、ここいらは平和ですからね。」
「ずいぶん詳しいんだな。ここいらに。」
「まぁ、出身国ですからね。」
「あ?お前、フルカ皇国出身だったんか?」
「言ってませんでしたっけ?」
「そもそも気にしたこともなかったな。」
「一応二年はあなたの下で修業していたんですけどね・・・」
意外とオーヌシ師匠とは、鉄道関連以外はあまり知り合っていなかったりする。
そもそもオーヌシ師匠を含め個人事業主、俗にいう“流れの機関車”は文字通り流れ者だ。そのため、あまり出身地や故郷というものに固執しない。
そしてまた、しばらく待たされた上で国境の信号場を発車し、通常半日で到着する距離を一日半かけてようやく目的地に到着した。
フルカ皇国第二の都市、サクセルン市
ここ、フルカ皇国周辺では一番鉄道産業が栄えている都市である。
石畳の通りの中央に線路が敷かれ、トラムと呼ばれる路面鉄道が都市を代表する公共交通機関だ。
このトラムの線路は都市の隅々にまで敷設され、工業地帯への貨物列車も多く運行されている。
そのトラムの線路を通り、都市の南西部。
ここが最終目的地だった。
「ほぉ~。まぁ~たずいぶん派手にやられたなぁ。戦場帰りか?」
中規模から小規模の鉄道車両工場が集う一角、“バルデル車両工場”で背の小さいおやじがC55-12を見て大声でつぶやいた。
オーヌシ師匠は俺に耳打ちする。
「なんだ?このやたら小さいおっさんは?ほんとに人間か?」
「あ~、ドワーフ族ですよ。バルデルさんは。」
「ドワーフ族って・・・ああ、俺らの世界にはあまりいないからな・・・。初めて見た。
そういえば異世界門の向こう側だった。ここ。」
オーヌシ師匠は「この世界は不思議がいっぱいだから、いちいち気にしたら負けか・・・。」とつぶやきながらDRG03-261へ戻っていった。
「さて、エトの小僧。まずは話し合いからはじめようか。」




